第98話、トレーラーとかいうもの
王族用飛空艇の建造が着々と進む中、私は以前クラージュ王子からお願いされていた専用機械歩兵を設計、開発をした。
彼の好みは、ゴリゴリのガッチリ型らしく、イリスが使っているナイトを『細い』と評していた。
一方の第一王子のグロワールは、ナイトを見て絶賛していたが。ナイトは非常にバランスが取れたスタイルだから、クラージュの感覚の問題なのだろう。
とはいえ、古代文明時代の機械歩兵は、太すぎ、胴長短足なのはわかっているようなので、両者の中間くらいでよろしかろう。
巨漢の彼に合わせて大きくしようかとも思ったが、あまり大きすぎても動作が鈍るのは容易に想像できたから、サイズはナイトとさほど変わらない程度にしておく。
こういう思考になるのも、王国軍用に機械歩兵を輸送できる大型飛空艇を、そのうち作るんじゃないかな、と予想していたからだ。
先のダンジョンスタンピードの際、王国軍はせっかく動かせるようになった機械歩兵を、討伐に投入できなかった。王都から戦場が遠すぎたのが原因だ。あのゴブリン軍団との戦いで、王国軍に機械歩兵があれば、随分と頼もしかっただろうなぁ。
戦地に迅速に移動できる手段は必要になる。そう考えた時、クラージュ王子も専用機械歩兵で前線に向かおうとするだろう。
そこでせっかくの輸送飛空艇があっても、サイズが大きすぎて運べませんってのは可哀想というものだ。だから大きさについて、ある程度他と合わせておけば、そういう事態は回避できるのではないか?
「マイスター・ゴッド」
「何だい、リラ」
ドワーフの機械職人が、私を見上げて言った。
「重量の問題があるのです。装甲を盛ると、重さのせいで動きが遅くなりますし、地形の問題が出てくるのです。泥とか柔らかい砂地に足をとられて動けなくなるのです。あと、重いと運ぶのも大変なのです」
職人は早口だ。私は考える素振りを見せる。
「ガッチリ体型で重量が増えるのは仕方ない。そこは動力のパワーをあげて重量に負けない出力とすれば、そこまで悪くはならない。……足回りについては、まあ……そうだねえ」
二足で歩くというと、どうしても地面との接地面積が小さくなるから、重さが集中してしまう。
「古代文明の機械歩兵が短足に見えている一因は、長さの割に足が太すぎるのもある。それが胴長に見えてしまうわけだけど、足を太く、足裏が大きいのは転倒しにくくなるよう接地面積を増やしているせいだ」
あの胴長短足スタイルも意味があるわけだ。不格好ではあるけれど。ナイトもきちんと立たせられるとはいえ、どちらが安定しているかといえば、古代文明時代のもののほうが優れている。ただし歩行や装甲、小回りではナイトが格段に上だ。
「輸送の面では、飛空艇には浮遊石を仕込んであるから、重量制限もほぼない。もし地上で動物などの牽引させる乗り物を使おうとするなら、車のほうに浮遊石を仕掛けて、浮かせて運ぶという手もあるし」
「……!」
リラさん? また固まってどうした?
「つまり、こうなのです!?」
動き出したリラが、紙と筆で何やら絵を書き出した。……へったくそな馬だなぁ。
馬が、浮いている板を引っ張っていて、その板の上には機械歩兵が乗っている。スケール感おかしい気がするが、簡略図と思えば意味はわかる。
浮遊石を装備した巨大な板――トレイに機械歩兵を載せて運ぶ。浮遊石で地面から浮かしていることで、地面との接地面積がゼロであり、摩擦もなく、重量も石の効果でクリアされているから、それを馬でも引っ張ることができる。本来ならどうあっても動かせないものも、浮遊石を噛ませることで動かせると。
「そういうことだね」
「革新です! これは大発明なのです! 飛空艇ほどスピードは出なくても、陸路での輸送について大革新なのです!」
リラは興奮していた。それはまあ、浮遊石があれば機械歩兵も運べるし、あれだけの重量物が運べるなら、他の荷物も一度に大量に運ぶことも不可能ではなくなる。従来の荷馬車とは比較にならない物資輸送量の差が出ることになるのだ。
機械歩兵の移動問題の解決のみならず、王国の物流にも大きな変化が起きるだろうね、これは。しかし……。
私の脳裏に、初期の飛行実験でゴーレムを浮かせて進ませた記憶が甦った。あれは不格好だった。
「……マイスター?」
私は、紙に新しく図を描いた。トレイの下に、浮遊石と風力推進装置をつけて、前方には御者台と操縦装置を、と。
「馬なしで、動かせる輸送用の乗り物!」
「っ――!」
またリラが一瞬、気を失った。復帰して、私の描いた図を紙に穴があくほど凝視する。
「さ、さすがはマイスター・ゴッドなのです! とうとう、これまでの輸送の常識をかえやがったのです!」
飛行実験で見た光景からのヒントを得ての発想だよ。ゴーレムが地面から浮いた状態で移動する様を見ていたわけだけど、あのゴーレム部分を大型のトレイにしたら、まあ荷物を運べそうだよねってだけだから。
「うちで早速試してみよう」
「そうなのです!」
「ゴーレムで思った。この輸送板をゴーレムにしてしまえば、御者台も操縦装置もいらないな! 自動運転機能付きだ!」
「ぐわっ!?」
変な声と共にリラがバタンと倒れた。どうした、足がもつれたか? 私も工房へ歩き出していたから、置いていかないように戻る。
「あ、またリラが気を失っておられるぞ……」
・ ・ ・
早速、あり合わせのゴーレムコアと鉄板と浮遊石とエネルギー源である魔石、そして風力推進装置と旋回装置を魔力回線でつないで、試作型浮遊トレイを製作。
魔石につないで魔力電灯をつけるような簡単な作業で出来上がったそれを、工房で試走させた。浮遊成功。トレイ付きゴーレムによる移動も問題なし。
早速、庭に出て広い場所で試す。私とリラ、それと適当な荷物を乗せて試乗。おー、動く動く。
「問題なさそうだな」
「これは普通に乗り物としても有用なのです!」
私の家の周りを走らせていたら、フォリアやイリスに留まらず、王族含めたギャラリーが増えてきた。
「しかし、一つ問題があるな」
「なのです」
「鉄板はまずかった!」
よく晴れた空の下。森の中なら問題なかったが、庭に照りつける太陽光でトレイが熱を帯びはじめた。
「アチチなのです! ドワーフでも熱いのです」
「普通の人間なら火傷しているなこれは!」
私は神様だから、熱いで済んでるけどね。改良が必要だな……。
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