第124話、ダンジョンにリアリティを持たせるために


「おおっ、まさか本当にダンジョンを作ってしまうとは!」


 クラージュ第二王子の声には感嘆がこもっていた。


「ダンジョンを利用した演習場の話から、ここまで巨大なものとなるとは……」

「大きいでしょ」


 私もしたり顔である。最初にあなたも言っていたじゃないですか。未知のダンジョン探索もいいって。


「一応、100階層あります」

「おおっ! それはボリューム満点だな!」


 ノリのよい第二王子。本来の目的忘れて、普通にダンジョン攻略とかし始めるのではなかろうか。

 ただ――


「まだ、ガワだけなので、もう少し中身を詰めていきたいと思っています」

「なるほど、今はまだ未完成ということだな」


 クラージュ王子はニヤリとした。


「ダンジョンでの演習も、リアリティが出るならば期待しよう。ガワだけよくて、中身が伴わなければ、演習にもならんからな」


 あ、ちゃんと目的は忘れていなかったようだ。まあ、そうだよね。バリバリの肉体派だが、王子ではあるわけだし。何も考えていないわけではない。


「で、その中身の件だが、どうするつもりなのだ、ジョン・ゴッド殿」

「とりあえずは情報収集ですね」


 ダンジョンについて、冒険者などの専門家から話を聞きたい。


「あと、モンスターについても、知識を深めようと思います」

「本格的だな」

「やるからには、現実味を持たせないと意味が薄れますからね。……と、あなたが言ったんですよ?」


 それはそうだ、と王子は頷いた。

 一応、このダンジョンコアにも、種類は限定されるがモンスターの記録はある。ゴブリン系は充実しているんだけど、さすがにそれだけではねぇ……。


 ということで、早速、私はダンジョンをより充実させるべく、行動に移した。



  ・  ・  ・



 知識の泉から、ダンジョン関係のモンスター、そしてダンジョン以外に生息するモンスター――別世界の生き物ありで、色々記録を引っ張りだした。

 私の家の図書室にあるモンスター図鑑は、もうすでに参照して、いくつかピックアップ、地下ダンジョンに配置してみたけど……。


「解像度が足りない」


 私が言えば、我が家の冒険者、フォリアが首をひねった。


「解像度、ですか……?」

「本の記載は正しいくとも、やはり動いている実物に勝るものはないと思うんだよ」

「それは……そうですね」


 フォリアは頷いた。


「聞いていた話と実際は違うということは、往々にしてありますから」

「そうなんだよ」


 知識の泉から引っ張りだ資料に間違いがある確率は、天文学とやらで出る数字並の数値になるだろうけど、それだけで全てを理解できるとは思えない。

 百聞は一見にしかず、とも言うし、本物がつまり最強というわけだ。


「最強……?」


 わからないという顔をするフォリアをよそに、私は立ち上がった。


「これからモンスター見学に出かけてくる。君もくるかね?」

「お供します!」


 フォリアは手を挙げた。さすが冒険者。そちら方面の経験者からの解説も聞きたいからね。

 では、飛空艇ウィンド号に乗って、魔境を出るぞ!


「あの! 魔境のモンスターはいいんですか?」

「あれは、ダンジョンの序盤に配置するには、強すぎると思う」


 人の手を拒む大森林こと、魔境である。私たちは当たり前のように住んでいるけど、ひとたび聖域を出たら、無事に出口まで行ったり、あるいは帰ってこられる人間がどれくらいいるのか。


「いずれ見るけど、魔境はその気になればいつでも見に行けるからね」


 後回しでもいい。ささ、出発だ。



  ・  ・  ・



 ウィンド号を操り、魔境の外へ。モンスターを探知すべく、広範囲に索敵の波を放つ。そして引っかかったものの元へと飛空艇で近づく。

 狼、イノシシ、虎、クマ……。


「ほぅ、デカい角だ。体と同じくらい大きい」

「ツインホーンですね。イノシシに近いモンスターです」


 フォリアが解説する。


「雑食で、近づくと攻撃してきます。近づかず避けていくと、襲われないですよ」

「ほー」


 ちょっと進めば、未開に近いありのままの自然がそこかしこにある。野生生物の宝庫ではあるが、時々混じる危険なモンスターが、そういった自然に人々が不用意に近づくのを阻んでいる。


「あれは、牛の仲間かな? ……いや顔つきが随分と獰猛そうだ」

「牛頭だと思います。肉食です。見つかると突っ込んでくる危ないモンスターだと聞いています」


 フォリアも実物は初めてという動物と遭遇した。四足だが、体は草食系ではなく、虎系統に似ているかもしれない。


 探索は続く。動物系以外にも、肉食植物やトレントといった木の化け物、巨大昆虫系も観察する。


「……何か見えますか?」


 森の上からだと、木々に阻まれてフォリアには見えていないようだった。透視の魔法を付与してあげて、高みからの見物といこう。


「ここまで深い場所は、冒険者でも上級ランクしかこないんじゃないでしょうか」

「強さが違うね、確かに」


 私が見れば、モンスターの強さも大体わかるが、平原や、森の境界付近にいる種より、強さの桁が違う種がわんさかいた。弱肉強食の世界――なのかなぁ?


「強そうな肉食以外に、草食や雑食の動物も普通に生きているんだよな」

「もっと外へ出ればより安全なのに、どうしてこういう危ない環境にいるんでしょうか?」

「こういう奥地じゃないと摂取できない、その動物特有の植物があるんじゃないかな?」


 だから危険とわかっていても、その特有の植物がない場所では生きていけない、とか。こんな修羅の環境で生きていくために、草食の動物たちも、すばしっこさだったり、硬い外皮や、鋭い角を持っているようだ。


 私は、生き物の動きを観察した。フォリアも初めて見るモンスターも多かったのか、興味深げに眺め、私と知識を深めていった。図鑑ではこうだった、とか、こういう動きをするんだね、とか、そんなところだ。


 他にも怪鳥ともいうべき鳥型モンスターのいる山岳まで行ったり、川や湖に行って、魚や蟹、水棲のモンスターを観察した。


「あの、お師匠様……この湖」

「うーん、大きいねえ。これもドラゴンの亜種かね」


 湖の底でとぐろを巻いている巨大竜などを見かけ、それもしっかり目に焼き付けておく。フォリアは何故か青ざめていた。

 大丈夫大丈夫、こっちは飛空艇だから。

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