第43話 戦場を駆け抜けろ①


「どうよ、俺の攻撃?少しは見直してくれたか?」


 ヨハネスがヴォルフさんに尋ねる。


「そうだな、ゴーレムよりはましだ。その点は訂正しよう。上級の使い魔ほどは優秀だな君も」


「ハハッ、あれを受けてまだそう言えるか! まだまだ、あんたとは楽しめそうだ!」


 ヴォルフさんの挑発を再度受けてもヨハネスに気にしている素振りはない。むしろ、喜んでいるくらいだ。


「ライナス君、セライナ君。君達は先に行きたまえ。ここは私が食い止める」


「でも……いえ、そうします。俺達がいても足手まといにしかなりませんからね。だろ、セライナ?」


「私は貴方よりまだ出来ると思うけどね……それより、行くにしてもあの人達はどうすんの?」


 セライナが指さす方を見れば、フル装備の騎士達もヨハネスに少し遅れてこの階に飛び降りてきている。彼らがタダで通してくれるとは思わない。


「あ~走り抜けるしかないんじゃない?」


「でしょうね……ホント、今日だけで数日分の運動が出来そうだわ」


 言い終わると同時に俺達は階段に向かって駆け出した。当然、脚力を向上させる魔法をかけることを忘れていない。


 だが、騎士達はそんな俺達に突き放されることなく、むしろ楽々と追いついてきた。彼らの降りた場所から階段まではそれなりに距離がある。しかも重たい鎧を身に着けているのにこちらよりも速い。


 階段にさしかかるころには俺達から五メートルほどの距離に近づいている。


「〈暴風〉!」


 セライナが腕を突き出し彼らに魔法で強烈な風をたたきつける。俺達に向かってきた騎士のうち先頭にいた三人はまともに魔法を食らってよろめいた。だが、よろめく程度だった。通常なら数メートルは吹き飛ばされるだろうが、魔法に対する耐性強化が施された鎧に効果はほとんど見られない。


 けれども彼らの追跡が遅れたことには違いない。その隙に階段を一気に登る。魔法のおかげでぐんぐん段差を飛ばしながら進んでいく。


 しかし、これで終わるような騎士ではない。魔法を受けなかった後方の騎士五人は俺達が使ったのと同じ身体強化魔法を唱え、強化した脚力で跳躍した。そして、先回りするかのように俺達の前に降り立った。


「あら、もう囲まれたわけ?」


「だが、押し通らせてもらうさ。」


 俺は剣を抜き今にも斬りかかるそぶりを見せた彼らに向かい、手を突き出した。


「〈狂乱波〉!」


 不快な音の洪水が彼らに襲い掛かる。その音を聞いたものは頭の中にいくつもの重なり合う不協和音の渦が巻き起こる。


 騎士達は斬りかかることが出来ず、頭を片手で抑えた。だが、それでも完全に動きが止まったわけじゃない。


 出し惜しみをしている暇はない、俺はグローブについている魔石の力で魔法の威力を底上げする。


 ついに、騎士達の足元がふらつき始めた。中には剣を落とす者までいる。


「今だ!」


 俺はセライナと共に身動きの取れない彼らの間をすり抜ける。


「やるじゃない」


「とっておきだからな。でも、後十秒もすれば正気に戻るぞ」


 俺は身体強化魔法を重ね掛けして更に速度をあげる。無理な強化で体からきしむような音が聞こえるが気にしない。


 だがそんな努力をあざ笑うかのように騎士達はすさまじい勢いで追い上げてくる。最初にセライナがひるませた騎士達が風のような速さで階段を駆けてくる。


 ぐるぐると壁沿いの道を進み、凄まじい勢いで上へと昇る俺達。だが、引き離した距離は徐々に詰まっていく。チラリと後方を見れば俺の魔法を食らった五人もすでに態勢を立て直している。


「〈爆竜波〉!」


 背後から放たれた灼熱の竜が回り込むように行く手をふさぎ、炎の壁を作り出す。

俺達は壁を強引に突破することは出来ず、立ち止まるしかない。


 振り返れば騎士達がすぐ後ろまで来ていた。


「たかが木っ端役人が良くここまで逃げ切れたものだ」


 騎士の一人がそう言い放つ。


「現役の騎士にそう言われるとはうれしいね」


「それとも、私達でも逃げきれるくらい腕がなまっているんじゃない?」


 煽るなよセライナ。


「フン、まぐれに過ぎんよ。いや、我々がお前達を見くびりすぎていたようだな」


そう言うとゆっくりと剣を構えた。追いついてきた他の騎士達も同様だ。


「だが、もう油断はしない。次で決めさせてもらおうか」


 彼らから発せられるピリついた雰囲気というのが殺気というものだろうか。なんて、ぼんやりと考えている暇はない。


「「〈魔力盾〉」」


 俺とセライナは同時に魔法を唱えた。でも、二人合わせたところでヴォルフさんの盾には遠く及ばないのはわかる。そして、そんな盾では防げないのも。


「〈豪竜斬〉」


 先頭の騎士が放った魔法の一撃であっさりと盾は砕かれる。俺達は魔法を破られた影響で後ろにバランスを崩した。そこに後ろの騎士達が飛びかかってくる。


(あっ……これは終わった)


 全てがスローモーションのようだ。騎士達の素早い動きが鮮明に見える。彼らの繰り出すこの一撃はあとわずかな時間の後に俺達の急所に命中するだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る