第84話、ないなら、作ってしまおうの精神
ダンジョンコアは、非常にレアな存在で、もし見つけて手に入れることができれば億万長者になれるものらしい。
名前だけが先行して、半ば幻の財宝などとも言われるのだそうな。
何故、幻なのかと言えば、実物を見たことがある者がほとんどいないからだ。これまで多くの冒険者や探求者が探し求め、しかし見つけることができなかった。
稀に、ダンジョンマスターを自称する者が現れ、ダンジョンを支配したりすることもあるという。そう名乗る者の傍らには、ダンジョンコアと呼ばれる球体がある。
だがそのダンジョンマスターから、コアを手に入れることができた者はいない。ダンジョンコアだったもの――つまり壊れて欠片になったものは回収されたことがあっても、それが本当にダンジョンを制御できるとされるダンジョンコアだったのか、証明できないということだ。
自称マスターが、勝手にダンジョンコアと呼んでいる魔道具の可能性も捨てきれない。
そもそもダンジョンには、魔物や魔獣がいて、そこには貴重な植物や鉱物など素材があり、危険と引き換えに探索者に恩恵をもたらすものが存在している。
そんなダンジョンを、自在に操れるアイテムがあるとしたら?
使い方によっては、本当に億万長者になれるだろう。今回のサンドル坑道で発生したダンジョンスタンピードを、故意に引き起こすことも可能だろう。
……ふーん、なるほどねぇ。
ダンジョンコア、ねぇ。本物がどういうものか気になるが、そもそもあるかどうか疑わしく、サンドル坑道に行っても手に入らないかもしれない。
で、あるならば、作れないかな、ダンジョンコア。
私にこんな考えを起こさせたのは、機械騎兵などの制御装置などに利用しているゴーレムコア、あれの性能向上を図った型を試作、作っていたからだ。
中身はともかく、コアと名のつくものだから似たようなものでしょ。ゴーレムだって、その体を制御しているのはコアというものであり、要はそれがダンジョンに置き換わっただけでしょ。
「……」
ドゥマン村。廃墟の集まりであるこの村は、ゴブリンに荒らされ、住人の大半が失われたことで、ほぼ廃村であろう。
今は王国軍がダンジョン調査と、他で存在が確認されているゴブリンの討伐、掃討の拠点となっている。邪魔にならない範囲で、実験するにはうってつけの場所かもしれない。
私はこっそり、村の外壁の残骸裏に移動する。見張りの兵はいるが、外を警戒しているので内側に関心はない。
ゴーレムコアを生成して、っと腰を据える。コアに手を突っ込んで、その制御系を書き換える。
形状記憶の部分を弄る。まずはシンプルにやっていこう。
「ゴーレム生成!」
コアを投げて土の上に。ぼとっ、と落ちた球体は、魔力の光を放ちながら、周りの土を集め始めた。
ここで本来なら土が人型になって、ゴーレムを形作るのだが……見る見る土を固めたブロックが積み重なり壁となった。そして屋根を形成して、簡素な屋根付きのコの字状の壁が作られた。
家ゴーレム、というには実にお粗末だが、三面に壁の貼られた簡易な部屋ができた。一応ゴーレムと同じだが、可動部がないので、これは動かない。
それぞれのブロックは接着しているので、ちょっと押しても叩いてもビクともしなかった。ここでむき出しのコアを回収。……崩れるかと思ったが、接着して固定したせいか、屋根も落ちてくることなく形を保っていた。
人型のゴーレムが崩れるのは、可動部や、コアが取り除かれた際の姿勢が安定していないからバラバラになってしまった説。
実験その2。この家ゴーレムを大きくしよう。コアから体である壁や床、天井を生成する際の効果範囲を広げれば、より広い範囲から土を回収できる。
と、思いつく範囲で、大きさや範囲、生成するものの形を弄りながら、ゴーレムコアを改造していく。
コアで、登録したゴーレムの部位パーツを選択して、それのみを生成、量産することに成功。
それで量産された部品の組み合わせを設定して、構造物の形を決定、それを生成させることで、より大きく家を作る。土ブロックハウス、生成!
内装を、ゴーレムコアに指示することで、壁の高さや位置を変更することに成功。
ゴーレムコアの生成物に、簡素な小型ゴーレムコアと、そのボディを追加。建物とは別に、プチゴーレムを生成することに成功。
うむ、本物ほどではないが、疑似ダンジョンコアとも言うべきゴーレムコア、第一号ができたぞ!
「……」
うわっ、とビックリした。私の背後に、リラとウイエ、フォリア、イリス、他にも兵が何人かいて、私が作ったものを見ていた。
夢中になっていたから気づかなかったぞ。
「いつから見ていた……?」
「リラは、結構前から見ていたわよ」
イリスが指摘すれば、ドワーフの機械職人は、ふんす、と鼻息荒く頷いた。
「マイスターは、また何かおかしなことをやっていると思ったのです。家を生成できるコアを作っているのです!」
「ゴーレムコアをベースにしているんでしょう?」
ウイエが興味津々な顔で近づくと、ゴーレムハウスを見上げた。
「これ、ゴーレムを作る要領で、ゴーレムではなく家を建てたのよね? 変なことを考えるわね、ほんと」
……笑いたければ笑え。これはまだ、ほんの小手調べよ。
・ ・ ・
「ダンジョンコアを作るぅ!?」
「作れるんですか!? マイスター・ゴッド!」
ウイエとリラが大きな声を出した。周りがざわつくが、私は一向に構わない。
「本物を見たことがないから、あくまで『それっぽいもの』だけどね」
「いやまあ……本物は――そうね」
ウイエがあらぬ方向へ目を逸らすと、リラも腕組みして頷いた。
「幻の一品なのです。あたしも見たことがないのです。魔石を加工した偽物を見たことがあるくらいなのです」
「え、その偽物ってどんなの?」
ウイエが尋ねると、ドワーフの機械職人は鼻をならす。
「ただのお飾りなのです。魔法的な力はないのです。あれはただの詐欺なのです!」
何やら一昔前にひと悶着あったようだね。……私には関係ないが。
「そんな偽物の話は置いておいて、ゴーレムコアを利用して、ダンジョンコアもどきを作れないかと思ってね」
要するにゴーレムの体がダンジョンに置き換わったものと考えれば、両者の違いは、コアの性能、多機能性の違いが主だと思われるのだ。……と持論を展開する。
「――そう言われてしまうと」
「出来てしまいそうに聞こえるのです」
ウイエとリラは神妙な表情で、顔を見合わせる。
「やって、みるです?」
「やってみましょうか」
二人は、私を見た。
「それで、何を手伝えばいい?」
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