第94話、ダンジョンコアを拾った


 ダンジョンスタンピードの裏に、隣国の影があり。

 鑑定の結果を伝えた私だが、クラージュ王子が隣国工作員の死体に向けた怒りの感情は印象に残っている。


 さっそく、第二王子は王都に戻り、今回のスタンピードはジルヴィント王国の差し金であることを報告し、今後の対策を講じるそうだった。

 ……これは戦争不可避かなぁ。こっちは鑑定の結果と言ったところで、あちらさんがでっち上げだ、知らんと突っぱねれば、賠償も謝罪もなにもないわけだから。


 むしろ、戦争の口実ができた、と意気揚々と開戦してくるかもしれないね。ソルツァール王国から言いがかりをつけられたとか云々。


 こういう戦争というのは、嘘でも言ったもの勝ちなところがあるから。国がそう言えば、民は『はい、そうですか』としか言えない。実際のところを、知る術はないから。

 それはそれとして、やるべきことがあるんだよね。


「――で、それは何ですか?」


 フォリアが興味津々に聞いてきた。私は、壊れた球体とその欠片を集めつつ返した。


「さて、何だろうねぇこれ」

「それって――」


 ウイエが胡散臭そうに片方の眉をつり上げる。


「もしかして、ダンジョンコアだったり……する?」

「かもしれないものだね」


 さすがにウイエは察したようだ。


「ミリアン・ミドールが持っていたんだけどね。どうも、これでダンジョンと魔力をやりとりしていたんだ」

「じゃあ、ダンジョンコアじゃ……」

「天然のものか、あるいはミリアン・ミドールが作った魔道具の線もあるんじゃないかな」

「いや、ダンジョンコアのような形をした魔道具って……」


 言いかけて、ウイエは私をマジマジと見つめた。


「いたわね。ダンジョンコアを作ろうとした人が目の前に」


 私がニッコリすると、ウイエは引いた。やりとりを聞いていたイリスが口を開く。


「それで、その球体は何故壊れているの? 確か、私と戦った時はもうその球体を持っていなかったけど」

「ダンジョンコアだと危ないから、先にこっちから魔力を送って、吹き飛ばした」


 私が答えたら、ウイエが小首をかしげる。


「吹き飛ばした? どうやって」

「ダンジョンとこの球体で魔力のやりとりをしていたって言ったろう? その流れに時限式の爆裂魔法を乗せた。球体に届いた時に爆発するようにね」

「うわ、またエグい魔法を使ってる……」


 口ではそう言いつつ、こういう使い方を教えるとすぐ覚えるのがウイエという魔術師である。


「で、直せそう?」

「どうかな。調べてみないことには何とも」


 と言いつつ、鑑定したら『ダンジョンコア』と出た。そうなると、今度はどこで手に入れたか気になるね。

 このサンドル坑道で見つけたダンジョンコアなのか、それとも外から持ち込んだものなのか。興味深いね。


 鑑定のレベルを上げる。そんな私をウイエが見つめる。


「何かわかった?」

「……ふむふむ、サンドル坑道とは違う場所のコアらしい」


 しかもこれ。


「壊れていたものをミリアン・ミドールが修復、再現したもののようだ」


 そしてこれを用意したのが、ジルヴィント王国の諜報員ということだった。


「今回のスタンピードは、その修理したコアが使えるかどうかの実験も兼ねていたみたいだ」

「実験……」


 ウイエとイリスが揃って、不愉快そうな顔をした。


「なるほどね。隣国にとっては、スタンピードで被害を被るのはソルツァール王国だから、国の消耗にも使えて一石二鳥というわけね」


 実験がよその国なら、自国に被害はない。いずれ攻め込む国として確定しているなら、なおよし、ということだ。


「これ、もしジョン・ゴッドの鑑定通りなら、ソルツァール王国の思惑関係なく、ジルヴィント王国は攻めてくるんじゃない?」


 こちらの都合は関係なく、一方的に隣国が攻めてくるパターン。


「どうかな。まだそう決めつけるのは早計じゃないかな?」


 私の鑑定で、出所と今回のスタンピードでのダンジョンコアの運用が、隣国の手先に仕業とわかったけれど、あくまで私がそう言っているだけで、他の証拠はないからね。


「私が口から出任せを言っている、と言われても、証明できない」

「そんな、お師匠様は嘘は言いませんよ!」


 フォリアが抗議するように言った。


「気持ちは嬉しいが、フォリア。世の中には、自分に都合の悪いことは徹底的に認めない人間もいるのだよ」

「それはそう」


 イリスは腕を組んだ。


「ジョン・ゴッドが悪い人じゃないのはわかっているけれど、この人の言葉の中に、ポロッと嘘が混じっていても、それを判断することが私たちにはできない。ダンジョンコアの出所の件だって、鑑定魔法を他の誰かもみて、同じ結果が出なければ本当かどうか確定しないんだし」


 一人の証言だけでは、証拠としての有効性に疑問がある、ということだ。


「ごめんなさい、決してあなたを疑っているわけじゃなのよ」

「わかっているよ、イリス。それは心配していない」


 それはそれとして、王国でも隣国とのことは、より慎重に対策を立てるだろうし、私たちがどうこうするものでもない。

 何かあった時のために対策は必要かもしれないが、まだ今回の件が隣国絡みとはいえ、実際のところ戦争する気はないかもしれない。


 あくまで兵器の実験だけで、戦争をすると決めた上で仕掛けたという証拠もないわけだし。

 もちろん、こんなことを他国でやらかした以上、ソルツァール王国から報復される可能性くらいは考えているだろうけど。


 とりあえず、せっかくダンジョンコアを手に入れたのだから、これを私なりに修理するとしよう。

 完全な状態ではないとはいえ、欲しいと思っていたものが手に入ったわけだから。ゴーレムコアから再現しようとしたコアとの違いが明確になれば、どこをどういじればいいのかもわかるし。


 出張ってきた甲斐があったね。

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