第115話、学校といえば、教える人もいるわけで


「そー言えば気になっていたんだけど」


 ウイエが、私に声をかけてきた。ダンジョンコアを使って現在、校舎を建てている。

 魔境の地形を変える大工事である。だからといって、森の中にデンと大きな建物を建てるわけではなく、地面を掘り進めて半地下にしている。


 地下と言っても、ポッカリ円形に地面をくり抜いていて、クレーターというのかな、外なら空が見えるくらい開放的にやっている。雨でも授業できるように教室などはちゃんと屋根も壁もあるけど。

 それはそれとしてウイエだ。


「何だい?」

「学校はいいけど、教師の充てはあるの?」


 王国の魔術師は腰に手を当てる。


「まあ、貴方がやるんでしょうけど、一人で全部やるつもりなのかしら?」

「え? 私がいつ教師をやるっていった?」


 言ってないよね? ……言ったか?

 私が首をひねっていると、ウイエが半眼になった。


「まさか私たちにやらせるつもりはないでしょうね?」

「まさかまさか。やりたいというなら構わないけど、そうでないならやらせるつもりはないよ」

「そう、それはよかった。私はこう見えても忙しいもの」


 そうだね。君はのんびり過ごしているイリスと違って、連絡係として王都と往復しているし、図書室で魔法の勉強もしているものな。


「すると……どうなるの?」


 ウイエは私を真似て首をひねる。


「貴方でもない、私たちでもない。じゃあ誰が教師をやるの?」


 ふふふ、まあ抜かりはない。私も多少興味はあるが、教師に時間をとられて自由時間がなくなるのは面白くないからね。


「手配済みだよ」


 私は答えた。


「そもそもこの学校自体、そこまで高等なことを教えるものではないからね。高等な知識、技術を得たいというなら、図書室なり学校図書館なりで、学びたい人がやればいい」


 それができる下地作りが、この学校だと思う。それに、何でもそうだけど、結局のところは本人の向上心とかやる気の部分が大きい。どこまでやるかは、人それぞれでいいと思う。


「ジョン・ゴッド、こういう言い方はどうなのかって思うけれど、失礼だったらごめんなさい」


 そう前置きするウイエ。


「この魔境の主である貴方に、教師のツテがあるというのが、ちょっと考えられないよね。いったいどこから教師を手配したの?」

「気になる?」

「それは気になるわよ。ただでさえ、魔境の賢人、預言者の知り合いなんて、考えただけでも震えがくるわよ」


 ウイエは苦笑する。


「貴方レベルの人がゴロゴロいるとは思えないけれど、もしそうだったら、どうなっちゃうのよ――という気がしないでもない」

「正直でよろしい」


 でもね、ウイエ。


「君だって、私の知り合いだ。フォリアやイリスだってそうだろう?」

「それはそう」


 ウイエは、半ば呆れ顔になる。


「このメンツでは、震えはこないわね」

「聖騎士イリスと言ったら、初見は震え上がるんじゃないかね?」

「っ! いちいちもっともだわ。確かにイリスは、震えがきちゃうタイプかも」


 王国一の聖騎士にして、王国第7王女でもある。王族なんて、庶民からしたら恐れ多い存在だろう。


「……まさかと思うけれど、ジョン・ゴッド。国王陛下や王子殿下たちを教師に呼んでないでしょうね?」


 一瞬考え、それも面白い人選だと思った。もちろん、呼んではいないし、声はかけていない。どうせ断られるのはわかっているが、教師はどうですかと聞いた時の反応は見てみたい気もした。……予想はつくけどね。


「本当に声をかけたの……?」

「まさか。それなら君の耳にも入ってるだろう?」


 王族とのやりとりは私よりもウイエの方が多い。そもそも王都を行き来している理由の大半はそれだ。だからもし私が王族の誰かに声をかけていたら、とっくの昔にウイエの耳にも入ってるはずなのだ。


「じゃあ本当に誰なのよ?」

「いやに絡むじゃないか」


 この魔境にどんな先生を呼んだか、気になってしょうがないという感じかな。……ああ、そうだ。


「君が期待しているかもしれない魔法の専門家はいないよ」

「あー……そう」


 すすっと視線を逸らす魔術師さんである。どこかの高名な魔術師が来るのでは、と期待していたのかもしれない。それでそわそわしていたと。……ふむ。


「気が変わった。有名な魔術師をスカウトしてこようかな」

「……え?」


 ウイエが固まった。まあ、私の知り合いなど高が知れているけど。



  ・  ・  ・



「ねぇーえ、ジョン・ゴッド。本当にやるのぉ?」


 悪魔シスター・カナヴィは、そう私に確認をとった。

 ここは彼女に与えた部屋の一室。悪魔臭が酷い場所だ。手で払いのけたくなるほどの、生の臭いが染みになっているくらいの。


「聖域化をかけたいくらいだ」

「やめて! 死ぬわ」


 声に出ていたらしい。独り言だ。


「じゃ、じゃあ始めるからね。……やるけど、ちゃんと報酬をちょうだいよ?」

「ホムンクルス・ハーレムだろう? そっちの生産は余剰があるから問題ない」


 そもそも、これから呼び出そうとしている者の分も作ったわけだからね。……それはそれとして、相変わらずのそっち方面にお盛んね、カナヴィは。


「じゃあ、やるわよ。――黄泉に沈む魂の欠片を現世に召喚す。出でよ、ミリアン・ミドール!」

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