第119話、名は体を表すといいまして
何事も形から、だったか。
魔境に建つ学校に名前をつけようという集まりに、私も立ち会うことになったが……。どうして皆、学校名に『ジョン・ゴッド』を付けたがるの?
「こういう学校名に、偉人の名前がつくことはよくありますから」
そう言ったのは学者であるクロキュス。エルフのエルバも口を開く。
「工房だったり店の名前も、そこの主や創業者の名前を付けることは普通にありますよ」
そうなの?――私が、ドワーフのリラを見れば、彼女はコクリと首肯した。
「自分の名前をつけることで、誰の工房なのかわかるのです!」
名工がどこで仕事をしているのか、一目瞭然というわけだな。名鍛冶師や職人に仕事を頼みたい人が、その人のいる店などを探す時、名前がついていれば探しやすいということである。
知名度を活かしたやり方ではあるな。だが、そういうのは無名だと、名前よりその後の何々屋、何々店で識別しそうではある。
「でも学校に創設者名なんて、いる?」
その人がいるから、そこで学びたいって人なんて――
「いるでしょ」
「いるな」
ウイエ、イリスが頷いた。
「貴方ほどの術者が学校をやっていると言ったら、国中から魔術師志望が集まるわよ?」
「そうだぞ」
「まてまて、だからこの学校は魔法学校じゃないぞ」
しつこく魔法学校にしたい様子のウイエである。イリスが皮肉げな顔になった。
「魔法学校じゃなきゃいいの?」
「うーん……」
別に生徒を集める意図はないんだ。あくまで保護した人たちの社会復帰のための療養、準備のための学校であって、名前はそこまで重要ではない。
「そういうことならば、なおのことではありませんか?」
クロキュスは言った。
「教会も、過去の聖人などの名前や神の名前をつけることも多いようですし、人助けのための学校ならば、それに倣って、ジョン・ゴッド殿の名前をつけることも何ら問題はないと思います」
聖人や神様ね……。それは皮肉がきいているかもね。
そこでイリスが、嘆息した。
「この魔境だけの学校だけなら、なおのことあなたの名前をつけたところで、どこも文句言わないでしょうよ。それとも、何か他に候補がある?」
「……」
そう言われてしまうと……皆に任せる気満々だった私だから、代わりの案なんて持ち合わせていない。
しかしそのスタンスで行くなら、出された候補に対して私が文句を言うのは筋違いな気がしないでもない。
いや、私の名前を使うなら、私の許可が必要だろうから、代案があろうがなかろうが、その名前については文句をつけてもよいだろう。
要は、私の名前を使わなければいいだけの話なのだから。
ウイエが挙手した。
「ここは王族に相談して、名前を頂戴するってのはどう?」
おおっ――名前ではないが、何かそれっぽい案が出たぞ。しかし、王族に、私の建てた学校の名前をつけてほしいと頼むのも、迷惑ではないだろうか?
王国の出資で建てた、というのなら、王族に名付けを依頼しても筋は通る。だが今回のそれは違うから、王国の関与しないところで勝手に建てたものに、名前をつけてくださいっていうのは、どうなのよ……?
「フレーズ姫にお願いしましょ。あの方は、この件にも関わっているいらっしゃるし。きっと喜んで相談に乗ってくれるわ」
ちょっ、待て――それは、どうなんだ?
『候補はございますか? ――ジョン・ゴッド学校? 素晴らしいですわ! そうしましょ! それ以上の名前はありませんわ!』
予知を使わずとも、そんな未来が見えたね。あのお姫様は、間違いなく、学校名に私の名前をつける王族と見た。
……うん、まあ、いいだろう。
イリスが言うように、この魔境内の話であり、よそから生徒を募集するつもりはないから、あからさまに不適切な言葉などをつけない限りは、問題ないだろう。
・ ・ ・
予想通り、学校名に私の名前が使われた。
フレーズ姫に、この件をウイエが相談したところ、お姫様は嬉々として絶賛されたそうな。
『ジョン・ゴッド様のお名前を頂戴した学校……。恐れ多くも、この上ない素晴らしい名前ですわ!』
概ね想像した通りだったな。
そうしてお姫様が間に入って決まった学校名は――
ジョン・ゴッド魔境学校
魔境というのが付け足されたね。どういう学校か、想像はしにくいが、何か特殊な学校というのはわかるネーミングではある。
かと思ったら、私が、適当につけた魔境学校(仮)を聞いたフレーズ姫が、それを取り入れたのだという。
『ジョン・ゴッド様が言われた名前ですから、これも入れませんと……』
ということらしい。わーい、私の顔も立ててくれるんだね、お優しいお姫様。
まあ、魔境という特殊な環境を連想させる学校ではではあるから、悪くはない。
ということで、名前が決まった。
さあ、解散解散――
「ねえ、ジョン・ゴッド」
イリスが、まだ何か言いたげな顔を向けてきた。
「この魔境、人が増えたけれど、娯楽が少ないと思う」
「娯楽?」
そう、と聖騎士殿は真顔になる。
「私やフォリアは、あなたの家で、本を読んだりボードゲームしたりできるけど、学校に通う生徒たちや、魔境の集合住宅に住む人たちの娯楽が、今の状態ではほとんどないのよ」
ほう、詳しく。
「王国の騎士団だって、昼間は訓練だったり仕事しているけれど、夕方になれば、酒場に言ったり、食堂でわいわいやるわけよ。ちょっとしたゲームに興じたり……私は推奨しないけれど、賭け事をしたりね」
魔境の女の子たちにも、そういうお遊びできる場所なりが必要――と、イリスは説いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます