第129話、さらに説明する
イリスがいてくれたおかげで、冒険者ギルドへの依頼はスムーズに進んだ。
王族で聖騎士という彼女の存在が、ギルドマスターであるアーミラの信用を得たのだろう。
私だけであれば、もう少し話を理解してもらうまでに時間がかかったと思う。最初の説明段階で、私の想像と違う部分で驚かれたりしたからね。
場合によっては冗談や嘘依頼と思われて、摘まみ出されていたかもしれない。何せ初対面だし、信用なんてないから。
詳細を詰めていく過程で、どの冒険者を送るか、という話になった。
「さっきも言ったけど、派遣する冒険者のランクによって依頼料は変わる」
アーミラは告げた。
「上位ランクになればなるほど、料金も上がる。その分、腕が立つから確実に仕事は果たしてくれる」
「うむ」
「そこで問題になるのは、ワタシらは、そのダンジョンがどのレベルにあるか、まったくわからないことだ」
アーミラは眼鏡をかけた。知的度アップ。
「低ランクでは、ジョン・ゴッドさんの知りたい感想ってやつもあまり参考にならんかもしれないし、ただ強い奴でいいなら、そちらのイリス殿下でもいけるわけで――」
ちら、とイリスを見やる。
「――わざわざ冒険者ギルドに依頼しなくても、それこそ王国騎士に直接演習で突っ込ませてもいいわけだ」
ふむふむなるほど。それでアーミラは、どの程度のランクの冒険者がいいか尋ねてきたが、あいにくと私は冒険者たちをほとんど知らないからね。
ただ――
「サンプルが欲しいから、ランクはあまり気にしなくてもいいかもしれない」
低ランクが瞬殺されたり、高ランクがあっさり突破したとしても、それはそれで記録だから、色々やってもらったほうが、角度も増す。
「なんならイリス姫もタンジョンを攻略したがっていたし、参考にならないと思っていたが、案外それもサンプルになると思い直した」
もっとも、私としては冒険者の感想を聞きたいというのが目的であるから、イリス云々はまた別と考えればいい。
「それこそ腕のいい冒険者なら、どこまで行けるか挑戦してもらってもいいかもしれない。報酬に魔法武器とか道具を、階層ごとに設置すれば、追加ボーナスという形になるだろうし」
どうだろうか、手前勝手過ぎたかな? 私が見れば、アーミラはニヤリとした。
「まあ、依頼者はあなただ。冒険者を使って何かよからぬ企みをしているとかではないなら、極力クライアントの意見には従うよ」
「よからぬ企みね……」
「イリス殿下がいらっしゃる時点で、そこのところは心配していないがね」
ここでも役に立ったイリス姫の存在。清廉潔白な聖騎士様……。これまでの行いによる担保なんだろうけど、魔境の家では割と自由人なんだよね彼女。
「とりあえず、偵察系冒険者にある程度の情報収集はさせたい。それで階層ごとに大体の推奨ランクもわかるだろう」
アーミラは、方針を示した。その後に様々なランクの冒険者をダンジョンに挑ませて、サンプルを得るという感じだ。
「それでお願いしよう」
専門家に頼るに限る。少し突っ込んだところで調整を行ったところで、アーミラは言った。
「それで、そのダンジョンの場所はどこになるのかな?」
町から数日かかる場所ならば、派遣する冒険者にも準備が必要だが、と彼女は告げる。至極ごもっとも。
「場所は、魔境だ」
「魔境!」
本日何回目かはわからないが驚きポイント。そうだよね、冒険者でもそこの探索は滅多にやらないと、フォリアからも聞いている。
その滅多にやった探索が、私とフォリアを引き合わせたのだから、不思議なものだ。
「魔境かぁ……」
コングが首をひねる。
「まああそこは未開拓の土地だ。ダンジョンの一つもあってもおかしくはない場所ではあるが……。辿り着けるのか……?」
「そういうだろうと思って、こんなものを用意した」
私は、とある杖を取り出す。
「転移の杖というんだ。これを使えば、決められた場所に移動ができる」
「転移の杖!?」
知ってる。そんな反応をされるのもね。
「それは凄まじくレアなアイテムではないか!?」
「金にしたら、屋敷が買えるんじゃない!?」
コング、そしてアーミラは顔を見合わせる。聞き逃していると困るから敢えて言おう。
「繰り返すが、転移できる場所は決まっていて、それ以外の場所には転移はできない。だからそこまで便利な物でもないよ」
言うなれば、冒険者ギルド側で定めた場所と、ダンジョンの入り口を行き来する以外に使えない。だから盗んでも役に立たない。
「でも、その杖を調べることで、転移の範囲や場所を増やせるかもしれないのでは?」
アーミラの指摘は、つまり研究目的の窃盗の可能性だな。
「すでにエルフの魔道具職人が、量産できないか解析をやっているよ」
うちに出入りしているエルバが、実は他で使える転移の杖が作れないか研究している。たとえ研究目的で冒険者の誰かが盗んでも、解析はできるかな……?
「ともあれ、移動の問題はこの杖を使えば、私の作ったダンジョンの入り口まで行ける。だから何の心配もなく、ダンジョンに挑めるということだ」
「……わかった。いや、正直まだ色々思考が追いついていないけど、とりあえず、その方向でやっていきましょう」
アーミラが自身のこめかみに指を当てながら言った。どうやらここまでインパクトのあることが多すぎて、思考が飽和状態になっているかもしれない。
「親父。偵察系冒険者だけど、張り出しじゃなくて、指名でいいよな?」
アーミラは、コングに人選について相談する。張り出しって何だ?
「……フロアのクエストボードに依頼書を出すことですよ、お師匠様」
フォリアが教えてくれた。依頼書の内容、報酬を見て、冒険者が仕事を選ぶのが張り出し。ギルド側で仕事を冒険者に直接依頼をあてるのが指名らしい。
前者は条件を満たせば誰でも選べるから、今回の希望の、偵察系以外の冒険者が依頼を選んでしまう可能性が出る。それを避け、偵察系冒険者にやってもらうために、指名があるのだ。
「人選はそちらにお任せする。……少し、このギルドの冒険者を見てもいいかな?」
純然たる興味で私は言った。なにぶんフォリア以外の冒険者をほとんど知らない。どういう人がいるのか、今回の依頼に関係なしに見ておきたいと思った。
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