第141話、私もダンジョンに挑みたい


 一般冒険者に開放された魔境ダンジョンだが、テスターを称して先行者たちは、なお下層を目指していた。

 最近ようやく半分である50階層を超えたが、出てくるモンスターは手強く、また地形やトラップも巧妙さを増していて、さすがのイリスやコング氏も手を焼いているようだった。


 それでも、家に帰れば、イリスやウイエ、フォリアは楽しそうにダンジョンの話をし、モンスターやトラップの攻略談義をしていた。はじめは私もニコニコと話に耳を傾けていたのだけれど……。


 何というか、仲間外れ感というか? 私が作ったダンジョンだから、タネも仕掛けも知っている。だから話す内容はわかるんだけど、話したら謎解きや挑戦の興が醒めるみたいな? 言いたくても言えないことも多々あるわけで。

 私も、ちょっと冒険者気分というのを味わってみたくなった。人がやっているのを見ると、自分もやってみたくなるというあれだ。


 しかし、魔境ダンジョンは私は知り尽くしているので、テスターはできても、心からドキドキできるかと言うと、たぶん無理だろうというのはわかる。

 なので――


「作ってみました、ダンジョンをもう一つ!」

「おおっ!!」


 ミリアン・ミドールが期待通り驚いてくれた。そしてこの場に呼んだもう一人――悪魔シスター、カナヴィは首をかたむけた。


「ちょっとぉ、呼ばれたから来たけど、もしかしてただダンジョンを自慢したいだけだったりする?」

「たまには、外で暴れ回ったりしたいかなー、と思って声をかけた」


 悪魔が人目も憚らず暴れると、面倒しかないが、他に人のいないダンジョンだったなら多少荒ぶっても、問題ないかな、と気を利かせたんだけどね。


「……あのねぇ、ジョン・ゴッド。ワタシ、ポルドの町で娼館を作って、そこの経営をやっているのよ。アナタが思っているほど、ヒマじゃないんだからねぇ」

「そんなことをやっていたのですか!?」


 ミリアンが私の代わりに驚いた。うん、君は知らないだろうけど。


「この悪魔シスターね、どこからかサキュバスを呼んできて、城塞都市にやってきて力を持て余している冒険者相手に商売をやっているんだよ」

「いいんですか?」

「まあ、ちょっと精力をもらっている程度だから、いいんじゃない。ちゃんとサービスしているようだし」

「そりゃあそうよ。やり過ぎると、色んなところから目をつけられて、大変なんだからぁ」


 カナヴィは、しなをつくる。


「ワタシも討伐されたくないからね。ご・う・ほ・うです!」


 悪魔が人間の法を守るとは、これいかに。郷に入っては郷に従う、という言葉もあるから、これも殊勝な心がけなのかもしれない。


「って言うかぁ、知ってたの、ジョン・ゴッド? ワタシが娼館をやっていたこと」

「もちろん」


 冒険者ギルドで、最近の町の需要向上に伴う新規事業とか、そういう方面も気を配っていた。


 で、新しく娼館が出来たと聞いて、調べたんだよ。もしかしたら隣国の手の者が絡んでいるかもしれない、という可能性があったから。

 町の冒険者たちから情報を収集する、という点では、娼館などのサービス業も、工作員たちの隠れ家に使われがちだからね。


 まあ、娼館はカナヴィの支配下で、どちらかと言えばこっちサイドだから、何も言わなかったし、介入するつもりもないけど。


「忙しいと言ったって、君が直接店に出ることって少ないんじゃなかったっけ?」

「知らないのぉ? ワタシ、これでも一番人気なのよ」

「ふうん」

「なによ、その淡泊な反応」

「だって君、自分が面倒だとサキュバスに自分に化けさせて対応させてたよね?」


 サキュバスは、その異性の好みに反映した姿で現れるという悪魔である。要するに変身することができるのだ。シスターが面倒臭がって、サキュバスたちに投げているのを、私は知っている。


「な、何故、知っているの!?」

「監視していた時に、その場面を目撃したからね」

「やだ、見られていたのぉ? エッチぃ……」


 わざとらしく恥ずかしがるカナヴィ。演技なのは知っている。


「まあ、わかったわよ。付き合ってあげるわ。たまに違うことをするのは、マンネリ回避にいいっていうし」


 それで、とカナヴィは自身の腰に手を当てた。


「ダンジョンを作ったって、これもまた100階層ダンジョン?」

「いや10階層なんだけどね。超難度のランダムダンジョンにしてみた」


 私が答えると、ミリアン・ミドールが目を丸くした。


「え、ランダムダンジョン……とは?」

「内部構造、モンスター、トラップ、お宝など全部、ダンジョンコアがランダムに生成するようになっている」


 故に、私もどうなっているか知らない。内容がわかっているダンジョンでいいなら、魔境ダンジョンでもいいわけで、それが嫌だから、新しくダンジョンを作ったのだ。


「というわけで、中に入るたびに全てが変わるから、地図を作っても次回探索の時には役にたたない。ぶっつけ本番、毎回新鮮な気持ちでダンジョンに挑めるという寸法だ」

「なるほど」


 ミリアン・ミドールは頷いた。


「それで、私やシスターが呼ばれたのは……」

「超難度だからね。どうかな、と思ってね。君たちも、何一つ抑えることなく、本気を出せる場があったら、と思わない?」

「……さすがはジョン・ゴッド様」


 ニヤリとするミリアン・ミドール。


「ここで学んだことを実践する場を与えてくださるのですね! この機会、ありがたく利用させていただきます」

「ストレスの発散もいいかもねぇ」


 シスター・カナヴィは、何もないところから槍を取り出した。


「こっちもご無沙汰だから、暴れるわよぉ!」


 うんうん、やる気になってくれたので嬉しいよ。私と、アダマンタイト・ゴーレムのゴーちゃん、そしてシスター・カナヴィ、ミリアン・ミドールの即席パーティーは、ランダムダンジョンに挑むのだった。

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