第134話、いざダンジョンへ


「やあ、ジョン・ゴッドさん。来たよ」


 冒険者ギルドからコング・コルドウェルが、転移の杖を使って魔境ダンジョンにやってきた。一応パーティーできたようで、他に冒険者が六人。


「ようこそ、魔境ダンジョンへ」


 私は歓迎すると、早速、ダンジョンルールの説明をした。細々としたようなことを言っても、右から左へ抜けていきそうだから、あくまで軽く。しかし一番大事なところは伝えておく。


「このダンジョンには死なずの呪いがかかっている。そうは言っても死ぬといえば死ぬんだけど、特定の薬や上位の治癒魔法で蘇生が可能だ。だからダンジョンの罠やモンスターにやられても、蘇る可能性もあるから諦めないでほしい」

「復活ができるのか!?」


 コング氏の驚きは、他の冒険者たちも同様だった。蘇生、復活の類いなんて、そうそうないものだ。

 聞けば上級神官の高位魔術があるらしいが、それを一般人が頼めるようにはできていない。それが一部条件があるにしろ、冒険者でも機会があるというのは大いに驚くところではある。


「ダンジョンというのは不思議なものだよ」


 詳細については、有耶無耶にしておく。コング氏はともかく、他の冒険者には、ダンジョンコアで作った人工ダンジョンであることは、明かさない方向だ。

 ……まあ、初回探索については、難易度判定も兼ねて専門の冒険者を連れてくるという話だったので、今回のメンバーについてはテスターであると共に、人工ダンジョンだと知らされているかもしれない。そこはギルドの裁量に任せてある。


「それと、これは試作なんだけど――」


 私は冒険者たちに、卵型の石を渡した。


「うちの魔道具職人に作ってもらったんだけどね、ダンジョンの入り口まで転移で戻れる魔道具だ。もし瀕死だったり、身動きできなくなった時は、これを使ってくれ」

「転移石っ! オレ、初めて見たぜ」

「こんな貴重なものを……」

「何か、至れり尽くせりって感じだ」


 冒険者たちの反応は上々。せっかくテストしてもらうんだから、何が何でも帰ってきてもらわはないといけない。これは君たちのためっぽいけど、私にとっても大事だから提供している。


 ミリアン・ミドールは、今後、冒険者が普通にダンジョンに挑むようになったら、安価で売りつけてみては、と言っていた。

 人が行き来するなら、ダンジョン村のように、冒険者向けの商売をするのもいいかもしれない。魔境の学校に通っている生徒たちの働き口になるかもね。


「ダンジョン内にはトレジャーも配置されているから、見つけたものは持ち帰っていいからね」

「おおっ!」


 冒険者たちのテンションが一番あがったのはそれ。

 一通り連絡事項を通達し、後はコング氏にお任せする。


「ようし、それでは探索活動を開始する! 今日は日帰りで行けるところまで行く。まったく情報がないから、正直一階層の探索だけで時間いっぱいになるかもしれんが、まずは雰囲気をつかめ」


 依頼内容は忘れていないようだ。それに未知の場所だから、慎重なのはさすが冒険者である。

 どれくらいの広さかもわからないのでは、かかる時間も推測もできないだろう。それでも私個人としては、じっくりやっても五階層くらいは行けるんじゃないかと思っている。時間を気にしなければ、もっと進めるだろう。


 まあ、頑張って。

 私は、冒険者たちを見送ると、観察用ゴーレムに記録を取らせて、その場を後にした。



  ・  ・  ・



 やってきたのはダンジョン別口。100階層の演習用ダンジョンとは別の、基礎ダンジョンともいうべき施設である。

 いずれは、ダンジョン遊園地なんかも作りたいね。


「よう、ジョン・ゴッド殿」


 クラージュ第二王子が私に気づいた。


「例の冒険者たちはダンジョンに入ったのか?」

「ええ。つい今しがた」

「演習用ダンジョンも、いよいよ動き出したってところだな」


 腕を組み、クラージュ王子は頷いた。それはそれとして――


「どうですか?」

「大変素晴らしい。おれはそう思う」


 王子が視線を転じると、そこには王国軍の騎士が十人ほどいた。何をしているかといえば、モンスターを近くから観察している。


「ダンジョンコアが作り出したモンスターは、ある程度制御できるという話だったが、ああやって戦わずに間近に観察できるってのは凄くよいことだ」


 そう、騎士たちは、手を伸ばせば届く範囲にいるモンスターをじっくり見ている。

 野生のモンスターだったら、逃げるなり襲ってくるなりするものだ。だからモンスターとの戦闘経験が豊富な冒険者ならともかく、騎士らは、ゆっくりと観察することは不可能であろう。

 だから、モンスターとの戦闘経験が比較的少ない騎士たちに、それがどういうものなのか学習できる機会を作ったのである。


「モンスターといっても、漠然と怖いもの、危険なものという認識でしたが――」


 ある騎士は言う。


「こうやって間近で見ると、野生の獣の延長って感じでした」

「普通に触っても、噛みつかれないって、相当だぜ? このままペットにできそうですらある」

「狼型はともかく、蜘蛛型とか蛇型は嫌だな……」


 騎士たちは思い思いを口にする。私はクラージュ王子に顔を向ける。


「観測したモンスターの動きのパターンも再現できるので、モンスター相手の模擬戦もできると思います」

「野生の状態での戦闘とはまた別になるんだろうが、最初はこれで、モンスターの動き方や、倒し方を学ぶのにいいかもしれん」

「ドラゴンと一騎討ちできますよ?」

「それはぜひ挑戦したいな!」


 クラージュ王子は笑った。

 かくて、ダンジョン演習場に、戦場想定の探索以外に、対戦演習が追加されることになった。

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