第107話、まずは集合住宅
学校を作ろう、という話にまとまったが、まずは受け入れできるよう、住むところを作らねばならない。
ただ、何をしていく集落なのか、それがはっきりすれば、家となる居住スペースもどう建てるか形も見えてくる。
最初に立てた集落の形は、ひとまず捨ててやり直す。学校を建てる場所を考えると、前の形はよろしくない。
せっかく作った囲いの石壁も、ちょっとやり直しだな。まあ、ダンジョンコアで生成したものだから、消したり形を変えるのも楽だからいいけど。
基本は集合住宅だ。数十人規模だから、個々に家を建てたら、どこまで魔境を潰すことになるかわかったものではない。
外界とのアクセスの悪さは、私にとってのメリットなのだから、無闇に土地を広げるつもりはないのだ。
それに魔境にも生き物がいて、生態系があるからね。そこの魔獣が森を出て、外で暴れまわるのは本意ではない。
ということで、住宅作りである。……うん。
「君たちは見学かね?」
ウイエとリラ、クロキュスが、私がダンジョンコアを操作しているのを見つめている。
「あなたがどういうものを建てるのか、興味があってね」
ウイエが言えば、リラはコクコクと頷き、クロキュスも口を開いた。
「ダンジョンコアで、家を建てるなんて光景、滅多に見れるものではありませんからね」
「そうだね」
私は、作業にかかる。ウイエが覗き込んできた。
「集合住宅と聞いたけど、どういうものを建てるの? 三、四階建ての、王都にあるような?」
「王都の集合住宅は……そういえば注意して見ていなかったな」
飛空艇で上からざっと見た程度だから、どれがそれだったのかよくわからない。
「一人につき、一部屋を与える」
個人のプライベート空間はあってよかろう。
平屋に雑魚寝というのが農村庶民の生活というらしいが、それは家族の話。ここに来る人たちは、同じ村の出身者がいても他人らしいから、そうはいかない。一部屋数人というのも考えは、今のところは考えていない。
食堂やら風呂場、トイレなどは共有ということで、それは部屋とは別に用意せねばならない。
ダンジョンコアで部品生成。一部屋はサイズを統一し、箱型に仕上げる。
入り口があって、窓があり、日当たりのよい方向に併せて配置した際、小さいながらもベランダになるように、そちらにも入り口を作っておく。
ダンジョンコアで形をまとめて、それを複製しつつ、部屋ブロックを積み上げていく。
「おおっ……」
ギャラリーたちから声が上がる。何もない空間から、四角いボックス型の部屋パーツが出てくれば、それはまあ、ね。
「ダンジョンコアの力って凄いのね」
ウイエが感心する。
「この箱型の部屋を真っ直ぐ重ねていくのね?」
「いや」
確かに垂直に重ねれば敷地を節約できる。ただそれでは面白くない。
ということで、私は部屋パーツを階段上に重ねる。こうすると下の部屋の屋根が、上の階の部屋の個人用のベランダスペースになるのだ。
真っ直ぐ整地した土地、その1階に10部屋ブロックを並べ、上にも10部屋を下からズラして乗せる。
こうすると、ズラした分、補強の柱を建てる必要がある。本当は建てる前に予め柱の位置を正確に計算して、土台込みで作っておくものだが、ダンジョンコア工法は、多少作業が前後しても修正がきく。
二階以上の改装には通路も作っておかないとな。階段は当たり前だけど、階ごとに通路を作っておかないと、魔法でも使って浮かないと出入りできない。
皆が不思議そうな顔をしているので、適当に引いた完成予定図を、ダンジョンコアに表示させた。
五階建て、横から見るとまさに階段型というべき建物だ。魔力による投射で立体の画のようなそれをウイエが興味津々に眺める。
クロキュスもまた覗き込み、そして声を上げた。
「なるほど、斜めにしたのは、反対側にスペースを作るためなんですね!」
「1階に大食堂とか、2階にちょっとした休憩所とか、そういう風に活用できるね」
私が言えば、リラは言った。
「後ろが広い空間を確保してますけど、いっそそちらにも部屋を置けば、収容人数を増やせるのです」
「それも考えたんだけど、そっちは日当たりがよくないから、ベランダには向かないんだよ」
居住する場所とするなら、あまりよくないかもしれない。
「だが、そうだね。居住区画と考えずに、倉庫なり多目的な部屋を置くというなら、垂直に重ねるのもありかもしれないな」
魔境の外側を見張る監視所を置くとかありかもしれない。五階分全部重ねないにしても、いくつかそういう居住用個室ではない部屋ブロックを作るのもありだな。
「いいアイデアだぞ、リラ」
「ありがとうございます!」
意見が参考になったからか、リラはご機嫌だった。
そんなこんなで、ダンジョンコアで集合住宅を建てる。ただ重ねるだけではなく、倒壊しないように補強もしっかりやっておく。さすがに五階の高さ、部屋を階段のようにずらして建てているから、そこのところは安定させないといけない。各階に行くための階段を通路側の設置して、その他、生活に必要となる設備を仕込んでいく。
そうこうしているうちに、建物は形になった。
「完成ですね」
クロキュスが、できあがった集合住宅を見上げる。
「部屋は箱型でシンプルなのに、積み方ひとつで印象も変わるものですね」
「近くで見ると大きいわね」
ウイエも頷いた。魔境の木々もそこそこ高いが、こちらの建物もそれよりも一回り大きい。それでも斜面の上にある私の屋敷などよりは、低い場所にあるんだけれど。
「一棟で個室五十部屋。もう一棟あれば、全員収容できるだろう」
ダンジョンコアで、できたそれを全体複製できるように設定しておいて、一度作業を中断する。
「まだ空っぽだけど、中、見るか?」
「行くのです!」
リラが真っ先に手を挙げた。反応が早い! ということで、私たちは、その出来栄えを確認するべく中に入った。
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