第40話 再起誓って
「邪魔者を入れる……もしかして、俺達のことですか?」
「そうだ。彼らは我々に侵入してほしかったのさ。倉庫から魔石を持ち出すためにね。大方、倉庫に掛かっている魔法の解除に手間取っていたのだろう。だから警備を薄くして、万が一交戦したとしても適当なところで引くように命じられていたのだよ。そうすれば自然と倉庫まで行ってくれるだろう?」
「でも、もしヴォルフさんが一緒だとそのまま俺達が逃げるかもしれないのでは?」
「私にはそこまでの能力はないよ。だが、もしそこまで買いかぶってくれていたのなら、私が単独で陽動を仕掛けることも思いつくだろう。そうしたら殊更全力では来ないさ」
「何故です?」
「もし全力で来られたら、私が君達の方も同じように抵抗を受けるかもしれないと思って陽動を切り上げて強行突破を図るとでも思ったのではないかな? 抵抗が弱ければ、私が君の同僚達を助けたようにあちこちを襲撃して現場を混乱させようと狙うことを見越してね。そうすれば君達と合流するのは遅くなるだろう? まぁ、私も流石に彼らの行動が怪しすぎて途中で引き返してしまったがね。だが遅かったようだ」
「……俺は奴らの策にまんまとハマって魔石を奪われたということか」
「ああ、だが気を落とさなくて良いぞ。これは私のミスでもある。今を思えば魔石のことに夢中になりすぎて彼らの兵の配置が外に厚く、内が薄すぎることに気づくべきだった」
「なるほど、マーサ様の部隊を牽制しつつ私達を誘い込む網を張っていたってわけね」
「ああ、だがこうなってしまっては仕方ない。君達はここを脱出して予定通り下水道に向かいなさい。あそこからなおそらく市外へと出られるだろう。上手くすればマーサ様の部隊と合流できるかもしれん。そこで彼らに『魔人再臨』について伝えてほしい」
「……ヴォルフさんはどうするつもりですか?」
俺がそう言うとヴォルフさんは王城の方を見た。その時の目は今まで一度も見たことがないくらいに澄んでいた。
「私は、彼らの後を追う。『魔人再臨』は止めなくていけない。それに……陛下から姫様を探しだすようにと命じられているからな。それは果たさねばならんよ。ライナス君、セライナ君……君達にはいろいろと迷惑をかけた。ここからは私の仕事だ。君達はもう行きたまえ」
「……ヴォルフさん」
「なんだね?」
「どうして、貴方はそんなこと言えるんですか? 行ったら無事に帰ってこれないかもしれませんよ。いや……かもなんかじゃない絶対無事では済みませんよ」
俺の問いにヴォルフさんは笑って答えた。
「だが、それが冒険家というものだ。絶対に無理、危険だという所、誰もが行かないと口々に言う場所へ赴き、誰もが成し遂げられなかったことをやる。それが私の仕事であり誇りだ。今回、私は娘を救うようにと一人の父親に頼まれたのだ。その時の顔には不可能であると書かれていたよ。だが、私はそれをやり遂げる。それが、私が私であるために、冒険家としての道を選んだ時に決めたことだからな」
――ヴォルフさんはそれだけ言うと背中を向けて立ち去った。
「おい、なんだか分からんが俺達も早く行こうぜ」
「そうですよ、さっき王城の方見てきましたけど、まだ彼らもこちらには来ていません。“青のカール”の言う通りなら彼らは僕達を見逃すはずです。早く行きましょう」
ハインリヒとアクセルは俺にそう言ってくる。彼らからしてみればいきなり衝撃的な話を聞かされたんだ。逃げ出そうと思っても無理はない。むしろ、あんな話を突然聞かされて取り乱しもせずすぐに逃げる判断が下せる辺り、こいつらも精神強者ぞろいの倉庫番なだけのことはあるかもしれない。
俺は立ち上がるとまずセライナを見た。彼女も俺の方を見ていた、その瞳にもう涙はない。
「……悪いな、ハインリヒ、アクセルお前達は先に行っててくれ。俺はヴォルフさんを追う。セライナ、お前も行くよな?」
「当然、ここまで来たら最後までやってやるわよ。むしろ、貴方の話を聞いて俄然やる気が湧いてきたくらいよ」
「そうか、なら良いんだ」
俺はセライナと一緒にヴォルフさんの後を追うことにした。後ろから慌てた様子でハインリヒが呼び止める。
「おいおい、正気か! 自分から死に行くようなもんだぜ!」
俺はハインリヒの方を振り向く。彼の瞳には不安げな俺の顔が映りこんでいた。そこには先ほどの勇気と誇りに満ちたヴォルフさんの様な顔はなかった。だが――
「……俺は頼まれたんだ。初めて、誰かを助けるようにってな。しかも元はと言えば俺が忘れたことが原因だ。その責任は果たさなくちゃ……そうすれば俺も」
俺も、昔なりたかったヴォルフさんみたいになれるかもしれない――
「おかしくなったか? “青のカール”みたいなこと言ったってお前はただの倉庫番だ。あの人の様には行かないんだぞ!」
「知ってるか? 冒険家って皆おかしいもんなんだってよ。俺は昔そんな……英雄と呼ばれるような冒険家みたいになりたかったんだ。だから……同じように見えるならそれは光栄だね」
俺は止めるハインリヒを振り切り、先に行くヴォルフさんの後を追った。もう、迷わない。俺はやるんだ。もう、自分をあきらめたりはしない。
決意に満ちた高揚感が俺の中に満ち溢れていく。不思議と先ほどまでの恐怖はなくなっていた。
「もう、くよくよしなくなったみたいね」
隣を走るセライナが笑ってそういった。
「ああ、俺は思い出したんだ。昔何をやりたかったのか。それに、姫様との約束もあるしな」
「なるほど、それであんなクサい事言いながらこっちに来たのね。子供っぽい夢も人を立ち直させる力はあるのね」
「……ほっとけ」
力は沸いても、こういう風に言われるとグサッとくるものがある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます