第108話、集合住宅を見学
集合住宅の入り口から入れば、そこは広い玄関ホール。
「明るいのです!」
「吹き抜けになっているわね」
リラ、そしてウイエが天井を見上げる。
高い天井、五階分だからね。天井の一部をガラス張りにしたことで、昼間は日の光が入ってくるのだ。
「奥行きがありますね」
クロキュスが奥を指さす。そりゃあ、一階につき十部屋があるからね。正面の壁まで距離があるさ。
左手を見れば、一階に倉庫などに利用できる部屋。そこより上は無骨な壁と広い窓がある。
そして右手方向には、一階の居住用の個室が並んでいる。
そちら側は、部屋ブロックを階段上に並べて建てた都合上、一階はやや遠くに感じる。
上の階ほど、部屋が手前にズレて配置されているので、階段で上へ行くほど奥行きが短く感じるだろう。
ウイエは二階の張り出しを見上げ、その下、一階の空きスペースを見渡した。
「ここ、広いわね。窓とか気にしなかったら、もう一部屋、並べられたかもね」
「居住用じゃないにしろ、作ってもいいかもしれないな」
食堂のスペースにいいと思ったけど、人数を考えればまだ余裕がある。
「まあ、その辺りは人が住んでからでもいいだろうね。実際に住んでみたら、こういうのが欲しいとか、何か上手いスペースの活用法を思いつくかも」
ということで、奥にある階段を登る。五、六人が横に並んでも通れるくらい広い。
「あ、さすがに二階は、一階より部屋の前のスペースが狭いわね」
「でも、まだまだ広いですよ」
クロキュスがウイエに言った。私は、通路というには広すぎるそこを歩きながら、近くの部屋へと足を向ける。
「長椅子などを置いたら、休憩所や談話室になるかもしれないね」
住人同士の交流の場、みたいな。リラが手を叩いた。
「それ、とってもいいのです!」
共同住宅みたいなもので、自分の部屋以外でくつろいだり、お喋りできる空間があってもいいだろう。
「マイスター・ゴッド。居住用の部屋は全部同じなのです?」
「ダンジョンコアで複製しただけで、全部同じだよ」
扉を開ける。真四角のがらんどうな室内。ベランダへの扉と大きな窓があり、外からの光が入って、とても明るい。斜面と森の木々で、ガラスの向こうは緑一色だった。
ウイエが目を見開いた。
「広いわ! 私の部屋より大きくない?」
「君の部屋の大きさは知らないが、ここにはまだ家具がないからね。広く見えるものさ」
ここで一人が寝起きして、プライベートを過ごすのだから、ベッドやら机、椅子にクローゼットとか、一通り生活用品並べたら、そこまで広くないだろうよ。
「いや、これ一部屋というには広いんじゃないですか? 一般家庭の居間くらいあるんじゃないですか?」
クロキュスがそんなことを言ったが、すまないね、私に一般家庭の居間の大きさなんてわからない。
リラが指で部屋のサイズを図りつつ言った。
「これ上手く四等分できれば、一部屋で四人は住めるのです」
「それだとベッドとか最低限の家具で、ギリギリじゃないか?」
「一人当たりのスペースは狭くなるけれど――」
ウイエは腰に手を当てた。
「魔法学校の寄宿舎なんて、この半分以下で二段ベッドだったから、四人でも贅沢な広さだと思う」
学校の寮として見るなら破格ということか。いやでも――
「一応、ここその人にとっては家だから。色々自由ができる広さがあっていいと思うよ」
リラがいったように部屋をパーテーションで区切って、ベッドのある寝室、客間とか、作業場に活用することもできるだろう。
「実は拡張性もあって、魔法家具の設置も可能だ」
下に食堂スペースを作ったが、希望するなら部屋でも料理ができるように調理関係のものを置いたりもできたりする。
「それってあなたの屋敷にある冷蔵庫とか、大型魔道具も置けるってことかしら?」
ウイエの目が光った。
「もちろん。ちょっと弄れば、水道も設置できるし、清掃などの手間は増えるが、必要なら個人用風呂やトイレも――」
「決めた! ジョン・ゴッド、私に一部屋、頂戴! 金ならあるわ」
「あ、あたしも、なのです!」
リラが手を挙げる。えぇ……、君たち、ここがそもそも何で建ったか忘れていない? 入居者を一般募集しているわけじゃないんだが。
「ジョン・ゴッド殿。私も娘と暮らすに充分な広さがありますし、こちらに引っ越しとか駄目ですか?」
クロキュスが控えめな調子で言った。あなたもかっ! ……いやまあ、引き取る修道女たちは家族なしばかりだと聞いているけれど、家族があれば一部屋で住めるように考慮はしていた。
だから、クロキュスと娘さんが一緒に一部屋使うみたいなことも、全然問題ないが……。おかしいなぁ、こんなはずではなかったのだが。
・ ・ ・
「まあ、そうなるわよ」
話を聞いた我らが聖騎士イリスは、半ば呆れ顔だった。
「ウイエは、この屋敷の部屋を羨ましがっていたもの」
「そうなのか?」
「そうなのよ」
イリスは、私の家に住んでいる。いわば同居人であるが、同じく同居しているフォリアも頷いた。
「ええ、ウイエさん、ここの設備を羨ましいって言ってました」
フォリアも聞いたことがあるのか。知らぬは私だけか。
「こっちに引っ越したいとは言っていなかったようだが」
「それはまあ……遠慮したんじゃない? もう私とフォリアがいるし」
そう言えば、ウイエって、最初フォリアが私のもとにいると言った時、反対していて、ここのことを警戒していた。今ではそれが杞憂だったとわかっているだろうが、私の前で色々言ってしまった手前、ばつが悪かったのかもしれない。
さてさて、まだこれから学校にも掛からねばならないのだが……。とりあえず、住む場所はできたから、フレーズ姫に言って被害者たちを先に受け入れるか。
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