第85話、巨人型ダンジョン


「それで……」


 イリスの呆れの混じった声がした。


「何で、村のそばにこんな大きな物を建てているのよ?」


 デン、とそびえるは巨人。機械騎兵の3倍以上の大きさを持つそれは、土のゴーレム。


「ねえ、聞いてよ、イリス、凄いのよ!」


 ウイエが声を弾ませている。


「このゴーレム。中があるのよ!」

「……そりゃあるでしょうよ。中が空っぽとでもいうの?」

「空っぽなのよ!」

「どっちよ!?」


 イリスが声を張り上げた。 なおウイエは、ゴーレムの膝の部分の穴から、下にいるイリスを見下ろしている。


「このゴーレムの中! 登ったり移動したりできるスペースがあるのよ! これ! これはダンジョンなのよっ!」

「……」


 わけがわからないという顔をしているのはイリスだけではなかっただろう。同じく様子を見ていたフォリアは、イリスに言った。


「さっきから中に入ったままみたいですし、わたしたちも、行ってみます?」

「……そうね。――ウイエ! 入っても大丈夫なの!?」


 呼びかければ、魔術師は手を振った。


「大丈夫よ! ちょっと狭いところもあるけれど」



  ・  ・  ・



 などという会話を小耳に挟みつつ、私はゴーレムの頭にあたる部位にいて、ゴーレムコアに機能を盛り込む作業を続けていた。

 ちなみにこの頭部は、顔面にあたる部分が開いていて窓として、外を見渡すことができた。高い分、見晴らしがよい。


「マイスター・ゴッド。マップが表示されたのです」


 助手であるリラは、座り込んで作業している私と違い、移動して色々と確認作業を手伝ってくれている。

 頭部内側、私たちがいる部屋のような場所の壁に、魔力のスクリーンが出て、このゴーレムの全体像を映し出した。


「これが現実の状態を映しているなら、ダンジョンコアのダンジョン確認機能を再現できたわけだが――」

「あっ、足の入り口に、何か入ってきたのです! 侵入者!」

「それ、たぶんイリスとフォリアだ。さっきウイエとやりとりをしていた」


 ここだと下の様子はわかりにくいけど、私の耳は必要な情報を拾い上げている。


「さて、こちらで彼女らが入ってきた様子は見えるかなー」


 たぶん、そういう機能あるよね。ダンジョンコアなら。うーん……?


「――また容量が足りなくなった」


 上手くいかなかったので、コアを増強。するとリラが微妙な表情になった。


「マイスター・ゴッドのゴーレムコアは、天下一品なのに、それをこうも強化しないといけないなんて、どれだけダンジョンコアって多機能、高性能なのです?」

「もともと、ゴーレムの用途を考えれば、動作や思考もある程度収まってしまうからねぇ。ダンジョンコアが扱うダンジョンの広さを考えれば、まあ、そうなるな」


 そもそも、大きさが違うんだから、ゴーレム用コア程度では比較にならないわけだ。普通ならそうなるが、私はほら、ゴーレムコアを拡張して書き換えたり、容量を増やしたりできるから。


「あくまで、ダンジョンコアを再現しようってことで、わかりやすくゴーレムの形でやっているだけだからね」


 最終的にはゴーレムの形はしているけど、動かなくなる予定。だんだんダンジョンに近づけていっている格好だ。


「……」

「どうしたのです? マイスター・ゴッド?」


 リラが目ざとく私が、上の空で作業をしていることに気づいたようだった。


「ちょっと、本物のダンジョンを一度体験しておくべきかなと思ってね」


 知識の泉などで、ダンジョンについては調べられたけど、実際にどんなものか感じておいたほうが、完成度が高まるんじゃないかな、と。

 天界にはダンジョンと言われるものはなかったし、地上に降りた後も、遺跡探索はあるけど、ダンジョンは未経験だった。


「まあ、中途半端は気持ち悪いからね。行くとしても、これを一応完成させていからだけど」


 さて、ダンジョンか、どんなものがあるだろうか? サンドル坑道は、王国軍がスタンピードの原因究明と、発生源の処理をしているから、邪魔をしても悪いから他の場所がいい。どこがあるかな……?



  ・  ・  ・



 ゴーレム型ダンジョンと、それを制御するコアの開発に、機能拡張や検討を続けた。

 ダンジョン経験者のウイエとイリスからの意見を取り入れつつ、ゴーレムコアをダンジョンコアに近づけていく。

 そう量産するものではないから、コアに仕込む魔法も、周りが真似できないレベルのものも遠慮なくぶち込む。

 どうにかこうにか形にしていたら、また外が騒がしくなった。人の気配が多いような……。


「リラ。どうなってる?」

「――サンドル坑道ダンジョンに行っていた王国軍が帰ってきたようなのです」


 おお、クラージュ王子が指揮のダンジョン攻略隊か、日を跨がずお帰りとは、思ったより早かったな。

 私はコアを置くと、頭部の窓から外を見下ろす。……見える見える。クラージュ王子たちだ。


「こっちを見て驚いているようだね」

「こんな巨人が村に立っていれば、ビックリするのです」


 それもそうだ。案の定、村に戻ってきたところを出迎えれば、驚きの表情のままクラージュ王子は言った。


「ジョン・ゴッド殿! これは、いったい……」

「いやあ、人工的なダンジョンコアを作ってみようと思いましてね。ゴーレムをダンジョンに見立てて、色々と検証していたのですよ」

「ダンジョンコアを作る……?」


 ポカンとなるクラージュ王子と、その部下たち。


「わかりますよ。こんなことを考えた人間はいなかったんでしょう」

「それは、そうだが……。参ったな」


 クラージュ王子は頭をかいた。


「この巨人――ゴーレムは動くのか?」

「ダンジョンに近づけているので、動かないですよ。肝心なのは中身なのでね」


 人型をしているからって、歩いたりはしない。……しないのだが。


「動くダンジョンというのも面白いかもしれない」

「……」


 周囲の目が点になったようだった。いやなに、ただの思いつきだよ。

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