第96話、ダンジョンコアを活用しよう
「ダンジョンコアは、魔力さえあれば、ダンジョン全体を制御し、モンスターなどを生成できる」
私たちがダンジョンコアを修復し、飛空艇用のドックを作ってみたことで、わかったこと。それは――
「便利ではあるが、最大の問題は魔力の消費だね」
ダンジョンを支配し、その構造はおろか、トラップやモンスターを出現させるコアも、魔力がなければ何もできない。
「故に、ダンジョンとされる場所――魔力が豊富な場所でなければ、その力をフルに発揮させることはできない」
「つまり――」
クロキュスは発言した。
「ダンジョンコア自体は、ダンジョンに関しては最高の魔道具ではあるが、使うにもその魔力消費量の問題をクリアする必要がある……と?」
「おそろしく魔力を使う魔術師の杖――」
エルフのエルバが腕を組んだ。
「ダンジョン関係に特化した杖と考えれば、なんとなく理解できるのでは?」
「そうだねぇ……」
私もまた腕を組む。
「ダンジョンコアなんて、大層な名前がついているけど、君の指摘は的確だよ」
やれることは、ダンジョンと定めたエリアに特化しているけど、やろうと思えば、他の魔道具や魔力媒体でも不可能ではない。
ただ、そのダンジョンに限ったことを行うにしては、恐ろしく最適化されているという点は、認めざるを得ない長所と言える。
そして欠点は、やはり魔力消費が大きすぎて、場所を選ぶことだろう。
「これで好きな場所をダンジョンと定めて使うことができたら、あっという間に町や城の土台ができるのにね」
魔境は比較的魔力が豊富な土地だ。だから私たちはこのダンジョンコアを使い、飛空艇用のドックなんかを作れてしまった。
その実地試験で、ダンジョンコアは範囲指定してテリトリー化さえしてしまえば、かなり自由に地下に限らず建築などに応用できることがわかった。
クロキュスが天を仰ぐ。
「建築、土木の分野に革新が起きますね」
「……これで魔力消費がなければ、建築関係の業界を潰しかねないほどの革新だったのですが」
エルバは苦笑した。
「魔力の多い土地でないと、使うのが難しいときたものです。そういう場所って、自然と強力なモンスターも多いですからね」
「結論としては、場所さえよければ便利。そうでなければ使い勝手が最悪の魔道具、ということでよいでしょうか」
クロキュスの言葉に、エルバは首を横に振る。
「いや、これを魔道具と称していいのか疑問があります。そもそもこれは人工物なのですか? 自然から生まれ出たものなのですか?」
「出所は謎だよねぇ……」
古に何者かが作ったものなのか。あるいは自然発生した生き物のようなものなのか。壊れた、とかいう言い方をすると人工物であるし、手を加えて改造、修理ができたところからすると、自然物としてはあり得ない。
その昔、誰かが作ったものが起源ではないか――その説が有望であろう。
「それはそれとして、せっかく入手したダンジョンコアだ。これを何かに有効活用する方法を一つ、考えてみようじゃないか」
・ ・ ・
我が屋敷の食卓で、食事と取りつつ、コアの有効活用案を話し合い。場には私のほか、クロキュスとその娘ペッシェ、エルバに、魔術師のウイエ、機械職人のリラ、おまけにイリスがいた。
「どこかにダンジョンを作るとか?」
ウイエが言えば、一同は微妙な顔になった。
「ありきたり」
「普通」
「そもそもダンジョンを作ってどうするんですか?」
割と皆さん、辛辣な返しである。
「ダンジョンコアなんて、そもそもダンジョンに特化しているんだから、ダンジョンを作る以外にあるの?」
ウイエは反論したが、一同は肩をすくめる。
「ですから、それ以外に何か使えないか、というお話なのです」
「はい、マイスター・ゴッド!」
「なんだい、リラ」
ドワーフの機械職人は拳を固めた。
「マイスターが作っていた巨大ダンジョンゴーレムにコアを搭載してみるのです! もしかしたら動くダンジョンが作れるかもしれないのです!」
「動くダンジョン!?」
クロキュスやイリスが驚いた。
「で、ダンジョンを動かしてどうするのよ?」
「ロマンなのです!」
リラは力説した。エルバは失笑したが、他はロマンと言われて、そうかもしれないという顔をした。
「……まあ、機械騎兵や飛空艇の制御装置に使ったら、どういう反応が返ってくるか、興味はあるね」
そう口にしたものの、単なる関心であって、一回試したらいいかな、という程度だったりする。理由は、それ用のコアをこちらで開発しているからだ。
ダンジョンコアがダンジョンに特化しているように、こちらの制御コアもそれぞれに特化しているから。
「農場……」
つい頭に浮かんだことが言葉に出た。クロキュスが意外そうな顔をした。
「農場が、どうかしましたか?」
「いや、ダンジョンを箱と考えたら、その中身を農場として管理することもできるんじゃないかなって」
「ダンジョンが農場!?」
ウイエが目を丸くし、リラもエルバも目を剥いた。私は言った。
「ダンジョンコアは、要するに魔力を別のものに変換する装置なんだ」
魔力を吸収して、ダンジョン内の鉱物だったり、貴重資源だったり、モンスターだったりを生成する。
「その変換するものを、モンスターではなく、作物や植物、あるいは鉱物にすれば、それを収穫したり、採掘できたりできるじゃないか?」
「確かに」
イリスが頷いた。
「ダンジョン=迷宮って考えると妙だけれど、魔力を変換する道具と考えたら、割とありな気がするわ。そもそも魔術師だって、魔力を変換して魔法を使っているでしょう? それと同じだわ」
えぇ……、とウイエは微妙な顔になったが、クロキュスは目を輝かせた。
「もしそういう使い方ができるなら、いざという時の食料問題を解決する材料になりそうです! 不作の年など、不足分をそれで補えれば、飢餓で死ぬ民を減らすこともできます! これは人の役に立つ有効活用案ですよ! 素晴らしい案です、ジョン・ゴッド殿!」
あー、はい。何か急に盛り上がってしまって、困惑してしまった。素晴らしい案……なのかなぁ。
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