第19話 王宮騎士団

 王宮騎士団の駐屯地は王都内に存在している。それこそ、アカデミーから電力をとやらを送って貰っているとの噂がささやかれるほどの近さ、アカデミーの裏手百五十メートルくらいの所にある。


 駐屯地がこのように市街地にあるのは、建国時にはまだ多くの魔獣が生息しており、しばしば王都に襲撃を仕掛けてくることがあったらしい。当時は魔獣が現れた時の人々の避難場所、そして騎士たちが魔獣を迎撃するための砦だったと言われている。


 その後、時が経つにつれて魔獣は討伐され王都が襲撃をうけることはなくなったが、砦が取り壊されるようなことはなく、王宮騎士団の設立とともにその駐屯地として改修され現在に至る。


 さて、その駐屯地であるが周囲をぐるりと高い塀で囲まれ、外から中を見ることはできず、四方に見張り台が設置されて今でも交代で騎士たちが詰めている。

この場所は王城に次いで王都で警備の厚い場所だろう。


 ただし俺のような倉庫職員は自由に駐屯地への出入りができる。なぜかって?


 それは倉庫内の備品を持ってくるときに何度も駆り出され、その度に入り口で検査するのが面倒になったらしく、倉庫職員は身分証の提示だけで入れるようになった。

そして検査がなくなって楽になった分、俺たちが駆り出される回数も増えた。けっ!


正門については俺達は、警備が顔見知りだったため何も言われずに通された。ちなみにヴォルフさんのことは連れであると言っただけでスルーされた。おそらく、手伝いかなんかだと思ったのだろう。


「こうも簡単に中には入れてしまって良いのだろうか?」


中に入ったところでヴォルフさんがそう言いながら警備の方を振り返っていた。見れば、警備についている騎士はあくびを噛み殺しながらぼんやりとしている。


「俺達がここに来るのはいつものことですし、人手不足を理由にほかの部署とか倉庫番の候補生を連れて来ることもありますのであんな感じなんだと思いますよ」


「そうだとしても、最低限形だけでも身分証を確認せんでも良いのだろうか?」


俺がこう言ってもヴォルフさんは心配しているようだった。確かに、国防の中心を担ってる騎士団駐屯地があんないい加減な警備で良いのかということもあるが、それが平和である証拠なのかもしれない。良くはないけど……


「それに、それ以外にも理由があるんですよ」


俺はそう言って、まだ納得していないヴォルフさんを連れて奥へと進んでいった。

内部を進んでく俺たちはとりあえず訓練場を目指すことにした。理由としてはそこが一番今の騎士団の現状を表していると思ったからだ。


 正門から進むこと少し、円形状の闘技場の様になっている施設の一角へとヴォルフさんを案内した。


 騎士団の訓練場でもあるここは周囲を高さ二メートルほどの塀に囲まれ、塀の上は通路となっており、そこから訓練の様子を見学できるようになっている。


 ヴォルフさんを連れて通路に行くと、丁度訓練が始まるところだったようで何人かの騎士たちが訓練用の防具を身に着け立っているのが見えた。また通路には何人か騎士がいて、俺達と同じように訓練の様子を見るのだろう。


「うん? あの者達の紋章、私が知っている騎士団の紋章とは違うように思えるのだが……」


 これは鋭い、一目見ただけですぐにそこに気づくなんて。


「そうなんですよ。今、訓練場にいるのは王宮騎士団の団員ではなく、ランドルフ王子が直々に創設された新設の部隊員なんです」


「新設の部隊? ……それはアレか、陛下のおっしゃっていた……」


「王国史の中でも初の試みだと言われてますよ」


「何ともまぁ……まさか、それが先ほど話していた人事の話と関係するというのか!」


突然、ヴォルフさんが大声を出した。当然その声に反応するように周りの騎士たちがこっちを見てくる。


「ちょっと、ヴォルフさん俺たち部外者なんですから声を抑えて」


「おお、これはすまない」


 一緒にいて分かったことだがヴォルフさんは結構鋭く、すぐに物事の関連性に気づくようだな。さすがは伝説的な冒険家とでもいうのだろうか?


「ともかく、ヴォルフさんの推測は当たってます。部隊の新設は現団長のエドアルド殿の就任後ほどなくして行われましたから」


 そして俺はひそひそとヴォルフさんに当時のことを話し始めた。

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