第135話、探索する冒険者たち
オレは、ラドロー『コング』コルドウェル。今回は、ジョン・ゴッドさんの依頼を受けて、人工ダンジョンに来ている。
あの人のおかげで、また現役で動けるようになったオレだが、ダンジョンに入るのは実に久しぶりだった。
半ば引退に近い身ではあったが、体が動くうちは冒険者でいたいと願ってやってきた。だが、こういう形を迎えることができるとは思ってもいなかった。
復帰クエストが、人工的に作られたダンジョンだったとしても、だ。
ダンジョンコアが実在していたことも驚きだったが、それでダンジョンを作ったから、試してくれとは、妙な依頼だとは思う。
まあ、ジョン・ゴッドさんには、借りもあるしな。ダンジョンがどの程度のものかわからないから、腕利きを選抜して応えたわけだ。
さあて、お手並み拝見! 勇んで進んだわけだが……。
「どうだった?」
1階層、その終着点にオレたちは到着した。
洞窟のような内装で、地下迷宮のイメージでくると意外ではあるが、そもそもダンジョンと呼ばれるものに、決まった形なんてない。どんなものであっても、ダンジョンならばそこはダンジョンだ。
「何というか、まだ1階層ですからね」
探索系探索者、カスターは答えた。バンダナをした身軽な軽戦士。ちょっと髪が無造作にツンツンしているのが気になるが、Aランク冒険者で、単独でのクエスト成功率も高い男だ。
「モンスターは雑魚。トラップと言えるのは、特に意地悪な仕掛けもない浅い落とし穴。しかも見えているから、よほどの間抜けでなければ落ちない」
見える落とし穴、というやつだ。浅めとはいえ、甲冑をまとった重戦士だったら、落下で大怪我、当たり所によっては死亡もあり得る。
「見える罠なんで、何か他の罠のための囮かとも思ったんですがね。特にそういうのもなかった」
「モンスターが隠れている穴の可能性だったり?」
探索パーティー『グレイブル』のハリーが軽い口調で言った。
「待ち伏せ用にも使えそうな深さだったよねぇ」
たとえば――と、ハリーが壁際を指差す。
「あそこにも穴が空いてるけど、あんなところにあっても、絶対誰も落ちないよねぇ。でもオークとかが隠れて待ち伏せしているとかだったら……途端に意味があるってもんだけど」
「……」
「ん? カスターの旦那?」
カスターが、壁際の穴へと近づき、立ち止まった。まるで時が止まったように動かない。何をやってるんだ、あれは?
「カスター、どうした?」
「コングさん」
振り返るカスターだが、困ったような顔だった。
「ここに階段があります」
「何!?」
オレたちはその穴に近づいた。それまで見た浅い落とし穴に見えて、上から覗き込んだら、次の階へと下りる階段があった。
「うわぁ、何これ」
ハリーが、終着点の階段と思っていたそれと、落とし穴の底の階段を交互に見やる。
「面白いことしてくれるじゃないの。これ、どっちが正解? それとも一階からルート分岐?」
この穴を覗かなければ見つからない階段は、その難度を考えればよりこちらが正解のように思える。
見えるのは囮、偽物の階段の可能性があれば、ハリーの言うとおり、違う場所へ通じているだけのルートの一つという可能性もある。
「どうします? パーティー分けますか?」
ハリーが、オレに確認してきた。そうだなあ、オレたちの依頼は、ダンジョンを探索して、その感想を報告することだ。色々体験して、きちんとダンジョンになっているか、モンスターの強さ、罠の巧妙さなど、色々見るわけだが。
「カスター、お前、どっちに行きたい?」
「俺は、コングさんの指示に従いますよ」
どちらでもいい、というカスターである。依頼内容からすれば、どっちを選んでも問題ないと理解しているのだ。
「よし、ハリー、お前のパーティーは、ここから下へ行け。オレと残りは、あっちのわかりやすい方の階段を行く」
「了解!」
ハリーのグレイブル、四人が穴の中の階段を下りる。オレはカスターと、ソロ探索系冒険者のロールを連れて正面の階段から、次の階層へ向かった。
・ ・ ・
1階層は、次の階層に下りる階段の部屋につくまでに三通りのルートがあった。どこを選んでも、一本道となっていたから、進んでいる限り、必ず終着点に辿り着くようになっていた。
では、この三つに何か違いがあったかと言われると、罠と宝箱くらいか。仮にA、B、Cと呼称するが、出てくるモンスターはAとCは共通。Bは吸血コウモリの集団で数の多さとすばしっこいのが面倒ではあった。
が、上を見る機会が多かったおかげで、上方に宝箱があるのを発見した。準備もなしではおそらく取れないだろうが、きちんと装備があったり、浮遊魔法があれば取れるようになっていた。こういう視線の誘導は、明らかに人工物――ダンジョンだなと思う。
Cルートは、途中、底知れぬ谷があって、その先に離れ小島というべき足場があり、宝箱があった。これも準備もなしでは、谷を飛び越えるのは難しく、跳躍力のある者が、重いものを全部下ろしてようやくジャンプで届くというギリギリのところであった。
なお、宝箱の中身はライトロッド。光を放つ魔法が仕込まれた杖で、松明代わりの照明にも使える魔道具だった。
しかも光度を調整できる機能付き。最大の明るさだと、何も見えないくらい眩しかった。カスターは『使い方次第で、色々できそう』と言っていた。類似の魔道具はあるが、ここまでの光度があって調整可能なものは、かなり高級品となるそうだ。
ちなみにAのルートは、宝箱はなかった。例の浅い落とし穴がいやに多くて、通路を狭めていた。……後にして思えば、もしかしたらあの穴にも何か仕掛けがあったかもしれないな。
そして2階層に、オレとカスター、ロールが降りたが、そこも洞窟型。ただ全体的に通路が広く、また分岐も多かった。天然洞窟風だが、至る所に松明が置かれていて、明かりを提供していた。
宝箱もあったが、最初のうちは松明がトレジャーだった。何故、こんなものが宝箱に? こんなものは誰も宝とは思わないだろう――と思っていたら、理由について何となくわかった。
モンスターにスライムが多かったからだ。スライムは物理攻撃に対する耐性が非常に高く、生半可な攻撃は通じない。火に弱いという弱点があるから、魔法などで対応するのが楽なのだが――
「このフロア、トレジャーの松明もですけど、照明も松明ばかり。魔法の使えない冒険者には、それを活用して対処しろ、って言っているみたいです」
ロールがそんな感想を口にした。それを聞いて、オレもなるほどと思った。
このダンジョン、やたら教育的にできている気がした。
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