第121話、娯楽がたくさん


 昨晩は、知識の泉で色々と娯楽をあさって、室内で遊べるものもいくつかピックアップした。

 まずはこれ、とある異世界から引っ張ってきた。


「プレイングカード……その地方では、トランプというのが一般的なのかな」


 私が披露すると、イリスは声をあげた。


「あ! それ、朝、ウイエが占いに使っていたわよ!」


 君の朝は、昼前だろう――という突っ込みは野暮なので黙っておくが、彼女の言うとおり、私は引き出し、製作した試供品をウイエとフォリアに披露して、遊んでもらった。お寝坊なイリスは、その機会がなかったがね。


「本当は、カードゲームなんだけど……占い?」

「だと思うわよ。テーブルの上に並べて、何か唸っていたし」


 占いねぇ……。それ一人用の遊びをやっていただけじゃないかな。ソリティアだか、フリーセルだか、あるいはペアゲーム、神経衰弱とか。


「この手のプレイングカードは、色々な遊び方ができるからね。一人でもできるし、二人で対戦したり、複数人で遊んだり」


 色々できるということは、これ一つで、かなりの時間を潰せるということだ。一つの遊び方では飽きもするが、複数のゲームができるなら、気分直しにゲームを変えることもできる。


「世界にはこの手のカードを使った、多種多様なゲームが存在したけど、完成度ではこれが頭一つ抜けている感じだ」


 他の異世界にも、スクラムとか、バーゲルダッツとか、数字を用いたプレイングカードに似たようなゲームはあったんだけどね。遊びのバリエーション、何より表記のシンプルさで、これが気に入った。


「このタイプの、絵柄のシンプルなやつはね、数字を覚えたり、簡単な計算のイメージがつきやすい、いわば教材にも使えるかなと思う」


 凄く、柄が凝ってとっちらかっているものもあったけど、一番簡単な絵柄は、小さな子供にでも数字を覚えさせやすい。ただ数字を口で言うより、カードを見せることで、イメージしやすくなるわけだ。


「ねえ、ジョン・ゴッド。さすがにこれを教材って、馬鹿にし過ぎていない?」


 イリスが腕を組んだ。


「さすがにこの学校に通う子たちは、それくらいの数字はわかるわよ」

「本当にそう言い切れる?」


 私は挑むように言った。


「本当に、全員が、二桁の数字まで淀みなく言えると思うかね? そしてその二桁の計算もスラスラ解けると思うか?」

「そ、それは……」


 イリスは首をかしげた。……君の周りの騎士たちは、皆それくらいはわかるだろうけど、そうじゃない下々の人々に関してはどうかな? 教育を受け入れられない家庭では、どの程度なのか、君も知らないだろう?


「決して馬鹿にしているわけじゃないんだけど、やはり覚えた知識のバラ付きはあるし、初歩とはいえ、ここらできちんと合わせておかないとね」


 基本は大事だよ、基本は。私がそう告げると、イリスは頷いた。


「それはそう」

「君は馬鹿にし過ぎていないかって言ったけど、話してみると、まあ変な覚え方をしている子もいたよ。1から5までは言えるのに6と7が逆になっている子とか、6から先に言うのに、自分の両手を見ながら言っている子もいた」

「……さすがに、冗談よね?」


 イリスは真顔である。だから私も真顔で答えた。


「人間の指は基本、片手で五本だからね。それ以上だとちょっと怪しくなるんだろう」

「両手で10本あるわ。その理屈で言ったら、10まではいけそうじゃなくて?」

「普段、片手が塞がっているからだろう。何かの作業で手に道具を持っていて、とっさに開いているほうの手で数えたりとか」


 計算したり、数字が出る場面って、何も机に向かっている時ばかりではない。


「あー……、なるほど」


 エア剣を右手に持ち、開いている左手で、指折り数えてみるイリス。


「でも、小さな子供ならともかく、十代過ぎて、その程度の数字しか把握できない子がいるって、やっぱり信じられないわ」

「君を取り巻く世界ではそうなんだろう。だが、世の中は一つの尺度では計れないものなんだよ」


 そうだ、ちょっとやってみようか。


「フルーツが5個入った袋がある。これが6袋あるんだが、ではそのフルーツは全部でいくつになる?」

「いきなり何よ。えー、と5個入り袋が、6つ? 掛けて……30個でしょ」

「正解。……ちなみに、さっき6から先が怪しいと言った子は、君より早く正解を答えたよ」

「嘘でしょ?」

「本当だよ。疑う気持ちはわかるけどね。実際、その子は計算したわけじゃないんだ。経験上、その数字を知っていた。以前からそういうやりとりを見ていたか、していた子なんだろうね。頭にイメージがあるから即、答えられた。……そういうこともあるということだ」


 それでも6以上の数字が怪しいというのも変に思えるかもしれないけど、計算ではなく感覚でわかるというのはそういうものだ。

 イリスがどこか拗ねているような顔をしているので、話題を変えよう。


「他にも娯楽は用意している。――こっちはリバーシというもので、定番だな。互いに石を置いていって、最終的に自分の石の数が多いほうが勝ちというシンプルだか奥深いゲームだ」


 少しずつ難しくして、チェスなども見せたら、イリスも類似のゲームを知っているとか言っていた。


「――この六面体を振って出た数字分、コマを進めるスゴロクなどは、運のゲームだ。多人数で遊べる」

「へぇー」

「あとはパズルとかかな」


 数字を入れて、計算しながら書き込んでいくものや、なぞなぞ形式の問いの答えを埋めていくと完成する、教育にも使えそうなものもあれば、知恵の輪とかいう、頭を使った解き方を要求される立体パズルなどなど。


「うわぁ……」


 イリスの目が輝く。まるでお宝を見つけた子供のようだった。


「なんかよくわからないのもあるけど、とりあえず、全部やりたい!」

「どうぞ」


 興味をもっていただけのなら幸い。

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