第49話 問答の先にあるものは
「リエーラは、魔法が使えなくなることを民に公開すると言いおったのだ。その上で、皆でこの危機を乗り越えようと……馬鹿な話だ。父上も父上だ。そのようなことしたらどのような混乱が起きるか、分かっておられるはずなのに全面的に支持しおって……姉上は無言だったが否定もしていない。誰も、この国の、魔法と共に歩んだという歴史の重みを分かっておらん!」
ランドルフは俺達の方を見ると凄まじい形相で睨んだ。
「貴様らに分かるか? 俺がどれだけ苦労し、地方貴族の離反を防いだのか。奴らに我々のこの事態が知れたらどのようなことをしでかすか! それに、この国だけの問題ではない。隣国の連中も攻めてくるに違いあるまい! 表との境もそうだ! 今は騎士の力で抑えているが魔法がなければその侵入を防ぐ手立てもないのだぞ! だというのに、騎士団は腑抜け、父上は実績より娘可愛さであんな若造を団長に据えた! その結果はどうだ! 騎士団は分裂し、統率を失っている。そんな状況下でなお、民は平和であると夢想しておるのだ!」
そこで王子は後ろを向き、ズカズカと姫様の寝ている棺に近づき、腕を引っ張り上げた。
「そこで、この『魔人再臨』である! 全ての民に魔法の力が宿れば恐れることはない!無能なるものはこの機に魔獣となりて朽ち果て、選ばれしものが、新たなるカルナードの生誕を祝うのだ! これこそ、誇りを失いかけたカルナードに必要なもの! 正しい道へとカルナードは戻り、不死鳥のごとく魔法大国として蘇るのだ!」
声を張り上げる王子の瞳に理性が残っているとは思えない。彼を動かしているのは魔法強国として栄えるカルナードの姿だけなのだろう。例え、それが多くの骸の上に築かれたものであったとしても――
「殿下……貴方はご存じない」
「何をだ?」
「姫様がどれほど此度の件にお心痛めておられたか。自分の命を投げうってでも助けようと奔走なされていたか!」
「ふん、リエーラにそんなこと出来るはずもなかろう。アカデミーでの役にも立たぬ友とやらと日々を過ごすことで精いっぱいの様だからな。王族としての使命を忘れ、『魔人再臨』を受け入れなかったのだ!」
「違う! 姫様は自らの意思で『魔人再臨』を行うとしておりました。皆を救うためなら自分の命など惜しくないと、私は姫様のお覚悟を目にしております!」
俺がそう叫ぶと、王子は掴みあげていた姫様の手を振り放し、初めて俺の目を正面から見据えた。
「では、何故その時に実行しなかったのか? 大方自分の身が可愛くなって怖気づいたのだろう?」
「いえ、自分がお止めしました。姫様は一人が犠牲となり、皆が救われたとしても誰も喜ばないのだと、それよりも皆で生きてゆく道を考えていくべきだとお伝えしました」
「それで、あやつは考えを改めたと? では、所詮そのような覚悟だったというわけだ。貴様の甘言に惑わされる程度にしか国を想っとらんというわけだ」
「そうではありません。姫様は誰かを犠牲にする道に誤りがあると信じたからこそ、例え茨の道であっても皆が生き、笑顔で明日を迎えられる未来を信じたからこそ、お止めになられたのです!」
「そのような迷い言が何になる? 『魔人再臨』こそ唯一の残された希望だ! それ以外の可能性などはない!」
「……では、どうあっても『魔人再臨』を起動すると?」
「もとよりそのつもりだ。貴様と言葉を交わしただけでも有難く思うのだな」
「なら、何が何でもお止めさせていただきます……姫様、そして皆の未来のために!」
「はっ先ほども同じようなことをほざいた男がいたが、俺の敵ではなかった。貴様らはどう見てもあの男の片腕にも満たぬ実力しかない。それでも俺に勝てると?」
「……!」
(この場に入った時から察していたが団長はすでに……)
エドアルドほどの実力者を打ち破った男に果たして勝てるのか?
恐怖による冷や汗が背中を流れる。
その時、俺の左手をセライナが握った。
「ここまで来たら、最後までやるわよ……今まで私を遮って王子に啖呵を切ってきたんだからここで引くのはなしよ?」
恐怖を押し殺した不敵な笑み。
「……そうだな。やるしかないよな!」
何度目か分からないその言葉を口にし、王子を見返す。例え、一瞬で敗れたとしてもここで食らいつくしかない!
「この姿を見て、貴様らでもやれると思ったのか?」
王子は血塗れで不完全な自身を見下ろした。
「甘く見るなよ……貴様ら如き、片腕でもひねりつぶしてくれん!」
王子は投げ出されていたひび割れた剣を掴むと咆哮した。
剣に生まれ、戦に生きていると称される王国一の武人ランドルフ。
その破壊の矛先が今、俺達に向いている――
「・・・やるしかないよな」
静かにつぶやくと、俺は突進してくる破壊の権化に立ち向かった。
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