第147話、開戦! 国境の戦い――ではあるのだけれど
隣国が攻めてくる。
私の周りが慌ただしくなった。
ダンジョン探索を楽しんでいたイリスも聖騎士の務めから、軍務に戻った。魔術師ウイエもまた、イリスと共に国境へ行くという。
「寂しくなりますね」
フォリアが言うのを私は静かに頷いた。
国境での戦いに、私は参加しない。
これはソルツァール王国と隣国の戦いだ。少し前の私であれば、一応王国領であるが、誰の管理もしていない魔境に住んでいる人であり、人間同士の戦争に介入する理由がない、と思っただろう。
では今はどうかと言われると、あまり変わらないかもしれない。とはいえ、もし頼まれていたなら、参陣したんだろうな。
しかし、そう考えると、ソルツァールの民でもなく、住み出して少しの私が、王国に肩入れするのは、おかしくないかとも思える。私の暮らしの邪魔をしなければ、どうでもよかったのにね。
「お師匠様が参加していたら、王国は間違いなく勝てると思うんですけど……」
「王国側は、誰も言わなかったな」
ぜひ力を貸してほしい、とか。誰も言わなかった。
最近、忙しくてこちらにこなかったフレーズ姫が久しぶりにやってきた時も。
『ジョン・ゴッド様よりいただいた力。王国を守るために使って、一人でも民の命を救って参ります』
そう言って姫は、跪くと私を御神体のように拝んでいった。……体が弱く、外に出るのも難儀していた娘は、どこにもいなく。今や戦争に行く軍の一員として、国境へ赴くのだ。
クラージュ第二王子は、魔境ダンジョンで訓練していた騎士たちを連れ、やはり前線に向かう。
『オレ専用の機体も間に合った。存分に活用して、王国を守ってくる!』
戦う王子として、彼は先頭に立って戦う覚悟のようだ。彼が口先だけではないのは、私も知っている。少々暑苦しい男なので、私は彼に、一つプレゼントを渡した。
ランダムダンジョン産、アイスドラゴン・ヘッドという魔道具なんだがね。魔力を込めると、冷気が出るらしい。これから季節的にも暑くなる上、鎧などの装備をつけては汗ばむだろう。
暑さでへばってしまっては、本来のパフォーマンスを発揮できないだろうから、兵たちにも気を配ってあげてね。
『兵たち……。すまねぇ、そこまで気が回ってなかった! 注意する』
何故か、とても悔しそうにしながら自分の頬をひっぱたいていたので、クラージュ王子も、隣国との
ちなみに、ドラゴンヘッド、あまり強くすると、周りも氷づけにするくらい強い冷風になるから気をつけてね。
・ ・ ・
王国軍が動いたのが関係しているか知らないけど、魔境ダンジョンに入る冒険者の数も減った。
聞けば、冒険者の一部も軍に集められて、従軍らしい。……フォリアが私のそばに残っているのは、呼ばれなかったのかな?
冒険者は、普段から武器の携帯を許されている職業だが、こういう戦争なり、国の大事には召集に応じる義務が生じる。
とはいえ、全員が全員呼ばれてしまうと、モンスターに対する各町の防衛や治安に問題が出てくるから、どれだけ多くても半分は残るようにできているらしい。
王族のために作った飛空艇も魔境にはなく、学校は相変わらずだけど、この魔境も静かになった。
しかし、いつもの面々がいないと、何だか寂しいような。こういう感情になるのは、私もすっかり人に慣れてしまったからかもしれないね。
その一員になれた、というのか。少なくとも、今どうしているんだろうと心配するくらいの心境にはなっている。
そしていざという時は、駆けつけてやろうという気分にさえなるのだ。
しかし、それは杞憂に終わった。
何故ならば、国境での戦いは、ソルツァール王国軍の大勝利に終わったからだ。
一方的な大勝利。
機械騎兵の数で1対3の劣勢だったが、性能が隔絶しているイリスとクラージュ王子の機体が隣国機械騎兵を文字通り圧倒した。
では歩兵同士の戦いはどうなったかと言うと、これまた圧勝だったという。そして勝因は――
「これ! ジョン・ゴッド殿がくれたアイスドラゴン・ヘッドが役に立ったぞ!」
「?」
暑くなるから、コンディションを整えるためのひんやり魔道具のつもりで渡したんだけど……。
いやまあ、本来の使い方では、ドラゴンブレス並みの冷気を放つものだが、それなりに魔力が必要となる。超難度ダンジョン産だけあって、並みの魔術師でも本領発揮が難しい代物だったはずだが。
聞けば、アイスドラゴン・ヘッドの効果を知った王子と王国軍は、踏み込んできた隣国軍に対して、猛烈なる吹雪を発動させ、その兵たちを凍えさせることに成功。
比較的薄着で、防寒対策などしていなかった敵は、その戦闘力を大幅に低下させ、数で劣るソルツァール王国軍の反撃に総崩れとなったらしい。
軍団一つを凍えさせるって……。魔道具が凄いのもあるのだが、その本来のスペックを誰が引き出したんだ――とか思ったら、やったのはウイエらしい。
魔境で魔法について勉強し、より知識を深めていた彼女は、ここぞという場面でそれを発揮したという。
「全ては、この時のためだったのだな」
クラージュ王子は言った。
「オレが、あなたと巡り合えたのも、アイスドラゴン・ヘッドを託されたのも、魔術師ウイエが、その力を引き出せるよう修練したのも、すべて、ジョン・ゴッド殿の先を見通す力! 神だ! ソルツァールの神!」
その後は、色々な人から、感謝と神呼ばわりだった。……神様ですけどぉ? 元だけど。
『神! 神! ソルツァールの神!』
……それはともかくとして、初戦で侵攻軍を失った隣国は、たちまち戦意を喪失。そろどころか、国境を接する他の国々から、主力喪失を機会とみて、次々に逆侵攻を受ける格好となり、ソルツァール王国との戦争どころではなくなった。
私は何もしていないが、勝ってしまったね、この戦争。
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