第122話、ダンジョン活用についての第二王子からの相談


 我が魔境の家には娯楽が少ない。その指摘から、知識の泉でよさそうなのを選んで、作成してみたが、当然、ジョン・ゴッド魔境学校の生徒以外も遊ぶわけで、私の家でももちろん、王族の屋敷でも、これらのゲームやパズルは流行った。


 アーガスト王やグリシーヌ王妃はもちろん、魔境に雨が降って屋外で鍛錬ができない日となると、クラージュ第二王子が、お供の騎士たちと机を囲んでカードゲームに興じていた。

 楽しそうで何よりだ。


 ゴーレム教師による学校の授業も始まり、生徒たちも授業外の休憩時間などで遊び、集合住宅に帰って、談話室だったり個人で娯楽で時間を潰していた。

 もちろん、読書だったり、あるいは勉強をやっている子もいて、全員が全員遊んでいたわけではなかったが。


 こういう遊びからも勉強の助けになればと、穴埋め式のパズルをゴーレムに作成させ、毎朝、所定の場所にパズルの書かれた紙を束で置いておいた。

 最初は、集合住宅の子たちと、フォリアの分だけ用意していたのだが、ウイエなどが朝の空き時間の時間潰しに、と言い出し、それがやがて王族の屋敷でも、当たり前のように毎朝置かれるようになった。


 アーガスト王がグリシーヌ王妃と顔を突き合わせて、朝のパズル解きをやっていると聞き、何とも微笑ましい話である。


 それはそれとして、朝の穴埋め式パズルは、その日の学校の授業内容にも微妙に被っている内容にしておくようにした。

 つまり、授業前に解いていれば、ある程度頭に入りやすく、わからなかった子も、授業が終わった後には、答えがわかるようになる、という仕組みだ。


 で、翌朝、新しい問題パズルと一緒に前日の答えも書き出しておいて、以後、その繰り返しとなる。

 なお、文字埋め系は、単語を知らないことには始まらないので、知識を得ようと図書室での自習だったり、休憩時間の読書をする子もそこそこ現れた。

 勉強への意欲が高いのは、大いに結構なことである。


 ネクロマンサー先生であるミリアン・ミドールも、その指導に問題なく、魔法を覚えたいという生徒たちには丁寧に教えている。

 実力者である先生にとっては、初歩の教育など退屈ではないかとも思ったが、本人は図書室での魔法知識の収拾と研究が楽しいようで、満足しているようだった。


 ひとまず、学校が形になり、その通りに動いているので、私としては、そちらの件では一息というところだ。

 後は何か問題があれば、その都度対処していくでいいだろう。


 で、それより大事なことがある。それは学校で学んだことを活かす場所の提供だ。

 ただ勉強しました、おしまい。というのは、ちょっと不親切なんだよね。

 生徒たちになりたいものがあれば、それを尊重するつもりだけど、そのためにも根回しというか、準備も必要なわけだ。


 私が面倒をみると言ったからね、責任はとるものだ。……などと考えていたら、クラージュ第二王子が私のもとに相談にきた。



  ・  ・  ・


「ジョン・ゴッド殿、ダンジョンコアを使って、ダンジョン演習場みたいなものを作れないだろうか?」


 クラージュ王子は、そう言うのだ。


「まあなんだ、要するに実戦を経験できる場ってのを探している。こういう言い方をすると、すぐそこは魔境だ、と言われそうではあるが、さすがに新人を放り込むわけにもいかん」

「なるほど、騎士の熟練に合わせた訓練場として、ダンジョンを使いたいというわけですね」

「そう、そうなんだ」


 武闘派王子は、相好を崩した。


「マスターのいるダンジョンは、必要に応じてモンスターやトラップを操作できるっていうじゃないか。ダンジョンコアがあるなら、できると思うが、どうだろう?」

「できますね」


 こういうと何だけど、ダンジョンコアで遊園地を作ろうとしていたからね。ダンジョンを使った何か、という点では、共通しているから、私も乗り気になった。何だか楽しそうだから。


 それに、ダンジョンを使った演習場って考え方、生徒たちの中で、冒険者志望の子たちの授業にも応用できるかもしれない。渡りに船だね。


「ダンジョン内部の構造も変えられるから、事前情報ありでの探索の他にも、情報なし、手探り探索の演習もできそうだ……」

「未知のダンジョン探索、いいな、それ」


 学校の校庭端にある大型立体迷路で、構成を変えるのをやっているからね。それも応用できそうだ。


「熟練から新人まで、操作はできると思う……思うんですが」

「何か問題が? ジョン・ゴッド殿」


 クラージュ王子は首をかしげる。問題、あるよ。


「配置するモンスターですね。加減しろって言っても、怪我とか、悪いと致命傷を負ってしまったり、事故は避けられないと思います」

「それは……そうなんだが」


 王子も頷いた。


「多少の怪我は仕方ないところがある。実戦形式の演習場なんだから、当たり所が悪ければというのは、普通の演習でもあり得る」


 騎馬に踏まれて再起不能や事故死ということも、演習あるあるだと彼は言った。


「その辺りは、演習だからと諦めるしかないんじゃないか、ジョン・ゴッド殿。元々、そこまでヤバいレベルにするなんてことは、そうそうないだろうし」


 クラージュ王子は真面目な顔で告げた。


「実際、戦場じゃ敵を選べないことのほうが大半だからな。操作ができるだけ、ダンジョンコアがあるこっちの方がマシなんじゃないか?」


 魔境の森に突っ込むよりも、と比較を出されるが……。一理ある。だが、やはり、矛盾はしていても安全性には気を遣うわけだ。練習で一生ものの大怪我とか死亡は、格好がつかないからね。


「その辺りの調整は、追々やっていくとしよう、ジョン・ゴッド殿」


 第二王子は言った。


「実際、どの程度の連中を鍛えるか、その時々になってみないと最適解なんぞわからんわけだし。実戦演習の時に、経験させたいことの意図を踏まえてやっていくしかない」

「今からあれこれ考えてもしょうがない、ということですね」


 確かに、それも正論だ。要するに、あーだこーだ、考えても、その時になれば、条件や必要なことも変わるから、その時に考えましょってことだ。


「承知しました。ですが、そのダンジョン演習の話、冒険者志望の子たちの授業にも使えそうだから、私のほうでも、別方向から考えてます」

「そうか? まあ、何か決まったら教えてくれると助かる。もしかしたら、こっちでも使えるかもしれないし」


 というわけで、ひとまず、クラージュ王子とのお話は終了。

 ダンジョンかー。うーむ……。

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