第144話、熱かったり、冷たかったり
ダンジョンの風景は、実に多彩だ。まるで世界が詰まっているかのようだ。
「第3階層は酷いところでしたねぇ」
ミリアン・ミドールは、そう評した。
「熱々の火山地帯フロア……。酷い初見殺しですよ」
「普通の人間には、ちょっと厳しいところだったね」
マグマが流れ、汗さえ蒸発する熱気と、有毒ガスまみれの階層だった。対策していなければ、毒と熱にやられて命を落としていただろう……人間なら。
私は神だし、シスター・カナヴィは悪魔。そしてミリアン・ミドールは、ホムンクルスボディ。ガスも無効だから、少々熱いくらいで済んだけれど。
「空気は悪いし、服には穴が開くし、灰を被るしぃ――」
カナヴィは不満を口にした。
「まったく、嫌なフロアだったわ」
その割に次の階層を出た時には、煤も落ち、服も直っていたけど。ミリアン・ミドールを見てみなさい。ローブやマントに火山灰で焼けて小さな穴が空いていたり、元の色より少々黒くなっている。
「呼吸系に問題はない?」
「ええ、ジョン・ゴッド様。問題はありません」
ミリアン・ミドールの体は人工物だけど、マグマで熱せられた空気は、呼吸だけで生き物の肺を焼き、ダメージを与える。いくらホムンクルスといえど、生き物よりマシではあっても、決して無敵ではない。
「それにしてもゴーちゃんがいてくれて助かりました」
ミリアン・ミドールは、随伴しているアダマンタイト・ゴーレムを頼もしげに見上げた。
「第3階層は、火の玉を飛ばしてきたり、マグマの力を持つゴーレムなどでした。魔法は効きにくいし、触れると大火傷とか、優しくないですよ」
ゴーちゃんは、一応喋られるがここまでほとんで会話に加わらなかったので、地味ではあるが、何気にパーティーの壁として活躍していた。マグマ属性ゴーレムのパンチを無傷で耐え、逆に触れたら溶けるマグマゴーレムをパンチで沈めていた。さすがはアダマンタイト。
「伊達に超難度ダンジョンというわけではないらしいね」
私がそういうダンジョンを所望したというのもあるけれど。ランダムダンジョンの怖いところであり、面白いところではある。
・ ・ ・
第4階層は、打って変わって、水没した遺跡のようなフロア。建物が水面から出ているが、全体の一部。本来の地面は水底で、建物の大半が水の中に沈んでいた。
浮遊の魔法を使って、水面から出ている部分を見て回ったが、ゴールらしきものは見えない。
見つかるのはモンスターばかり。サハギン系モンスターが、鉄砲魚のように水流を吐き出して、こちらを撃ち落とそうとしてきて、魔法などで反撃すると水に潜って回避した。
「うっざーい!」
シスター・カナヴィは悪魔の翼を背中から出して飛んでいたが、敵の攻撃と回避を非常に面倒がっていた。
とはいえ、サハギンたちも私たちばかりに構ってはいられなかった。水中にはさらに大きく、凶暴な生き物がいて、よそに気を取られたサハギンを丸呑みにしたのだ。
「これも一つの生態系かな」
さて、上をどれだけ見ても、次の階層への入り口が見つからないので、私たちは一つの結論を導き出した。
「たぶん、水の中だな」
またも人間などには対策なしでは、突破困難な道だ。魔法や魔道具なしでは、呼吸がもたない水中の中に、出口が設定されているとなると。
水面からは、水没している建物が透けて見えるのだが、全てというわけではなく、見えないくらい深い場所も多々あった。
ミリアン・ミドールがボソリという。
「私、海とかそこの見えない湖って、昔から苦手でした。理由はわからないのですが、深い場所がとても恐ろしい」
「泳げないのぉ?」
シスター・カナヴィが、上目遣いで覗うようなあざとい姿勢で聞いた。しかしミリアン・ミドールは真顔である。
「泳げる泳げないとは、次元が違く怖さなんですよ。説明が難しいのですが、こう息が詰まるというか、呼吸ができないのはわかるのですが、妙に引き込まれるというか。そこから出てこれないんじゃないかとか……ちょっとグチャグチャしてわかりにくいと思いますが」
「そういう人もいるようだからね。君だけではないよ、そういうのは」
水中適用の魔法を使った後、私たちは水の中へ入った。上層のほうは、水没した建物があって、ある種幻想的ではあった。
珍しいものを見た感覚というか、ちょっとワクワクした。水の中という、独特の感覚もあるんだろうけど。
そして思っていたより底が深かった。都市のようだったが、神殿のような大きな建物もあって、水中のモンスターを対処しつつ、探索をした。
時々、遠くで発生する渦は、ちょっと怖かったね。
例のサハギンを捕食したモンスターは、巨大な蛇のような姿をしていた。私たちはその索敵範囲の外にいたのか、襲われることはなかったけど、こちらを襲ってくるサハギンに対しては積極的に向かっていった。
サハギンを敵視しているのか、はたまた大好物なのかもしれない。
水没した水道橋をくぐっていくと、第四階層のボスモンスターがいた。なんとなく予想していたが、巨大な蛇竜だった。
水の中という普段とは勝手が違う場所だったけど、水上に引っ張り上げてしまえば、それほど苦労はなかった。
「いやいやいや、ジョン・ゴッド様だからですからね! そこを忘れないでいただきたい!」
第4階層を抜けた後は、ミリアン・ミドールはいつものテンションに戻っていた。心持ちおとなしかったな、と後になって思った。
第3階層に比べて、水没していたとはいえ、お宝が多かった印象。まあ、記念品になるかな。武具とかは、魔境ダンジョンで再利用していいかもしれない。
さて、火山、水没都市ときて、お次は何だの第5階層――
「雪だー」
見渡す限りの大雪原。いやー、白いね。そして寒いね。
「少し空気が薄いですねぇ」
ミリアン・ミドールが首を傾ければ、カナヴィは言った。
「空気が冷えているからじゃないー?」
「そうなんですけど、それとは少し違う……。標高の高い山にいる時の感覚に似ています。あ! ジョン・ゴッド様、これ雪原じゃありません、雪山ですっ!」
雪だらけに見えるが、よくよく見ると崖だらけというか、凄い場所に来てしまったな。
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