第23話 武人、ランドルフ
空中の騎士達が放った強烈な魔法<水流槍>。王子の肉体を串刺しにするかに見えたその攻撃は身体に当たる直前、不自然な方向に曲がり地面に衝突してその効力は失った。
(何が起こったんだ……)
俺の思考では何が起きたのか全く判断がつかない。それは攻撃手も同じようだったらしく、ここからも空にいる騎士達の息をのむのが聞こえるほどだ。
だが、その直後に回答は訪れた。今度は王子の顔面に向かって飛んでいた〈光弾〉も当たる直前に突如方向を変えて地面に激突したのであった。
「なるほど、〈魔法湾曲〉か……」
横でヴォルフさんがつぶやいた。
〈魔法湾曲〉、この世界で魔法によって発生した全てのモノ。〈火球〉であれば火の玉、〈水流槍〉であれば水に、魔力が宿っている。その理由は定かではないが、自然界に魔力を用いて強引に生み出したモノのため魔力が宿ってしまうというのが通説だ。
〈魔法湾曲〉はその一転に着目して編み出された魔法の一つ。この性質を利用して自分の体周辺に独特な魔法の流れやすい方向を形成し、自分に向けて放たれた魔法をずらすというのがその効果である。
説明すれば簡単な理屈であるが、自分の体に決まった魔力の流れを作るのは困難であり、ましてやそれを動きながら発動することが出来る人など聞いたこともない。
だが、おそらく王子はそれを実践している。〈分裂火球〉を躱したのも〈魔法湾曲〉の効果であろう。
「武闘派とは聞いていたけど、ここまでの実力とは……」
王子の魔法の腕前は正しくこの国でも最高級だ。姉君のマーサ王女も魔法の才覚には恵まれていたが、王子もこれほどの才能に秘めていたとは信じられないくらいだ。
だが、俺の驚きなど、今、直接相対している騎士たちにしてみれば大したことないだろう。あれほどの強者を前にして平静を保てる自信なんて俺にはない。
しかし、それでも流石は歴戦の魔法騎士。あれだけの力の差を見せられてなお、戦意は衰えてない。もしくはただのやけくそかもしれないけど……
〈水流槍〉と〈光弾〉を受け流した王子は今度は一気に加速すると、瞬く間に近くにいた二人の騎士の目の前に移動した。
身体強化系魔法による脚力強化によるものだと思うが、詠唱もなくあれほど素早く移動するとなるとよほど使い慣れた魔法なのだろう。
さて、一瞬で間を詰められた騎士がどのような反撃手段を取ろうとしたのかは分からない。だが一人目の騎士は近づかれると同時に腹に蹴りを入れられ、二人目は顎に拳が入り戦闘不能となった。周囲に響いた音からただの戦闘不能で済んだとは思わないが……
ここまで来て俺はようやく王子が加減していたことに気づいた。王子はもうサービスタイムは終わったとばかりに離れていた三人にも流れるような動きで近づき、相手の攻撃をあっさりとかわし、それぞれに一撃を入れて沈めた。特に、三人目が振り下ろした剣を片手で握りつぶし、逆に軽く振り払うような手の動きで気絶させたのには背筋が凍るほどの恐ろしさだ。
開始から十数秒で十人いた騎士は残り三人。はじめに空に上がった者だけが難を逃れた形となった。
残りの三人はもはや攻撃を続ける以外に最善の手段はないと考えたのか魔法の一斉攻撃を行った。
使用した魔法は〈爆裂弾〉。魔力の塊を撃ちだし、対象の付近で破裂させるだけのシンプルな魔法。だがシンプルなだけに強力で、込めた魔力量と同様の爆発が起こる。
見た限り彼らの使用した〈爆裂弾〉には相当な魔力量が込められている。恐らく飛行状態を保つ最低限を除いて全ての魔力を攻撃に転じているのだろう。
だがそれをあざ笑うかのように王子に攻撃は届かない。〈爆裂弾〉の発する強烈な爆風は全て〈魔法湾曲〉の前に意味をなさず、騎士たちの猛攻は只々無為な行為と化している。
そして、永遠とも思えるような短い時間が過ぎた。騎士たちの魔力量が限界に達したのか攻撃がやんだ。訓練場には〈爆裂弾〉の影響で大きな穴がいくつも空いているが王子は無傷のまま涼しい顔をしている。
そして王子は静かにつぶやいた「〈砂縛網〉」と。
すると訓練場の砂から無数の鎖が出現し、騎士たちを捕えた。砂で造られた鎖で対象を拘束する土魔法〈砂縛網〉、上級の魔法であるがこれもまた王子はこともなく発動した。
魔力を使い果たしている騎士たちにこれを逃れる術はなく、もがく騎士たちは鎖に引っ張られて地面にたたきつけられ意識を失った。
それを見た審判が模擬戦終了を表す青い旗を掲げたが、倒れ伏す騎士達の中にそれ見ることは出来た者はいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます