第52話 決着
互いに最も得意とする武器を構え、ジッと相手の出方を伺う。
先に動いたのはヨハネス側、それも弓持ちからだった。
今までは三体の人形の中でも最後に動いていた弓持ちだが、今度は先鋒らしい。その攻撃は飛び上がってからの頭部狙い撃ち。
放たれた矢の速度は本日最高速。だが、見切れないものじゃない。
ヨハネスから目をそらさぬよう魔力を込めた短剣で矢を弾く。
だが、これが相手の狙いだった。弾いた瞬間けたたましい音が発せられる。
ただの魔力矢ではない、〈音波矢〉という本来救難信号として使われるもの。ぬかった、また意識を彼から外される。
懐に入り込むヨハネス。ダガーが下から首を狙って振り上げられる。後ろに半歩下がって躱す。今度は左側面からの突き。これも速い。回避は不可能。
「〈魔力壁〉」
腰に全力で魔力を回し、厚い壁を築く。それは槍が肌を傷つけることを防いだが、その衝撃波は完全に防ぎきれない。
「ぬぅぅぅ!」
ハンマーで胴を殴られたような衝撃と共に体が右に飛ぶ。眼前には振り下ろされる斧。
「カァァァァ!」
とっさに唱えた〈音波壁〉でその勢いをとどめ、蹴りで人形のバランスを崩す。
そこに間髪入れずヨハネスのダガーが首を狙い向かってくる。
キィィィン
短剣で受け止め、カウンターに出ようとするが蹴りを放たれ後ろに下がる。
続けて、ダガーの攻撃が右側からくる。短剣で再度攻撃を受け止める。
そこからは左、右、右、下、上と連続攻撃の嵐。やはり一番手馴れている武器なだけあって迷いはなく、正確無比な一撃を繰り出してくる。
上への攻撃を繰り出したのち、ヨハネスに隙が生まれる。胴が隙だらけだ。
「隙あり!」
迷わず短剣を突き出すが、刺す寸前に見えたヨハネスの笑みが私に危険を知らせる。
とっさに攻撃を控えたその時、ヨハネスの背後より斧が飛び出て危うく私の右腕を斬るところだった。危ない。もし刺す位置に居たら斧の直撃を受けていた。
「これも躱す。やっぱあんたは格別だ。俺が戦った相手じゃ一番やる」
「それは、光栄だ。私程度の強さで満足いただけて」
「ああ、だがそれも終わりだ」
斧にばかり気を取られていた。私の後ろには槍持ちがいて、その穂先をこちらに突き刺した。
「……がはっ」
しかし、体を貫かれたのは私ではない。槍はヨハネスの腹に見事に突き刺さる。
「なっ……何故だ」
私は主人を刺した槍持ちを裏拳で沈黙させると、斧持ちに正拳づきを叩き込み、ヨハネスから距離を取る。当然、弓持ちに狙われぬようヨハネスを間に挟むようにして。
「何故かと問うか? それは簡単だ。君のことだ、自分に注意を向けさせ他の奴にとどめを刺させようとするに違いないからな。後ろには気を配っておいたのさ」
私がとっさに〈風神脚〉を槍持ちに唱えて加速をつけさせれば御覧のとおり。少し横にずれるだけで槍は私を外れ、減速できずに彼に刺さったというわけだ。
「……その割には俺がわざと作った隙に飛び込んだようだが?」
「それは、勢い余ってという所だ。だが、背中に目をつけておいて助かったよ」
ヨハネスは突き刺さった槍を引き抜くと、三体の人形を消滅させた。カランと音が鳴り、使い手の消えた武器がその場に落ちた。
「おや、降参するのかね?」
「まさか、魔力がねぇんだ……次で決める」
ヨハネスはダガーを構え正面から突っ込んでくる。小細工はもう必要ないということか。
私もその攻撃を正面から受け止めよう。
彼の繰り出す手は右からの首狙い。ヨハネスは今まで何度もここを狙ってきた。
絶対の自信がある一撃なのだろう。だが、これも決めに来た手じゃない。
斬りに来ると見せかけての左からの蹴り。それを右ひざで止める。
ダガーは首まで来ずに狙いを左肩にしている。それは〈魔力篭手〉で受け流す。こちらは短剣で首にお返した。それをヨハネスはバックステップで避け、再度左蹴りを入れてくる。
この蹴りをあえて受ける。魔法のおかげでダメージは痛みのみで済む。相手も受けると思わなかったのか驚きが感じられる。そこで私は手刀でやつの右手を払う。それは奴に受け止められるがおかげで左のガードが開いた。素早く掌底で奴の胸を強打。
バランスを崩し奴は後ろによろける……が、それも演技。右のダガーはまだこちらを狙っている。
私が短剣による追撃に移行するより先に奴は足に魔力を込め、一気に近づき切り裂きにかかる。
「……あがぁっ!」
「これで終わりかな?」
ダガーは確かに首にあたる。だが、私の〈魔力壁〉を突破することはついぞできなかった。反対に私の短剣は奴の首に突き刺さる。引き抜くと、ドッと血があふれ出る。致命傷だ。
「……へ、へへっ。やられちまったか」
首を抑えつつ、ヨハネスは後ずさり、バランスを崩して大の字に倒れ込む。
「ああ、これで終わりだ」
「……最期に、良い戦いが出来た……ありがとよ、ランドルフ王子」
そう言い残し、ヨハネスは動かなくなった。
始めから終わりまで戦うことしかない男だった。だが、私も一歩間違えばこうなっていたのかもしれないな。
物言わぬヨハネスを見下ろしつつそんな考えが頭をよぎった。
しかし、今の私にそんなことを考えている余裕はない。痛む体を無視し、私は階段を駆ける。ライナス君達を追って。
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