第95話、ダンジョンコアを修復する


 魔境に帰ってきた。サンドル坑道の後始末は、王国がやってくれるので、私は再びやりたい作業をやっていく。


 しかし……何からやろうかねぇ。機械騎兵ナイトの補修と改良、その装備の開発。王族用飛空艇の建造、運搬できる大型船も作りたい。ダンジョンコアの解析と再生もやりたいなぁ。


 ま、最初はナイトの方からやっていく。もうイリス専用みたいなところになっているけど、彼女の場合、またこれを使いそうな雰囲気なんだよね。隣国の動きが怪しいから、いつドンパチが始まってもおかしくない。

 部品の交換、ゴーレムコアに収集された記録の収集と効率化。そこから導き出される改良案は……武器か。

 大まかな形を考えつつ、補修作業を進める一方、私は次へ移動する。


 屋敷の裏は斜面になっているのだが、その下に飛空艇の建造スペースを作るのだ。王族用の大きめの船を作るが、今後もそっち方面で色々作りそうなので、しっかりしたものをこしらえておこうというのだ。


「さあ、ゴーレムたち、まずは木を切って、地面を掘ろう!」


 聖域の範囲内なので魔境の魔物もいない。ゴーレムたちに敷地を開拓させる。そちらの指示を出し終わったら、再び屋敷に戻って、今度はダンジョンコア再生だ。

 普段は本の虫であるクロキュスや、魔道具職人のエルバがやってきた。


「これが……ダンジョンコアなのですか?」

「みたいだね」


 現在、修理中であるけれど。興味深げなクロキュスは見ているだけだが、エルバはより近づいた。


「近くで見ても?」

「触ってもいいよ」


 エルフの職人は、球体を持ち上げる。


「……意外に重い。割れてなければ、完全な球体だったんですよね?」

「そうだね」

「特に継ぎ目などはなさそうですが……割れた部分にも、なさそうですねこれは」

「何かわかったかい?」


 うーむ、とエルバは球体の欠けた部分から中を覗き込む。


「中にも球体が詰まっている。これが魔力回路ですか……いや、何だか継ぎ足した感があります」

「それ、ミリアン・ミドールが手に入れた時にはすでに壊れた状態だったようだよ」

「なるほど。二種類あるように感じられるのは、そのせいかもしれませんね」

「あー、確かに、雰囲気違いますね」


 クロキュスもまたそれを見て言った。


「後から加えられたのは、魔法文字のように見えますが、その下にあるのは、文字でも絵でもなく……なんでしょうねこれは」

「書き加えられたのは、あからさまに魔力回路ですね。しかし、ミリアン・ミドールでしたか? その人間の荒々しい内面が回路に現れていますよ。美しくない……」


 エルフの職人からは辛辣なコメントが出た。

 荒々しいというか、実用一点張りで、面白味のない魔力回路だと私は思った。職人のエルバからすると、デザインに繋がるから回路にも芸術性を求める傾向にあるのだろう。しかしミリアン・ミドールの改良は、シンプルかつ実用性に全フリしている。彼としては、道具としてダンジョンコアが使えればそれでよいのだ。方向性の違いだね。


 美しさ云々はともかく、シンプルで堅実に手を加えられていることで、私としては理解しやすくて助かる。その点、私はミリアン・ミドールを評価したいね。


 私たちは、ああだこうだお喋りしながら、ダンジョンコアの修理を行った。エルバもクロキュスも、ダンジョンコアの再生など初めて見るから、興味津々だった。

 クロキュスはダンジョンコアの構造や修理過程を記録に残し、エルバは新たな魔力回路の構築や欠けた球体外装パーツを新規に作った。素材はうちにあるからね。3人でわいわいやりながらやるのも楽しいものだ。


「ダンジョンコアの修理の場面に立ち会えたのは、非常に幸運でした」


 人間より長寿であるエルフのエルバは破顔した。


「私の人生においても、ダンジョンコアを見たのも初めてなら、それを実際に触ることができるとは! 職人冥利に尽きます」

「私も貴重な体験でした」


 クロキュスは頷いた。


「エルバ殿も仰っていますが、そもそもダンジョンコアの実物に出くわす機会なんて、ほとんどありません。人生において、まったく関わり合いになることのない人のほうが大半です」


 それはそうだね。ダンジョンコアなんて、ダンジョンに普段から入っている冒険者たちでさえ、幻なんて言っているくらいだ。村や町に住んでいる一般人なら、ほぼ確実に見ることはないだろう。


 ダンジョンコアの修復を進める。ようやく目処がたった時、私はしまったと思った。ゴーレムコアに飛空艇用のドックを作らせているが、ダンジョンコア再生したら、その効果のほどを確かめるのに、こっちでやってみるべきだったか、と。


 ダンジョンを改変できるコアなのだから、実際にどう動くのか、どう作用しているのか見るのに打ってつけだっただろうに。

 でもまあ、いいか。ゴーレムたちが掘った地面を舗装したり、壁を作ったりでダンジョンコアを使えばいい。


 というわけで、まだ完全修理とはいかないが、すでに使える機能を用いて、ダンジョンコアを使ってみよう。

 クロキュスが、ゴーレムの掘った地面を見やり、驚く。


「もうこんなに……。ゴーレムの作業は早いですね」

「複数でやっているからね」


 一体では時間がかかるが、複数のゴーレムを集中投入すれば、まあ早い。そこにあった大木は切り倒され、その根の部分も綺麗に取り除かれていた。切られた木は枝を落として、脇に壁のように積み重なっている。森だったのに、大きな庭のようなスペースが出来ている。


「では」


 私はダンジョンコアに触れ、魔力を流し込む。


「まずは剥き出しの地面を石で舗装しよう」


 ダンジョンコアに命令すれば茶色だった地面が、灰色の石材でたちまち敷き詰められる。


「おおっ!?」

「これはっ」


 クロキュスとエルバも度肝を抜いている。魔法であっという間に土から石に変わり、人工的な建造物が出来上がる。……まあ、まだ床だけだが。


「これは中々楽しそうだ」


 いざやってみて、これがまた面白い。どんどんやっていこう!

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