第89話、ネクロマンサー、暗躍す


 死者を蘇らせる術のどこがいけないのか? 理解できませんね。

 私、ミリアン・ミドールは、ネクロマンサーをしております。かつては一介の魔術師として、王国にも仕えておりましたが、本当にやりたいことのために、王国の魔術師を辞めました。


 ええ、辞めてやりましたとも! 決して、辞めさせられたわけではありません!

 王国魔術団を辞めたおかげで、誰にも文句を言われずに死霊術の研究を行う……のは、天才の私をもってしても中々手間でした。

 何をやるにしても世間ではお金が掛かるというもの。幸い、出資者がついたので、お金の問題はクリアしましたけど。


 それはさておき、死霊術の研究に励み、そして実験を行い、着々と成果を上げつつありました。


 えぇ、しかし、出資者は、この着実な成果を判断できない素人でしたから、はっきりわかるように、とある村の……名前は思い出せませんが、そこにアンデッドを発生させてやったわけですよ。

 正直いえば、私の研究とは少々違うものではありましたが、頭の悪い彼らには、それくらいしないとわからないようでしたので。


 で、王国の連中も困らせてやろうという一石二鳥の策だったのですが、これが見事に失敗いたしまして。


 私のせいではありません。のちに聞いたところによれば、預言者なる謎の術者が村人のアンデッド化を取り除き浄化してしまったせいで、これについては、その謎の人物が規格外なだけで、私には何の落ち度もありません。


 出資者たちも、その謎の人物に関心を持ったようで、私に対して深く追求はしてきませんでした。当然です、私は何も悪くないのですからね。研究費は継続して出していただいているので、私としても余計な口出しをされずに済んで楽なんですけど。

 ……それで済むわけがないでしょうがっ!


 何なんですか!? アンデッド化した人間を戻す!? 一度ゾンビになった人間が、元に戻るわけがないじゃないですか! 魔法で治した? 上級神官でさえ、そんな芸当はできないはず。いったい何者なんでしょうか、その預言者は。


 本当に神の力を降臨させたとでもいうのでしょうか……?

 実に気に入らないことです。気に入らないといえば、どこから漏れたのか、あの事件は私が仕掛けたものとして、王国軍から指名手配されました!


 何故、私の手だとわかったのでしょうか?

 もしや、出資者かその関係者が私を王国に売ったのか? ……いえ、前者に限ってそれはないでしょう。


 もし私を切り捨てたなら、研究資金を打ち切っていたでしょうし、刺客を送られて終わりだったでしょう。……関係者の誰かが、という線はありそうですが。

 懸賞金までかけられたことで、町中を歩きにくくなりました。まったくもって不愉快です。王国が改めて私を追いかけるという状況もいただけませんが、研究の横やりが入るのも面白くありません。


 私は死霊術の研究を続ける傍ら、王国への復讐に動きました。前々から、ダンジョンに関心がありましたから、ひとつ人工的にダンジョンスタンピードを発生させて、王国に被害を与えてやろう、とね。


 幸い私の手元には、壊れたダンジョンコアがありましたから、これを修理して、手頃なダンジョンを操ってみようと思ったわけです。

 この壊れたコアは、とある出資者が、裏で手に入れたもので、私に修理を依頼してきたものです。


 修理といっても、元通りとはいかなかったので、私なりのアレンジを加えましたが……。実際に使えるのか、修理が完了したのか、その確認にちょうどよくもあります。使ってみましょう!


 私は、サンドル坑道のダンジョンを利用し、そこの魔力を使って、ゴブリンを増殖させました。いやこれ、楽しいですねぇ! ダンジョンは元々魔力にあふれている場所ですから、魔法を使い放題! 魔法使いの杖としても、このダンジョンコアというのは最高の品でした!


 そうして増やしたモンスターは、ダンジョンコアの支配下にあり、コアのマスターである私の命令に絶対服従です! あっという間に数百、いや千を超える軍隊を手に入れてしまいました。


 では、王国への反逆開始です! 私の研究を認めず、王国魔術団を追い出した恨み、そして、その研究の邪魔をしてくれたお礼です!

 スタンピードの前に沈め、王国!


 ……と意気込んだものの、ゴブリン軍団は王国軍の反撃を受けて、なんと主力が潰滅してしまいました!

 出資者の送り込んできた偵察員曰く、王国軍は飛空艇を使い、さらに空を飛ぶ機械騎兵を投入してきたそうです。そして聖剣もかくやの広範囲攻撃によってゴブリン軍を蹴散らしたそうです。


 まったく……。少し離れたうちに、王国軍も強力な武器を手に入れたようで。おかげで出資者の使いの者たちが動揺しています。

 正体については確かめていませんが、彼らの言葉の端々に隣国訛りがあるので、おそらく工作員なのでしょう。


 本来スパイは突き出すべきですが、私にはソルツァール王国だろうが隣国だろうが、大した違いはありません。私を認めないのが敵。であるなら、人種も国籍も私には関係ないのです。


 それよりも問題なのは、王国軍の討伐部隊が、このサンドル坑道にまで到達し、侵入を開始したこと。ここで追い払えなければ、私たちもおしまいです!


 まあね、最所はそれでも余裕だったんですよ。初日なんかは、侵入してきた討伐部隊を返り討ちにしてやりましたからね。

 問題は後日――今、ここに向かってきている討伐部隊のほうです!


 何ですか、あれは!? モンスターたちが近づけないじゃないですか! 防御魔法……ではありませんね。いったい何故、モンスターが侵入者たちに近づけないのか……。え? 聖域魔法? そんな……えぇ……それでダンジョンを攻略なんて聞いたことがないんですけど!


 どういうことなんですかねぇこれ。こちらのダンジョンコアによる干渉も聖域化のせいで阻まれているようです。まさか、こちらがコアを保有し、ダンジョンを操れることを知っていての対策でしょうか?


 だとしたら、また誰かが私を売りましたねぇ! 誰ですか、敵に情報を流している不届き者は!

 この場にいる出資者の使いたちに問います。裏切り者はどなたですか?


「いや、違うぞ」

「我々ではない!」


 おや、違うのですか? しかし参りました。このままでは、敵がこちらに――おや、聖域化が解けたようですね。これは好機! 行け! ゴブリン軍団!


 ……あぁ、駄目そう。まったく歯がたたないみたいじゃないですか。討伐部隊にエリートクラスがいるようです。これはいよいよマズいかもしれませんねぇ。

 彼ら、間もなく深部に到着してしまいます。

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