第46話 戦士たちの対決
「不敬であるぞエドアルド。ここへの立ち入りは許可していない。それに俺の部下を容赦無く斬り捨てるとはなんたることだ。何か申し開きはあるか?」
「ランドルフ殿下……貴方を討ちます」
「ふん、問いに答えず俺を討つと申すか」
ランドルフは振り返り、エドアルドを見て笑った。
「やれると思うか、この俺を」
エドアルドは血にまみれた剣を握り直した。
「ええ、討たせてもらいます。姫様のため……わが祖国カルナードのため。反逆者ランドルフ、覚悟!」
エドアルドは身をかがめると剣を突き出しランドルフに向かって突っ込んだ。その速さは音をも超え、瞬きするほどの時間でランドルフの腹に剣を突き刺す。
しかし、その剣先は彼には届かない。ランドルフは腹にあたる直前に突き出した左手の手のひらで剣を押しとどめた。彼の手からは血の一滴も零れていない。剣に力を込めて押すエドアルド、だがまるで岩石のように微動だにしないランドルフ。
次の瞬間、本能的に危機を察したエドアルドは素早く後ろに下がる。その直後、彼のいた場所に強烈な衝撃が走る。足元の強固な大理石に亀裂が入る。ランドルフの手刀によるものだ。
「よく躱したな。だが、その程度の攻撃で俺が傷つくとも思ったか?」
ランドルフは一笑すると腰の剣を引き抜いた。
「さぁ、ここからが本番だ。俺を討つと言ったのだからせめて初撃は耐えてくれよ」
ランドルフから放たれる圧が増した。エドアルドは防御の姿勢を取りつつ、〈光弾〉を放つ。
「無駄だ」
エドアルドの放った〈光弾〉を剣ではじく。そして次弾が発射される前にランドルフが斬りこんだ。上段から振り下ろされる一撃。その動きは一般的な騎士の上段斬りと同じ動き、だがそれを恐ろしい速さで繰り出す。
「〈疾風〉!」
風を纏い、間一髪のところで右に避けるエドアルド。そこに王子の追撃の横薙ぎが襲う。
「〈魔力壁〉全開!」
左腕にピンポイントで厚い魔力の壁を展開する。そこに重い一撃が入る。
ミシミシと骨にひびが入る音が聞こえる。
エドアルドは完全に一撃が入る前に自ら横に飛び衝撃を和らげ〈疾風〉の力で素早く受け身を取り、両足をつけて着地する。
だが、王子の攻撃はまだ終わらない。左足をついて方向を変えると、右足を踏み込み一気に距離を詰める。再度、王子の上段斬りがエドアルドを襲う。
「くっ!」
剣で刃を受け止めるエドアルド。
ズンッッッッ!
強烈な衝撃が彼の全身を襲う。
「このまま、両断してやろうか?」
「ッッまだだ! 〈爆裂脚〉!」
エドアルドは両足に魔力をためると一気に力を解放させ、爆発を引き起こす。本来なら蹴りこんだ相手にこの爆発の衝撃を与える魔法であるが、彼はその衝撃を利用し、王子の上段斬りを跳ね返しすぐさま跳躍した。そして、攻撃を跳ね上げられた王子に一瞬のスキが生まれる。
「〈雷光剣〉!」
雷の如き素早い斬撃が繰り出されて無防備な王子を襲う。確実に攻撃が通ったことをエドアルドは確信する。
しかし、そこで彼を襲ったのは王子の痛烈な蹴りだった。
「ゴホォッッ!」
まともに蹴りを腹に受け、エドアルドはバウンドしながら壁際に転がっていく。それでも治癒魔法の一種〈痛覚遮断〉を用い、すぐ立ち上がる。
「見事だエドアルドよ。俺に一太刀浴びせるとはな」
攻撃を受けた王子を見ると左腕の薄皮が一枚切れ、血が流れている。斬撃を受ける瞬間、とっさに身体強化魔法で王子が腕の防御を固めた結果である。
「ふふふ、ここまでやるとは、やはり素質だけは騎士団一と言われることはあるな」
王子には余裕の笑みが浮かぶ。エドアルドの渾身の一撃もまるで効いている様子はない。
「〈精霊招来〉!」
エドアルドは自身の保有魔力の大半を消費し、勝負に出る決断をした。
彼の周りに魔力が集まり、色とりどりの無数の精霊が彼の周りに漂う。魔力の力で精霊を呼び出したのだ。
「ほう、〈精霊招来〉か……」
王子の目がかすかに鋭くなる。〈精霊招来〉は高位の魔法。多大な魔力を消費する代わりに呼び出した精霊の力を借り、通常では行使できないような魔法を一時的に扱える。
「〈灼熱剣〉!」
エドアルドが剣を振るうと炎の波が巻き起こり、ランドルフを取り囲んだ。
「〈落星〉!」
炎に阻まれ逃げ場のないランドルフにエドアルドが別次元から呼び出した流星が襲い掛かる。
「無駄だ」
ランドルフが剣を床に突き立てると、彼を取り囲むように魔力で構成された小さな砦が床よりせり上がる。〈魔力壁〉の上位魔法〈魔力砦〉だ。
降り注ぐ流星は砦に傷をつけるも貫通はしない。周囲を取り囲む灼熱の炎が砦を飲み込むも、その熱は内部に届かない。砦は完全にエドアルドの攻撃を受けきったのだ。
「さて、次はどう来る?」
砦を解除したランドルフの前にエドアルドの姿はない。
「……どこに消えた。まさか!」
ランドルフが己の頭上を見上げた時、剣を振り下ろすエドアルドの姿があった。
彼はランドルフに自分の技が破られることを見越し、砦により一瞬王子の視界が遮られることを利用し、風の精霊の力を借り頭上に飛んだのであった。
「馬鹿め、その程度で出し抜けると思ったか!」
目にもとまらぬ速さで突き刺した剣を抜くとランドルフはエドアルドを迎え撃った。
「ぬぅ!」
だが、エドアルドの剣はランドルフの体を狙わなかった。彼はギリギリのところで王子の迎撃をかわすと、王子の影に向かって剣を突き刺した。
「〈影縫〉!」
突き刺された剣の呪いで王子は動きを止められた。
「〈幻影剣〉!」
闇の精霊の力で魔力の剣を生み出したエドアルドは王子の前面に回ると上段から一気に斬り裂いた。
「……ガハッ!」
「惜しかったな」
――だが王子を斬ったかに見えた一撃は肩口で止まっていた。逆に王子の繰り出した手刀がエドアルドの胸を貫いている。王子が腕を抜くと、多量の血が傷口より吹き出す。エドアルドは自分で立つことが出来ずその場に膝をつく。
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