第128話、ギルドマスターに説明する
「ワタシはアーミラ・コルドウェル。ポルド城塞都市の冒険者ギルドのギルドマスターだ」
いかにも女傑という雰囲気の彼女は、そう名乗った。
二十代くらいに見えるが、自信に満ち溢れ、ただいるだけなのに周りを威圧してしまう貫禄があった。
少なくとも、只者ではないと感じさせる雰囲気はあった。
そしてその脇に控える巨漢は――
「あ、その熊は無視していい。ここのマスターはワタシだから」
「えぇ……、アーミラ。客人を前にそれはないんじゃないか」
巨漢は動き出した。
「ポルド城塞都市の冒険者ギルドのマスター、『コング』・コルドウェルだ。よろしく!」
「『元』ギルマスだろ、親父!」
アーミラが怒鳴った。この容赦ない調子からして、本当に親子なのかもしれない。肌の色も髪の色も違うから、アーミラは母親似なのかな。あるいは血が繋がっていない親子か。
「で、ご用件を伺いましょうか、イリス・ソルツァール姫殿下」
アーミラは席を立ち、イリスに向かって一礼した。フォリアが何か言いかけるが、それより先に、イリスが口を開いた。
「私は、この人の付き添い。用件があるのは、こちら」
そう言って、私を指さす。アーミラとコングが、怪訝そうに私を見た。そうだろうね、まだ自己紹介していないから。
「こちらは、ジョン・ゴッドさん」
フォリアが先に、私を紹介した。
「私のお師匠様で、今、こちらでお世話になっています」
「ほう、そうなのかい。まあ、いいものを食べているのは、一目みればわかる。元気そうでなによりだ、フォリア」
アーミラは微笑しながらまた席に座った。ギルマスからそういう顔を向けられるとは、フォリアは本当にここのギルドでは愛されているんだなぁ。
それはそれとして、私たちもソファーに座らせてもらおう。
「えーと、ジョン・ゴッドさん? お師匠ということは、あなたも冒険者だったりするのか?」
「いや、私は冒険者ではない」
「じゃあ、魔術師?」
「そう見えるかな?」
魔術師っぽい格好をしているのは認める。
「私に用があって来てくれたんだ。話を聞こうか」
「単刀直入に言おう。ダンジョンを作ったので、冒険者でテスターをやってもらいたい」
「……え?」
アーミラ、そしてコングがポカンとした表情になる。端的にまとめ過ぎたかな。
「第二王子から、ダンジョンで演習をできないかと相談を受けてね。それでダンジョンを作ったんだが、きちんと演習に使えるか、ダンジョンのプロである冒険者に見てもらって感想をもらいたい」
「ちょ、ちょっと待て――」
アーミラは手のひらを向けて、待てのジェスチャーをした。少し考えるように腕を組むと、父親であるコングと顔を見合わせた。
「ツッコミどころだらけだが、まずは……ダンジョンを作った、とはどういう意味だい?」
「そのままの意味だよ」
「ダンジョンコア」
イリスが一言口を挟んだ。ああ、そうそう。
「先日のスタンピード騒動の鎮圧の際に、ダンジョンコアを入手してね。それを使ってダンジョンを作ったんだ」
こういうことだろう? ダンジョンを作るなんて、普通はあり得ないって意味の。
「ダンジョンコア!? で、伝説の!?」
「実在したのかっ!?」
アーミラ、そしてコングが驚愕した。……こっちもかー。
イリスが口を開いた。
「まあ、そういうこと。幻と言われているダンジョンコアを入手して、それでちょこちょっと試しているところよ。王族のテリトリーだから、コアの件はここにいる者以外に、他言は無用」
「わ、わかりました」
アーミラは動揺から立ち直る。最初はイリスの付き添いはいるかと思っていたが、上手くフォローしてくれている。人との付き合いでは、私よりも経験豊富だからね。ありがたいね。
「――つまり、冒険者で、そのダンジョンを攻略すればいいわけだね?」
「そういうことになるね」
「ちょっと、ジョン・ゴッド」
イリスが私の肩をつついた。
「攻略って言うけど、どこまで攻略させるか考えているんでしょうね? 何せあのダンジョン100階層あるんでしょう?」
「ひゃっ、100階層っ!?」
コングが素っ頓狂な声を出した。アーミラも目を丸くする。
「作ったダンジョンなんだよね? それで100階層もあるの?」
あー、もう少し少ない階層を想像したのか。私がイリスを見たら、彼女は『ほらね』と言わんばかりの呆れ顔である。
「普通のダンジョンだって、そんな深い階層のものはそうそうないんだから。言ったでしょう? 加減しなさいって」
作りすぎというのは、散々言われたから今さらだけど、一度に全攻略するように作ったんじゃないからな。演習内容に合うような階層を選んで、そこにダンジョンで使える転移魔法陣で移動するという運用を予定していたから。
「全部をやってもらうつもりはない。ある程度の階層を試してもらって、それで感想をもらえれば」
「……これは、いわゆる冒険者に対する
アーミラは、真顔になる。
「そのダンジョン、モンスターや罠はあるのか? つまり、命の危険があるマジもんのダンジョンという解釈で」
「そうだね。なめてかかると仮死状態くらいはあるだろう。一応、死なないように仕掛けはしているけど、絶対ではないし、処置しないとそのまま死ぬ」
「よくわからないが、遠足気分でやれる依頼ではないわけだ。……ランクの高い冒険者を動かすと依頼料、割高になるけど、持ち合わせは大丈夫か?」
アーミラが確認してくる。
依頼料、ね。あいにくと私はお金を持っていないが……。イリスと目配せする。
「こういうので、どうだろうか?」
ダンジョントレジャーらしく、武器とかはどうだろうか。
「とある工房で作られた武器なんだがね……」
それと――
「どうしても金銭がいいというなら、魔境で狩った大型魔獣があるんだけど、それの解体費用差し引いた金額を、依頼料に当てるというのではどうだろうか?」
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