第130話、若手冒険者を見て回ったら
冒険者ギルドの裏はちょっとした演習場となっていた。
若手冒険者の戦技指導や、魔法の訓練。そしてランク昇級の試験や模擬戦などをやるらしい。
これは、魔境の学校の運動や魔法授業の参考になるかな……?
……そして相変わらず、フォリアに挨拶していく冒険者の多いこと多いこと。
「よう、生きていたか、フォリア」
「会いたかったぜぇ。今度飯を奢ってやるよ。じゃあな」
声だけかけて特に深く絡んでくる者はいない。みんなの愛されマスコットみたいなもので、変な絡みをすれば周りの冒険者から袋にされるんだろうな、きっと。
「いい人ばかりだな」
「そうですね」
フォリアは照れたように笑った。
私は、冒険者たちの邪魔にならないように、しかし微妙に距離を起きつつ演習場を歩いた。フォリアとイリスがついてくる。
魔法の練習をしている若い冒険者の背後に立つ。青年、いや少年かな。装備は上等ではなく、駆け出しのような雰囲気だ。
傍らには先輩冒険者らしい魔術師が、退屈そうに座り込み、監督しているようだった。
「灼熱の球、我が敵を討て! ファイアボール!」
若い冒険者の掲げた杖から、火の玉が飛び出す。飛び出すのだが……。
「貧相ね」
イリスがズバリ言ってしまった。上級魔術師のウイエと比べるのは違うとは思うが、彼女だったら、もっと凄い魔法を使う。
若い冒険者が、先輩冒険者に向き直る。
「ど、どうですか!?」
「どうって……。魔法の素質はあるけど、これで魔術師を名乗るのは無理だわ」
先輩は、時間の無駄だったと言わんばかりの顔である。
「学校も言っていないガキにしては、使えるだけ上出来。……ただ、ちゃんと戦力になるつもりなら、学校行って勉強したほうがいいぜ」
「学校に行くお金はありませんよ」
「……だよな」
先輩はガクリと首を垂れさせた。
「ちゃんと行けるんなら、こんなとこにはいないよなぁ」
「それに、ああいう魔法の学校って、家系にうるさいらしいじゃないですか。僕なんて……」
「確かにな。かく言うオレも、随分と爪弾きにされたもんよ。だから中退したった。――ん?」
先輩冒険者が、私に気づき、少年も振り返った。割と近くにいたせいでビックリされてしまった。
「あ、あの何か?」
「一つ聞いてもいいかな?」
私は少年を見た。
「君、どうして雷の魔法を使わないの?」
「か、雷ですか……?」
少年は面食らう。
「使えませんよ。僕、ファイアボールの魔法しか――」
「そうなのか。君、火属性と相性あまりよくないみたいだけど」
「え……?」
「さっきのファイアボールを使う要領で、サンダーボルトと唱えてみなさい。あの的めがけて」
「あなたは何なんですか、いきなり――」
「通りすがりの魔法使いだよ。まあ、騙されたと思ってやってみなさい」
「おいおい、兄さんよ。そりゃ無理ってもんだぜ」
先輩冒険者が口を挟んだ。
「魔法には呪文もだが、イメージってもんが結構大事なんだ。こいつ、サンダーボルトの魔法は見たことないだろうし、いきなりやれって言っても無理ってもんだぜ」
「呪文というか、言葉に力が宿るというものだ。――やってみなさい。君には素質がある」
「……」
少年冒険者は、的に向き直り杖を向けた。
「さ、サンダーボルト!」
雷が走った。轟音が走り、的に電撃が突き刺さった。場がしんと静まり返る。
「……え?」
ポカンとなる少年。周りも呆然となる。
「何で……」
「君、雷属性に高い適性があるんだ。だからファイアボールを使うのと同じ要領で、雷属性の魔法を使えば、この通り使えてしまうわけだ」
これがいわゆる適性、得意属性とそうでない属性の差である。
「君の場合、最初に覚えた魔法が相性悪い属性だったのがいけなかったみたいだね。他の属性の魔法は、もっと効果が高いだろうし、雷属性ならば今みたいに一番伸びるだろうね」
「はっ、はい! ありがとうございますっ!」
少年冒険者は上ずった声で返した。先輩冒険者が私に近づく。
「あ、あんた、適性がわかるのかい? オ、オレ! オレは何かわかるか!?」
「うーん、取り立てて何か強い属性はないなぁ。全体的にバランスがよくて、可もなく不可もなし……」
「駄目かぁ。学校でも器用貧乏って言われてたもんな」
「見たところ、君は攻撃魔法を覚えているようだが……治癒魔法を覚えていないのには、何か理由があるのかね?」
私が確認すれば、先輩冒険者は目を丸くした。
「治癒魔法って……オレは魔術師だぜ? 治癒魔法はヒーラーの領分で、魔術師の専門じゃないぜ?」
「そうかな? 君は大抵の属性を持っているから、治癒魔法、習得してみたら?」
「本当に……? マジで言ってる?」
嘘は言っていないよ。
「器用貧乏ってことは、裏を返せば、何でもできてしまうってことだ。多芸さを伸ばしたらどうかな?」
「お、おう……」
先輩冒険者は、熟考するように考えに没する。話は終わったようなので、私は移動する。
「ねえ、ジョン・ゴッド」
「何だい、イリス?」
後ろから声をかけられたから振り向けば、聖騎士様は眉をひそめていらっしゃった。
「私、あなたには加減しなさいって言っているわよね?」
「加減もなにもないが?」
ただ思ったことを口にしただけだよ? いけなかったかな?
「ジョン・ゴッドさん」
野太い男の声が降りかかった。前ギルドマスターであるコング氏が、私を見下ろしていた。
割と近かった。いつから居た?
「ちょっと、一緒にきてもらっていいか?」
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