6:悪漢を撃退しよう

「お前、村に来た時からやけに井戸を気にしてるようだが、どういう了見だ? この村の生命線に一体何の用だよ」

「ぼ、僕は別に何も……?」

「何も無い訳あるかよ、やたらと井戸の周りうろつきやがってよ!」

「ひいっ」

 なぜかアンリが絡まれてる……。

 ヨミが魔族だって言うから、てっきり勇者のほうに絡んでくるかと思ったのに。

「しかも今度は勇者まで連れてきやがって。事と次第によってはタダじゃ済まさねえぞ!」

「は、離してよ!」

 あ、胸ぐら掴まれた。

 異世界にもあるんだ、胸ぐら。

「あ、あの。勇者様、見てないで止めて下さいよっ」

「え? ああ、うん」

 二人組の片割れに泣きつかれたが、見た目コワモテのやつに敬語を使われてな。違和感のほうが正直強い。

「ちょっとストップストップ。乱暴はやめようよ。ほら、俺に免じてさ」

「うるせえ! 勇者ごときがしゃしゃり出てくんじゃねえ!」

 ……ごときと来ましたよ。

 やっぱこいつ魔族で合ってんのかな。

 でも俺のハズレ能力でこの男を片付けるのも不可能なんだよな。

「ソラ。この者が魔族だった場合、人間に化けている今は戦闘能力が低いはずですよ。人への変身は大量の魔力を消費しますから、余力はかなり少ないはずです」

 余力がどうとか関係ないんだわ。

 こっちは今女に変身してるんだから腕力が無いんだよ。

 元の体だったらワンチャン殴り合いも考えるけど、女の細腕で戦うとか無理だから。

「では見逃しますか? 魔族は勇者を警戒はしますが、手をこまねいているとそのうち襲いかかってきますよ」

 え、そうなの。

 じゃあもしかして、俺が今無事なのって相手が様子見してるからってだけ?

「おそらくは」

 マジかよ。

「ちょっとソラさん、黙ってないでどうにかしてよ!」

「ええ……」

 アンリまで俺に頼るの? 男のくせに女に頼るなよ……。

 何気に今ピンチかも知れないのに。

 自力でどうにか出来るなら俺だってそうしたいよ。

「……あ、待てよ」

 この魔族が人間に変身出来るってことは、もしかして可能性はあるのか?

「ちょっと失礼」

 念のためアンリには触れないように気をつけながら男の腕を握る。

「何だ? 俺とやろうってのか?」

「そういうのじゃ無いけど」

 もしも俺の変身能力がこの魔族の魔法と同系統だった場合、もしくはまったく無関係だったとしても、試してみる価値はあるんじゃないか?

「……どうかな」

 俺が変身した時と同様に女の姿に変われと念じてみたけど。

 これがもし成功したなら同性同士で殴り合いも全然アリだろう。

 気のせいか、手応えはあったような……。

「う、ぐえ」

 うめき声がしたので振り返ると、なぜかコワモテのもう片方が苦しがっていた。

「……な、何をした」

「いや、あんたには何も……」

「お、げ」

 うお、汚なっ。

 いきなり吐きやがった。

「うわあっ」

 アンリの悲鳴に目を向けるのと、アンリが盛大に尻もちを着いたのが同時だった。

 そしてどこからか、大量の水が一緒に地面へと撒かれた。

 ……何だこれ。

「ってあれ、魔族の男がどっかに行った?」

 一瞬後ろを振り返っただけなのに、いつの間にかアンリに絡んでいた男がどこにも見当たらない。

「アンリ、さっきのやつどこに行った」

「え? ソラさんやったんでしょ? びっくりしたよ、もう」

 盛大に濡れ鼠となったアンリが立ち上がると、びしょ濡れになった地面を指さした。

「急に顔が透けたと思ったらいきなり水になっちゃったけど、何あれ。もしかして、死んじゃったの?」

「……ええ?」

 魔族に能力を使うと水に変化するの?

 即効で無力化出来たのはありがたいけど……。

「それで、そっちの子は誰? 何か苦しがってるけど」

「え?」

 後ろでゲエゲエと吐いていた男を見ると、体が一回り小さくなっていた。

 というか顔が……。

「うわ」

 女の子になってた。

 え? 能力、暴発した?

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