第44話 戦場を駆け抜けろ②
「〈雷人走〉!」
ヴォルフさんの声が聞こえた。
ズダァァァァッッン!
凄まじい稲光を纏ってヴォルフさんが俺達と騎士連中の間に割って入る。
「〈魔人弾〉!」
そのままヴォルフさんは襲い掛かる騎士達に魔力の塊を叩きつけた。攻撃姿勢のまま受け身のとれない騎士達は直撃を受け、吹っ飛んでいく。
「ヴォルフさんどうしてここに! ヨハネスは!」
「うん、まぁ、その、君達が危なそうだったのでな」
「……すみません足を引っ張ってしまって」
「なに、気にするな」
「そうね、気にしている場合じゃないわ。行きましょ、ライナス!」
セライナに促されるまま立ち上がり、前を見た。だが、そこには――
「おいおい、楽しい勝負をほっぽいてそんな雑魚に構うなよなぁ」
苛立ちを露わにしたヨハネスが立っていた。
「お前、いつの間に……」
「ああん? アイツだってすぐにカッとんできただろ? だったら俺にも出来て当然じゃねぇかよぉ……」
ヨハネスの怒気をはらんだ声に呼応するかのように背中の弓を持った腕が動き出す。
「マズい! あの動きは!」
ヴォルフさんが三度俺とセライナの前に飛び出し〈魔力盾〉を展開する。
「〈千本矢〉」
再び無数の矢が降り注ぐ。ヴォルフさんに庇われた俺達はギリギリのところで攻撃をかわした。
「ぐわぁ!」
後ろから騎士達の声が聞こえる。振り向くと〈千本矢〉はまだヴォルフさんの攻撃から態勢を立て直せていない騎士達にも命中していた。魔力矢は彼らのプレートアーマーを貫通し、地肌を射抜いていく。
「みっ、味方ごと攻撃するというのか……」
「はぁ? よけらんねぇのはテメーの責任だろうがよぉ。それよか、あんたらみてぇーな雑魚相手に時間かけっからこういう目に合うんだろ? 自業自得だ」
〈千本矢〉が尽きた時、俺達はヴォルフさんの全力の守りによって無事だったが、八人いた騎士達の半数が虫の息だ。
攻撃した当の本人は追撃することもなく苛立ち気に俺達を見ている。
「攻撃しないのかね?」
ヴォルフさんが鋭い目で睨みつつヨハネスに問いた。
「別に攻撃してもいいけどよーそこの雑魚がいたらあんたもまともに戦えねぇーだろ?どーせそいつらがこの先に進んだって何も出来ねぇーんだから行かせてやる」
ヨハネスが吐き出すように言った。
「おっ、おい。ヨハネス、何を言っているのだ!」
「あん?」
俺達の背後にいた騎士のうち比較的軽傷だった奴が立ち上がりつつそう言った。
「我々の使命は何人たりとも通さぬことだ。陛下から命じられている以上例え誰であっても……」
その言葉は最後まで続かなかった。ヨハネスが投擲した斧が騎士の頭部に命中し、彼を絶命させた。
「うぜぇ、おめぇらは黙ってろ。どのみち失敗してんだからもういいだろ」
彼の言葉は不可解だったが、その苛立ちは頂点に達しそうだ。
「それであんたらどうする? 後、十秒以内に俺の横を走り抜ければ見逃す。そうしなければ今の馬鹿みたいになるぜぇ」
ヨハネスは本気だ。
「……行くわよ」
セライナが震える声でそう言った。彼女はまっすぐヨハネスを睨みつけている。だが、その顔には恐怖が張り付いている。それでも、彼女は精一杯の度胸を見せた。
「ヴォルフさん、後は頼みます」
「ああ、すぐに追いつく。心配するな」
それを聞き、俺達はヨハネスの横を駆け抜けた。
「まぁ、せいぜい頑張るんだな。あんたらの亡骸は後で拝んでやるよ」
すれ違いざまヨハネスは笑いながらそう言った。
「……どうかな? 俺は生き残るつもりだけど」
だから、俺も精一杯の度胸でそう言い返した。
もう、後ろは振り返らない。ヴォルフさんを信じるだけだ。
ライナスらが去り、後には二人の冒険家だけが残された。
「……さて、君の望み通り私だけになったが?」
「そりゃ、やることは一つだけだろう。今度は最後まで付き合ってくれよ?」
ヨハネスは腰を落とすと、口角を上げて笑った。
「ああ、逃げやしないよ。君こそ、先ほど逃げなくて後悔しても遅いからな」
カールは冷たい視線で彼を見る。
一瞬の静寂の後、二人の体が弾丸のごとく飛びだした。
「ぜぇ、ぜぇ」
無限のごとく続く階段を上り続けること暫く。もう、どれだけの距離を登ったのかわからないくらいだ。
「貴方……息が切れてる……わよ」
「お前も、な……」
いくら魔法の力で強化しているとはいえ体には限界がくるものだ。日ごろから鍛えてるわけでもないし、俺の足は悲鳴を上げ始めている。
「ヴォルフさんは……あいつに勝ったかな」
「さぁね……戦闘音も、ここまでは聞こえてこないから分からないわよ」
「勝っているといいなぁ……」
「信じとき……なさいよ」
こうして何か話していないと倒れてしまいそうだ。それは隣を走るセライナも同じだろう。
「ちょっと……何か見えてきたわよ」
彼女に言われるまでもなく、俺にも見えてきた。扉だ。その上には天井も見える。永遠に思えたこの階段にも終わりはあったってことだ。
「つ、着いた……」
「すっ、少しは休みましょう」
「そう、だな……」
俺達は扉に手をつき、呼吸を整える。
「貴方、さっき魔石使ってたけど予備はあるの?」
「三つはある。そっちは」
「こっちは四つ」
騎士達を抜けるときに使った魔石をポケットから補充しておく。わかっていたけど俺の実力じゃ強化した魔法をぶつけてひるませるのでギリギリってとこか。
「ヴォルフさんなしでこの先行けるだろうか」
「なーに弱気になってんのよ。私達の魔法が効かないわけじゃないってことが分かったものでもめっけもんでしょ? こっからは連携していくわよ。貴方の精神魔法があれば隙をつけるでしょ、そこに私がキツイのを食らわせてやるわ」
「おめーはいつでも元気だな」
「相手が強いなら気持ちで押し来る勢いでいかないとダメじゃない! ほら、準備できたら行くわよ」
そう言って彼女は扉に手をかけた。
「まぁ……その気持ちは分からんでもないよ」
俺は、彼女が扉を開けるのに合わせて、一気に扉の中へ飛び込んだ。
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