第118話、体裁が整ったと思うので、そろそろ


 魔法を教える教師に、ミリアン・ミドールをスカウトした。

 悪いことをしたら、その時は処分する。もっとも、悪いことはさせるつもりはないんだけどね。


 そして魔法以外の教師については、こちらもホムンクルス――人間の形をしたゴーレムを用意した。

 ミリアン・ミドールは魔術の専門家としてスカウトしたけど、あれは例外だ。現状、私の建てた学校では、そこまで専門性を求めていないのだから。


 基礎となる教育以外は、そこまで高等なものは必要なく、さらなる高みを目指す者がいれば、その都度、専門家を用意するという形を取る。

 私の魔境の家にあるゴーレムの知能は非常に優秀だというのが、周囲の評価である。人語を解して、人語でのコミュニケーションが取れるゴーレムは、非常に珍しいのだという。


 世界は広いから、どこかにそういう高度なコミュニケーションが可能なゴーレムが存在するかもしれないが、魔術師畑のウイエや、魔境の私の家に出入りする者は、ここ以外では知らないのだそうだ。

 そんなゴーレムに、ホムンクルスで培った人型の肉体を与えて、自然に人間のように振る舞ってもらう。


 シスター・カナヴィへの報酬云々で培ったホムンクルス開発が、まさかここで役に立つとは思っていなかった。

 何はともあれ、教師問題は、これで解決だ。


「素晴らしい! ジョン・ゴッド様! 全くもって素晴らしい! 完全人型のゴーレムとは!」


 ミリアン・ミドールも絶賛。一応、同僚になるのだからと顔合わせさせたんだけど、まあこんな調子だ。


「ゴーレムと言われなければ……いえ、これはゴーレムと言われても誰も信じないでしょう! それほど作りは精巧! よく見たところで見分けはつきますまい!」

「そうかなぁ」


 私は首をかしげる。確かに知らない人間が一瞬見ただけでは判別はつかないかもしれない。だけど、見る人が見ればわかると思うんだ。

 よく考えずに眺めていたら、何かしら違和感に気づいたりとか。


「まだまだ人間の仕草に追いついていない」

「この完成度でさらに高みを目指すのですか、ジョン・ゴッド様!」


 ミリアン・ミドールは大げさに自身の胸に手を当てる。時々わざとやっているというのではないかと思うほど、リアクションがオーバーなんだよね。


「君のそういうところは、このゴーレムたちは自然とやらないでしょ」


 やらせるつもりもないけど。ミリアン・ミドールが少々変人ではあるのはともかく――


「そういう仕草のひとつひとつも個性ではある」

「ホムンクルスやゴーレムにも、そういう個性が必要と仰るのですか?」

「用途によるね。作業用というのなら、大仰な仕草も個性も要らないだろうけど、学校の先生とか、人とコミュニケーションを取る役割だったら、あってもいいと思う」


 そもそも顔が違っても、表情や言動、行動が全て同じで、それが並んでいると、それはそれで怖くない? 人形っぽくてさ。


「最初から無機的な――つまり、人間の外見にしなければ、複数並んでいても、そんなものだと受け入れられるとは思いますが……」

「ここでは、先生だからね。生徒たちに親しみやすいように、ゴーレム先生には多少の個性はつけたいのさ」


 一応、社会復帰のためのリハビリテーションの一環だからね、この学校は。



  ・  ・  ・



 そんなこんなで出来た魔境学校(仮)。

 教える人がいるなら、もう授業も始めてもいいだろう。世の中、教育するにあたって、教室や学校がなくたってできるんだ。子供に読み書きを教える大人も、村の集会場だったり、どこかの空き地で青空の下でやっていたりするもの……らしい。


「……」

「イリス、何か言いたいことがあるなら、言わなきゃわからないよ?」


 私が確認すれば、我らが聖騎士殿は、とっても不満顔。


「名前」

「うん……?」

「学校の名前、決まったの?」


 そんなことか。もっと深刻な話だと思った。


「魔境学校」

「それは仮の名前でしょう? きちんとした……きちんとした?」


 何故そこで首をかしげるんだ?


「校舎もあるんだから、ちゃんと名前が必要だと思う」

「ただの学校じゃいけないのか?」


 そもそも、この魔境に学校は一つしかない。呼び分けないと混同するとか、そういうこともないはずだが?


「士気の問題よ」


 まことに騎士らしい言い方である。


「何事も形から。やる気にも関わるのだから、そこはきちっと決めないといけないわ」

「そういうものなのかな」

「そういうものなのよ!」


 適当に集まって、教える程度なら名前もいらないかもしれないが、学校という体裁を整えている以上、名前がないのは美しくない。……らしい。美しくない?


「要するに、いい加減に見えてしまうということよ。あなたはそれでいいかもしれないけれど、教わる方も、いい加減なところで学びたくないと思うのよ。少なくとも、私は嫌よ」


 いい加減と言われるのは、生徒が嫌というのはわからんでもない。


「そういうわけだから――」


 イリスに引っ張られ、我が家の談話室へ。


「学校の名前を考えます!」


 聖騎士の宣言。私のほか、ウイエ、フォリア、エルバ、リラ、クロキュスがいた。……人を集めてまで決めることか?


 いや、これは利用すべきだろう。私が考えなくても、皆が集まることで何か適切な学校の名前が決まるかもしれない。


「はい!」


 ウイエがビシっと挙手した。イリスが指した。


「どうぞ」

「ジョン・ゴッド魔法学校!」


 おい。さすがにそれはどうかと思うぞ。それにしれっと魔法学校にするんじゃない!

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