第97話、王族用の飛空艇を作ろう
飛空艇用の建造ドックができたので、ダンジョンコア弄りもしたいが、ソルツァール王国の王族用飛空艇の建造を開始する。
せっかく作ったのに、空いたまま放置しておくのがもったいなくてね。ついでにダンジョンコアを利用して部品を生成するテストもやっておく。
大小様々なゴーレムたちと協力し、船体を組み上げる。予定では、全長130メートルほどで、船首に操舵などを行うブリッジがあり、そこから船のような胴体が伸びている。
船首前部、およそ50メートルほどは貨物区画だが、ここは様々な用途に使えるスペースとする。その名の通り、倉庫として使っていいし、今後配備が進むだろう機械騎兵の格納庫にしてもよい。内装を変えればダンスホールにもなるだろう。
貨物区画の後ろには、乗員用の居住区画。そしてその上にはブリッジのような構造物は、王族用居住区があり、展望台を兼ねたパーティールームも備える。広い視界を確保し、空の旅を楽しめるようにという配慮である。
ついでに、予備の操縦設備を備えており、船首のブリッジが何らかに事情で使用できない場合に操艦を担うことができる。……何にでもね、予備は必要だ。
貨物区画の後ろ半分と一般居住区画の左右は通路を挟んでそれぞれ機関室がある。右舷、左舷にそれぞれ風力噴射装置と爆裂噴射装置のハイブリッドエンジンを2基ずつ備え、通常航行時は、風力噴射。高速航行時は爆裂噴射を用いる。
なにぶん後者は魔力をドカ食いするから、そんなに速度を出す必要がない時は、魔力の消費が比較的少ない風力噴射で進むのだ。
船体後部、居住区画の後ろには、小規模の多目的区画と後部機関室、そしてここにもエンジンが2基ある。
つまり、この飛空艇にはエンジンが6基あるわけだ。
また船体各所には、浮遊石を加工しブロック状にしたものを配置。この大型船を空へと持ち上げたり、降下させたりする。
分散したのは、事故があった場合の墜落に備えてだ。一つだど、浮遊石が壊れたり動かなかったら船が落下する可能性があるが、分散配置しておけば、一つ二つが使えなくなっても、浮力を確保できる。
王族専用だから、墜落して王族全滅とか、そういうのは絶対に避けねばなるまい。そのための分散配置だ。
骨組みから外装と、ゴーレムたちは日夜作業を行う。飛空艇ドックというだけでも、王族が交代で見に来ていたが、いざ飛空艇の建造が始まると、観光スポットよろしく王族の視察が頻繁に行われた。
「大きいですなぁ!」
アーガスト王はそう感嘆の声を漏らした。
「まだ外枠だけとはいえ、これだけの大きさとなると、海上船でもありますまい」
「そうですか?」
「少なくとも、私は見たことがありませんな」
王は頷いた。
「完成が非常に楽しみです。素晴らしい船になりそうだ」
「こちらも最高の船を作ってみせますよ」
王族用じゃなかったら、私も欲しくなる仕様で設計したからね。まあ、今の私では持て余す規模ではあるが。
アーガスト王はご機嫌だったが、真顔になると声を落とした。
「ジョン・ゴッド殿には、小耳に入れておいてもらおうと思いまして。……隣国のことです」
「……伺いましょう」
自分に飛び火するかもしれない問題ならば、聞いておくべきだろう。耳を塞いだところで意味はない。
「隣国は周辺国を牽制しつつ、どこに攻め込むか慎重に吟味していると思われます」
「つまり、今すぐ攻めてくる気配はないと……?」
「ええ。国境の兵が若干増えているようですが、配備されている機械騎兵の数は3機と、こちらは変わっていません。彼らの王都では発掘された機械騎兵の修復が進められているそうで、これらが揃った時、どこの国境に回されるかで、彼らがどこへ攻め込むかわかるでしょう」
ソルツァール王国の諜報網が手に入れた情報、それらを確かめ、正しい情報か判断する。その上、王は考えているようである。
「こちらとしては、すでに仕掛けられているとはいえ、現状、彼らの国に攻め込んで勝てるという保証はありません。彼らは機械騎兵は多数ありまして、各国境に分散されていますから、いざ戦争となれば、それらが集まり、数の差を突きつけられることになる……」
「……」
「売られた喧嘩は買わねば、国家として舐められることになります。やられた分はきちんと返すべきですが、面子にこだわって勝機もなく挑んで、結果、国が滅ぶようなことがあってはいけません」
その通り。敵わない時は、無理に手を出すのは自殺行為である。
「かといって、敵に攻め込む隙を与えるわけにはいきません。なので、我々は少しずつ国境の警備を強化します。いきなり大軍を動かして、隣国に攻撃の理由を与えるわけにもいきませんから、少しずつ増員します」
「なるほど、時間稼ぎですね」
隣国が攻めてくることがあれば、それに対抗できる戦力を整えておく。だが機械騎兵の量産や飛空艇の建造は、そう簡単なものではない。……私のところは別だが。
「こちらとしても、ジョン・ゴッド殿のお手をわずらわせることは控えたくありますが、いざ事が起こり、こちらの準備が整っていない場合、貴殿に頼らざるを得ません」
国が滅びるならば、なりふり構っていられないということだ。いざという時まで私に極力頼らず、自力で何とかしようとしているところは好感を抱く。結局私に頼ることになったとしても、今から神頼みしないだけ、偉い!
「もちろん、その際は、ジョン・ゴッド殿にご満足いただける報酬を用意させていただきます」
アーガスト王はきっぱりと告げた。いいね、前もって言ってくれると、こちらとしても準備しやすい。いきなり、その時になって言われても困るというものだから。
これが根回しというやつなのだろう。さすが王様、この手の行動はきちんとしていらっしゃる。
しかも報酬を用意すると言うあたり、こちらを下に見て、王族の命令とやらを押しつけていない。
……まあ、これまでの付き合いからすると、アーガスト王は比較的誠実な方と言える。もちろん政治の世界では汚いこともすれば、小を切り捨てる判断もしよう。それでも私に対しては、礼を尽くそうというのだ。……いかんなあ、神様、そういうのに弱いんだ。
アーガスト王は、隣国を刺激しないようにしつつも防衛力を強化して、侵略がソルツァール王国に向かないように、立ち振る舞うつもりだ。
うまくすれば、隣国の狙いが別の方向へ向くかもしれない。それならばこの国は戦争は避けられる。
が、それでも仕掛けられた場合、ソルツァール王国は侵略に立ち向かう。
誠意を見せられたのだ。こちらも礼を尽くすべきだろうね。それが人の付き合いというものだろう。
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