第39話 仕掛けられた罠
次に俺の意識が目覚めた時、そこは倉庫の中じゃなかった。横たわっている俺の目に映るのは複数の木の枝。背中に感じるのは土の感触。いつの間にか俺は屋外にいた。
ゆっくりと身を起こすとズキッと頭に痛みを感じた。辺りを見回すと倉庫の外、最初にセライナと別れた茂みの傍であることが分かった。
「よぉ、起きたか」
すぐ傍で声が聞こえてギョッとした。
「おいおい、そう驚くこともねーじゃないかよ」
声のした方を見ると、なんとロイドがいた。数日ぶりの再会だ。
「お前、ここで何してんだ?」
「それ……たぶん俺のセリフなんだけど。まぁ良いか。俺や他の皆も“国防軍”の連中に宿舎へ押し込められていたんだけどよ。さっきあの“青のカール”に助けられたんだ。信じられるか? あの“青のカール”だぜ」
「ヴォルフさんが……」
「それでよ。なんでもお前が倉庫で重要な仕事をしているから助けに行くようにって言われてさ。あいつ等に会わねーかびくびくしながら倉庫に行ってみたらお前が受付で倒れていたからびっくりしたぜ」
「受付で……そうか、意識のある奴が部屋にいなくなったから安全装置の影響で飛ばされたのか……」
「それでどうすれば良いかハインリヒのやつと考えていたらいきなり魔法省のセライナって言ったか? あいつが受付に入ってきてここに運び出すよう指示されたんだよ。全く魔法省の連中は人使いが荒いんだから……」
「セライナが! ……って痛てててっ」
急に動いたら後頭部がズキズキする。
「おいおい、無理すんなよな。とりあえず治癒魔法をかけといたけどお前結構手ひどくやられてたんだぜ。一体中で何があったんだ」
「……俺のことより、セライナはどうした?」
「ああ、あいつならアクセルを連れて王城の様子を見てくるってさ。ちなみにハインリヒとケルシャーのやつは安全な退路の確保に行ってる。っで、残った俺がお前の様子見てたってわけ」
「……そりゃどーも」
俺は頭をさすりながらロイドの話を聞いた。こいつの言う通りなら皆は無事なようだし、俺が襲われたのと同時に“国防軍”の連中に捕まるようなことはなかったか。
「あら、起きたのね。どう、体の調子は大丈夫なの?」
話していたらガサゴソと音をたてながら茂みの奥からセライナが出てきた。彼女の手には医療用の魔法水が入った瓶が握られている。恐らく近くにある医務室から持ってきたのだろう。彼女の後ろにはアクセルとヴォルフさんの姿もあった。
「……なんとかな。それより、ヴォルフさんと合流していたのか」
「ええ、外で待ってたら貴方じゃなくてあのヨハネスが出てくるんだものびっくりしたわ。しかも、あいつ、私のことに気づいてたはずなのに無視して王城の方に行ったから、それで……」
「それで私に指示を仰ごうと思ったようでな。図書館に向かう途中で合流したんだ。ちょうど図書館前と君の同僚達が捕まっていた寮の見張りの連中をさばいた後だったから簡単に合流出来て良かったよ」
簡単に言うが事前の下見では図書館と寮を合わせて二個小隊六十人はいたはずだ。それを一人で片づけるなんてやっぱこの人どこかおかしい。
「その後はヴォルフさんが捕まった人達を解放してて、倉庫の方に向かわせてたって言ったから私も一緒にここに戻ってきたってわけ。あと、この魔法水はついでに医務室からもらってきたわ」
やっぱり医務室から取ってきたのか。その辺は鼻が利くよな。
「さて、セライナ君から聞いたけどヨハネスとかいう輩が出てきたんだって? 中で一体何があったんだ?」
「……まぁ、話すと長くなるんですが」
俺は倉庫であった全ての出来事を話した。ヨハネスに魔石を奪われたことも『魔人再臨』についても全部だ。
「何よ、それじゃあこのままだと確実に発動してしまうじゃない!」
セライナが焦った様子で声を張り上げる。
「どうするのよ! さっき見た様子じゃあヨハネスはもう魔石を王子に渡していると思うわよ!」
「古代の儀式魔法だから発動までどの程度の時間的猶予があるかわからないけど、長くてもあと一、二時間が限度だな……」
俺がそう言って力なく笑うとセライナにまた胸元を掴みあげられた。
「ちょっと、何あきらめたような顔してんのよ! 元はと言えば貴方が魔石を取られたからじゃない! そんな顔しないで何とかしなさいよ!」
「出来るわけないだろ! もう、魔法の行使は始まっている! 到底間に合わないさ。それに、仮に取り返しに行ったとしてもどうするのさ! 相手は戦闘経験豊富な王子と戦闘狂の冒険家だ。それにまだ配下の連中だっている。俺達じゃどうにもならないさ!」
俺が吐き捨てるように言うとセライナは顔を真っ赤にして掴んでない手で俺を殴ろうとした。俺は数秒後に来るだろう衝撃に備えて目をつぶった。
「……?」
だが、いつまでたっても衝撃も痛みも来なかった。目を開けると、セライナの手をヴォルフさんが抑えていた。
「その辺にしたまえ」
ヴォルフさんが冷静な声でそう言うとセライナは俺を掴んでいた手を放した。捕まれていた状態から急に手を離されたから俺はバランスを崩してしりもちをついた。セライナはそんな俺を立ったまま睨んでいる。その目じりには涙が浮かんでいた。
「話しは分かった。それでこの状況にも合点がいく」
淡々とヴォルフさんがしゃべる。
「……状況って何のことですか」
俺はヴォルフさんに尋ねた。
「思ったより彼らの反撃がないことだ。さっきも言ったが私は図書館と寮にいた連中に奇襲を仕掛けた。その時、彼らは抵抗したとはいえ、増援を呼ぶそぶりを見せなかったのだ。おかしいだろ?」
「……確かに妙ですね。ここは彼らが完全に抑えているはずです。その気になれば王城中にいる警備兵を嗾けることだって出来たはずです」
「ああ、それどころか形成が不利だと判断すると早々に後退していった。始めは何かを狙っているのかと思ったが君の話を聞いて分かったよ。恐らく、彼らにはあまり交戦しないように命令されているのだろう」
「それはどういうこと? だって邪魔者に入られて魔法の行使が邪魔されたら問題じゃない」
セライナがヴォルフさんに訊いた。
「いや、彼らの目的はそもそもその邪魔者を入れることなのだよ」
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