第127話、冒険者ギルドへ行こう


 ポルド城塞都市は、魔境に割と近くにあって、そこからの魔獣が出てきた際の警報役を担っているのだという。


「ほう、上から見るのとでは、やはり雰囲気が違うね」


 私は、初めてこの町に足を踏み入れる。飛空艇からは何度も見下ろしたことはあるが。


「とても久しぶりです」


 そう言ったのは、フォリア。この町の出身で、ポルドにある冒険者ギルドが家みたいなものらしい。

 町のことは詳しい上に、これから赴く冒険者ギルドまでの案内を任せられるから彼女を連れてきたわけだけど。


「……フォリアはわかるけれど、何でジョン・ゴッドまでワクワクしているわけ?」


 聖騎士にして第七王女のイリスも、当たり前のようについてきた。フォリアが申し訳なさそうに首をすくめる。


「よかったんですか、イリス様。わざわざこちらに来ていただいて」

「まあ、ジョン・ゴッドのお守り? 身元保証人? とりあえず、私がいれば何か面倒があっても対処できるから、仕方なく、よ」


 恩着せがましいのは、彼女が素直ではないからだ。あとで菓子パンをあげよう。

 ともあれ、私は面倒事は嫌いだからね。何かトラブルがあっても王族の強権でうやむやにできるならば、よいデコイとなるだろう。


 王族の本音としては、私が面倒事で癇癪を起こして、何かしらのトラブルになることを避けたいみたいだけどね。

 それはそれとして。


「窮屈そうに見えて、生活感がいいね。空が狭い」

「城塞都市ですからね」


 フォリアはゴミゴミした雰囲気の、狭い道を行く。


「お城をそのまま町にしたような感じです。もし町が戦場になるようなら、すぐに道を塞いで壁にできるように」


 魔境に近いからもあるんだろうけど、このサイズだと大型のモンスターは、侵入したら身動きがとれなくなりそうだ。力任せに暴れようとしても、強固な石材で築かれた壁は、狭くて思い切り力を入れたり、体当たりでも威力が乗らない状況では、簡単には崩れないだろう。


 ゴブリンやオークといった人型の場合は、通路の狭さで数の優位を活かせないようにできているのだ。

 まさに前線の要塞だ。戦える町……の造りではあるが。


「ここしばらく、町の中で大規模な戦闘はなさそうだな」

「わかります? 城壁で止めたことはあるみたいですけど、わたしが生まれて今まで、都市の中まで攻め込まれたことは一度もないそうです」


 だろうね。道を狭く感じさせる通りの露店とか、積み重なり、しかし動かした形跡のない箱の山とか、場所によっては道を塞いでいる……。

 いざ戦闘となった時、すぐに移動させたりはできなさそうな障害物が、すでにあって、それが当たり前になっている空気がある。


「平和だったということなんだろうけど、いざという時が起きないといいね」


 しばらく進んでいると、道が広くなった。多少マシになった程度で、相変わらず雑多にゴミゴミしているけれど。


「よう、フォリア、久しぶり!」

「生きていたか?」


 町ですれ違う人が、彼女に対して気さくに声をかけてくる。フォリアも顔見知りに対する挨拶で、適当に流しつつ先に進む。

 引き留める者はいないが、気軽に挨拶をするご近所さん的な関係。フォリアも律儀に挨拶するから、たぶん皆も声をかけやすいんだろうね。


「冒険者としては、愛されているんじゃない?」


 イリスがそんなことを言った。


「熟練の冒険者って、ギラギラしているから、気軽に声をかける雰囲気じゃないのも多いみたいだし」

「君みたいに?」

「! 私はそんなこと……あるか」


 思い当たることがあるようだ。聖騎士、王女――普通の人が気軽に声をかけるのは難しいと思う。フレーズ姫くらい優しそうな雰囲気だったなら、挨拶くらいはしてくれそう。

 割と開けた通りを行ってしばらく、やはりフォリアに対する声かけが多かったが、冒険者ギルドに到着した。


「よう、フォリア」

「どうもー」


 入り口でも、若い冒険者に声をかけられている。これは幼い頃から出入りした子供が大きくなっても、周りが当然のような雰囲気で対応するやつだ。

 ……それにしても、冒険者たちからの声かけの数が異常に多くない? フォリアもフォリアでいちいち返事するから、ちょっとした愛されマスコットみたいになっている。


 受付カウンターまで移動する間、私のことをチラチラ見る者がいた。フォリアが連れてきた者を見定めているのかもしれない。声はかけられなかったけど。


「あら、フォリアちゃん!」


 ギルドの受付嬢が、フォリアに気づいて大きな声になった。


「こんにちはー。……ちゃんはやめてくれます?」

「最近、見かけなくて心配だったのよ! 元気そうで安心した!」


 若い娘なのに、何だか知識の泉で見た『近所のおばさん』みたいなノリだ。それだけフォリアとは、それなりの付き合いなのだろう。ざっと見た感じ、他の冒険者たちへの対応は普通っぽかったし。


「それで、今日はどうしたのかな? 依頼探し? それならいくつか見繕うけど」

「今日は、後ろの方々のお供なので。……あの、ギルマスと面会できます?」


 フォリアが声を落とせば、ギルドの受付嬢は私とイリスを見て、ギョッとした。


「す、すぐに確認してくるわ!」


 すっ飛んでいく勢いで奥に消える受付嬢。私は、隣のイリスを見た。

 そしらぬ顔を決め込んでいるが、ひょっとして私がここまで絡まれなかったのは、聖騎士様が隣にいたせいなのでは……?


「お待たせしました!」


 さっきの受付嬢が戻ってきた。早いねえ、ほとんど待っていないよ。


「ギルドマスターがお会いになられます。どうぞこちらへ」


 これはご丁寧に。私たちは奥の部屋に通された。いわゆる応接室だ。

 でん、と熊のような巨漢がいた。ギルドマスター――貫禄はあるが、彼ではなさそうだ。というのも立っていたからだ。


 そしてギルマス用の執務机の奥の椅子に座っていたのは、赤毛に褐色肌の女性であった。

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