第109話、呼んでもらった
集合住宅を二棟を建てたので、修道院に収容されていた人たちが、とりあえず寝泊まりできる場所は確保できた。
食料その他、必要なものはダンジョンコアによる生成で補っていく。国王には、ダンジョンコアを活用した集落のテストということで話を通してある。そうでも言わないと、ダンジョンコア利用に何か言われていたかもしれない。
それはさておき、スタンピード被害救済の先鋒に立っているフレーズ姫に、まずは集合住宅を見てもらう。声の上げられない被害者たちの代わりに積極的に動いている人だからね。
「素晴らしいですわ!」
開口一番がそれだった。ソルツァール王国第一王女は手を叩く。
「まるでお屋敷、いえお城のようです! 形もまたユニーク!」
階段状になっていることかな。確かに、こういう建物は王都にはないだろう。広い魔境で作ったこともあるが、王都ではこれほど大きな建物はそれほど多くないと思う。
中も見てもらおう。
「新築ということもありますが、中はとてもお綺麗ですね。しかも開放的で……。まるで建物の中に町があるようです!」
それは大げさではないか。私は思うのだが、入り口フロアが吹き抜けになっていて、天井からは太陽の光が入り込み、上段からはこちらを見下ろすこともできる通路兼、フロアがある。部屋が複数並んでいても、効率優先で見た目が淡泊というだけでなく、配置一つでデザインに遊びができるのだ。
では次に部屋を披露。先に見せた人たちには『広い』と共通した意見をもらったが、お姫様の目にはどう映るのか。
「これが、一部屋!」
フレーズ姫は歓声を上げた。
「わたくしのお部屋より広々としてしますわね!」
「あー、そうですか……」
お姫様の寝室より広いのだそうだ。まあ、私の屋敷の部屋でも、こうも広くはないけど、ここはただの部屋だけじゃなくて、プライベートな空間で、寝泊まりする以外にも活用できるように広くしたわけだから、ね。お姫様の部屋より大きくても仕方がない。
「まだ何も置いていませんからね。ここから色々家財道具を置いたら、印象も変わるでしょう」
「とても清潔感がありますね。素晴らしいお部屋ですわぁ。これは住みたくなる部屋ですね」
フレーズ姫、絶賛! 彼女は大きな窓から差し込む外の光を見やり、ベランダへと出た。
「はぁ……。階段状にすることで、小さいながらも部屋に野外スペースができるのですね。これは新しい……」
「お気に召しましたか?」
「ええ、これはわたくしでも住みたいですわ。さすがはジョン・ゴッド様、こちらの想像を遥かに上をいっています。これは皆様も喜んでくださいます!」
だといいなぁ。帰る場所も、家族も失い、修道院で虐待されていた人たちにとって、心休まる場所になってほしいね。
一通り見学が終わり、さっそく受け入れる準備に入る。フレーズ姫曰く、修道院で保護された人々の他、数人のお世話係も住まわせたいそうだ。
「元々、スタンピード被害で心が折れてしまった方もいらっしゃいまして……。言い方は悪いですが、人形みたいになってしまわれた方も」
一人では食事もおぼつかず、世話をしないと動かない無気力な人が何人もいるらしい。さらに修道院の虐待でさらにトラウマを植え付けられた人も。
「これは一度、私が直接看た方がよさそうだね」
悪い記憶を取り除く――そんな話を以前、姫ともしたが、記憶に触れるのはデリケートで、あまりやりたくはなかった。
ただ、そうとも言っていられないようなんだよね。学校を作って云々、って話以前の問題だ。
・ ・ ・
ダンジョンコアで各部屋用にベッド、机、椅子、クローゼットを生成する。
ダンジョンの調度品って、色々バリエーションがあったが、さすがにドクロをあしらった不吉なデザイン家具は避けて、平凡なものを取り揃えた。
コアにそれを作れるようにしたのは、前までの持ち主の趣向なのだろうか。
後は玄関フロアの余剰スペースに休憩用の長椅子だったり、食堂としても集会にも使えるように机や椅子を並べておく。
「お師匠様、こんな感じでいいですか?」
「いいと思うよ」
フォリアがよく手伝ってくれる。彼女は何にでも積極的だ。……うちでのんびりしているイリス姫も、少しは見習う……必要はないか。
お姫様だし、昼間は鍛錬していて、だらけているわけではないから。聖騎士としての務めを果たせるよう、己を磨き、最良の状態を保つ。それが彼女にとっての大事なことなのだ。
一通り準備が整ったところで、ここの住人になる人たちを魔境にご招待としよう。で、実際に連れてこられた人々だけど――
「見事に元気がないわね」
ウイエが言えば、イリスも頷く。
「視線が一点しか見ていない者もいるし、逆に泳いでいる者もいる」
前者がトラウマが強すぎて呆けてしまった者、後者は動けはするが、大きな不安を抱えているというところだろう。新しい場所に連れてこられて、戦々恐々としている。
保護されたと思った修道院があの有様だからね。心が壊れていない者たちも、すでにどこか壊れていて、何かのきっかけで自分を支えていた糸が切れてしまう危険性もあるのではないだろうか。
「こちら、この一帯の
フレーズ姫が、皆に私を紹介した。……やはり紹介にも反応していない者が何人もいる。この状態では、社会復帰は難しい、というより無理だろう。
とりあえず皆に、ここに集まってもらったが……小難しい話は抜きにしよう。
「はじめまして、ではない子もいるね」
修道院に殴り込みをかけた時に見かけた娘たちが何人か。それらは私と視線があうと、緊張した面持ちのまま、軽く頭を下げたりしている。
「私はジョン・ゴッド。この辺りに住んでいる者だ。よろしく」
ぺかー、と光を放射する。すべての闇を払い、温かな光によって、苦痛を浄化する。難しい言葉はいらない。太陽の光を浴びてポカポカするように、光を浴びるだけでよい。
誰も何も言わなかった。焦点の合っていなかった者たちも、まるで光を求めるように私を見た。
どれくらいそうしていたか。短くも長い光を、その場にいた全員が目の当たりにしていた。心に巣くう闇、負の記憶は取り去られた――はずだ。
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