第138話、ダンジョンを開放しませんか?
ここ最近は、私の周りではちょっとしたダンジョンブームである。
コング氏やイリスらは、ダンジョンに挑んでいるし、クラージュ王子と騎士たちは、ダンジョンモンスター相手の実戦訓練を積んでいる。
その間の私は、テスターをやってくれている冒険者たちのために、各階層に転移魔法陣と転移石を紐づけし、登録した魔法陣へ移動できるようにした。
後は、階層ごとに休憩所ともいうべき安全地帯を設置した。何もない部屋だったり、遺跡を模した一帯だったり、周囲の地形に溶け込むようにデザイン。共通しているのは、聖域化の魔法陣があるので、モンスターは入ってこないようになっていることか。
今のところ順調である。
冒険者たちも、それなりに苦労しつつ次へ次へと階層を進めている。
そしてさほど時を置かずして、ポルド城塞都市の冒険者ギルドのギルドマスターであるアーミラが訪れた。
「テスターをやっている奴らは、上手くやっているようだね」
「そうだね。楽しそうに探索しているよ」
「楽しそう、ねぇ……」
苦笑するアーミラである。
「で、ずいぶんと気前のいいことに、お宅のダンジョンでの戦利品の一部を換金したり、素材をこちらに落としてくれているんだけどね」
だろうね。何となく想像はつくよ。
「それで、だ――」
アーミラは思わせぶりに言った。
「一部羽振りのいい奴が現れると、他の奴らもざわつくわけさ。新しい穴場が見つかっただの、新規ダンジョンだの、噂になっている」
一応、一般公表は控えているが……そうなるよね。お察し。
「で、今のところ、そちらに上げているのと同様の報告書が、こちらにもあるわけだが、ジョン・ゴッドさん。ダンジョン、一般開放してくれないか?」
「……」
ウイエもそうなるって口ぶりだったから、私としても、やはりそうなったかという思いだ。
「ギルドのほうに問い合わせが多くてね。今はまだ特殊なクエストで、公表できないとしているが、それも時間の問題だ」
目の前に金のなる木があるらしいのに、それを教えてもらえない――さぞ、一般冒険者たちは苛立っているだろうね。
「一般開放はいいけど、ダンジョンに来られる方法も込みで、ちょっと考えないといけないね」
転移の杖で、ダンジョンの入り口まで移動できる、と言っても、それを冒険者パーティーごとに配るわけにもいかない。
ダンジョンコアに量産させてもいいが、どうせ量産するなら他のものにしたいし、現状のようにエルバと仲間たちの工作では、まあ間に合わないわけだ。
「どこか、手頃な場所にダンジョンの入り口へ行ける転移魔法陣を置こう。町外れの祠みたいな……。あるいは魔境の手前とか」
転移の杖なしでも、ダンジョンの入り口へ行き来できるようにする。
「なるほどね。ちょっと探してみるよ」
アーミラは頷いた。
「利便性を考えれば、近いほうがいいけど、ダンジョンスタンピード、それも魔境のダンジョンだって考えたら、あまり近くても町の住民を怖がらせてしまうからね」
「その辺りは、そちらに任せるよ」
場所さえ決まれば、こちらで魔法陣を設置するから。
これで一つ解決。他は……。
「転移石かな」
これもウイエが指摘していたけど、エルバが転移石の量産に時間をとられているとか。
現状の転移石は、ダンジョン入り口への転移の他、念話機能、位置発信機能、あとダンジョン内の転移魔法陣と紐づけもできるようになっている。
より深い階層へ挑むならば、欠かせないものだが、多数の冒険者が挑むとなれば、数が不足することは想定できた。
「それについては、ダンジョン攻略用に販売するってのはどうだろう?」
ギルマスは提案した。
「聞いた話だと、転移魔法陣を利用しないと、より深い階層に挑むのが難しいというじゃないか。転移石を買えない冒険者は、低層止まりだろうし、深く潜りたければ多少高くても転移石は買っておくべきだ」
少なくとも、上位の冒険者はより良い報酬を求めて、転移石を買う。実力の伴わない、あるいは初心者は、まず転移石が買えるくらいの力をつけてから、ダンジョンの深層に挑め、と。
「どうせ弱い奴には転移石の恩恵も少ない。必要な奴が買うという風にすれば、数もある程度コントロールできると思う。それに、入って数階層は、初心者に対して教育的にできているって報告にあったし」
「素晴らしい。名案だ」
さすが冒険者ギルドのマスターだ。これで、のべつ幕なしに転移石を量産する必要はないな。
初めは騎士団用の演習場ダンジョンだったが、気づけば冒険者たちの狩り場、経験を積む場にもなりそうだ。
冒険者が強くなれば、ダンジョンスタンピードへの対抗や、上級のモンスターが町や集落に現れても討伐できるようになる。私個人としては、特段何かあるわけではないが、国を守る力が強くなることはよいことだ。
……昨今、隣国の動きが怪しいらしいし、いざ事を構える時になった時、王族も冒険者を戦力として頼れるだろう。
そう考えれば、悪い話ではない。
・ ・ ・
魔境ダンジョンが、一般冒険者たちに開放されることになった。
それに合わせて、ダンジョン入り口に飛ぶ魔法陣を置く祠が、ポルド城塞都市近くにある小さな森の中に作られた。
ちょっとした部屋くらいの大きさの石造りの建築物。雨風を凌げるが、それ以外は何もないそこに、転移魔法陣を設置。
これは魔境ダンジョンの入り口前にも、同様の魔法陣があって、そこと繋がっている。
直通の魔法陣で、使用時は強く発光する。この時は向こう側の転移魔法陣を誰かが使っているので、少し待て、という合図だ。
テスターの冒険者たちは何だかんだ20階層当たりまで来ているが、できればもう少し記録が取れてから、開放したかったね。
今のところ、先行者たちからは、普通にしっかりダンジョンであると評価されているのでいいんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます