第83話、村の次は、ダンジョンか
ウイエの聖域化の魔法で、村から叩き出されたゴブリンであるが、ちゃんといなくなったか、村を確認する必要があった。
ウィンド号を降りて、私は、ウイエ、フォリア、そして機械騎兵から降りたイリスと、村の中の探索を開始した。
「酷いものです」
フォリアは言葉少なだった。見事に荒れ果てた村は、何とも陰鬱で、所々にゴブリンに抵抗し惨殺された冒険者や村人の死体が転がっていた。
「ゴブリンどもは残虐ね」
イリスが吐き捨てる。何度も刺した後が見られる死体は、顔も判別できないほどぐちゃぐちゃになっていた。
どれも無惨という他ない状況で、若いフォリアにはあまり見せられないと思った。村の一部に立てかけられた骨などを見ると、あまり考えたくない惨事を想像できてしまうわけだ。
聖域化の影響で、ゴーストやアンデッドにはならないと思うが、念のために浄化をしておく。
何とも痛ましいことだ。
建物の中も探る。崩れかけの建物も少なくない中、宿屋だったらしい建物に生存者がいた。残念ながら、ゴブリンにいたぶられ、心身とも深い傷を負っていた。彼女らを救助し、介抱したが、また心に傷をつけられた者たちが増えたな。
逃げたゴブリンを掃討していた王国軍が村に入ったが、騎士や兵たちも、凄惨な村の様子に言葉もないようだった。
「またまた世話になった、ジョン・ゴッド殿。おかげでこちらの被害はほぼない」
クラージュ王子が礼を言うので、私は『いやいや』と手を振る。
「村のゴブリンを追い出したのは魔術師のウイエの魔法。私はそのお手伝いをしただけです」
他人の手柄を横取りするつもりはないからね。
「それでも、ジョン・ゴッド殿の屋敷で学んだ結果だろう? なら、あなたの功績だよ」
嬉しいことを言ってくれるじゃないか、クラージュ王子。
それはともかくとして、王国軍は、ドゥマン村を解放した。
彼らはドゥマン村を拠点にしつつ、問題のダンジョン、サンドル坑道の調査に向かうという。
ゴブリン他、ダンジョンの魔物との交戦は不可避だろうから、かなりの兵力を注ぎ込んだ『攻略』という形になるそうだ。
ダンジョンともなると、機械騎兵も強力な広範囲魔法は使えないから、地道に探索するしかないとされる。
……ふむ、ダンジョンを聖域化したりはできないのだろうか? それをウイエに聞いたところ――
「いや、さすがにそれは聞いたことないわね……。でも、可能だというなら誰かがやっていてもおかしくないから、現状無理なんじゃないかしら」
説明はできないけど、とウイエは答えた。確かに有効であれば、ダンジョン探索や攻略にそういう手段が知られていてもおかしくないから、まったく知らないということは、誰も試したことがないか、試したが駄目だったのだろう。
興味深いね。一度私たちでもやってみるのも悪くない。
さて、ダンジョンは王国軍がかかるとして、私はリラと共に、機械騎兵ナイトのメンテを行った。
タルカル平原での戦いで、イリスが縦横無尽に動かしてくれたからね。初の実戦をこなして、どんな状態か確認と、必要なら修理が必要なわけだ。
操縦者のイリスからも意見を聞く。
「飛び道具が欲しいと思った」
試作兵器である機械騎兵用聖剣による光の掃射は、一撃で大量のゴブリンを薙ぎ払った。非常に強力な武器ではあったが、使用回数が5回までで、後は踏み潰しや、サブウェポンの金属剣による斬撃で対処するしかなかった。
「相手が、小さいゴブリンだから、それをまとめて攻撃しようとすると、足と腰に負担がかかっていると思うのよ」
これまで機械騎兵を試験で動かしてきたイリスは証言するのである。
「リラ、どうだ?」
「確かに、下半身の関節部分が、少しへたっているのです」
ドワーフの機械職人は答えた。
「万全を期すなら、交換したほうがいいのです。……交換する部品がないですが」
持ってきてないからね。……というのは建前で、私はナイトの部品については記憶しているからね、生成できるよ。ただ――
「その必要はないかな」
先にも言ったが、舞台はダンジョンに移ったから、そこで一騒動あろうとも、機械騎兵は使えないだろう。
「慌ててどうにかしないといけないということはない」
「……それ、言っちゃいけない言葉なのでは?」
とある異世界で言うところの『フラグ』なのかもしれない。でも機械騎兵が使えなくとも、聖騎士であるイリスが何とかしちゃうんじゃない?
ナイトは家に戻してもいいだろうし、不安ならダンジョン騒動が終わるまで、ドゥマン村で待機していてもいい。
「ダンジョンか……」
何となく、その響きが気になった。魔境には古代文明の遺跡はあったが、あれはダンジョンというほどのものでもなかった。
果たしてダンジョンスタンピードなんていう恐ろしい現象を引き起こすダンジョンとは、どういうものだろうか?
実に、興味深いね。
・ ・ ・
「ダンジョンコアとな?」
私が言えば、廃材を椅子代わりにしながら、ウイエは説明した。
「幻とも言われるダンジョンのコア――核ともいうべき存在。ダンジョンには、そのコアがあって、それを手に入れたものは、ダンジョンを支配できると言われているわ」
ほうほう、それで?
「実際にある、らしい……けど、はっきりしたことはわかっていないのよね。冒険者があれだけダンジョンという存在を探索し回っているのに、見つけたって話は聞かない。けれど、自称、ダンジョンマスターを名乗る魔術師やらがコアを使って、ダンジョンを操り、支配していたって話はあるのよ」
「ふむふむ……そのダンジョンマスターは、ダンジョンコアとやらを手にして、具体的に何をやっているんだね?」
「そうねぇ、ダンジョンを自分の工房に変えて、魔物やアイテムの合成をしたり、迷宮王を名乗って、財宝があると煽って冒険者や盗掘者を呼び寄せたところを罠にかけて返り討ちにしたり、あとは魔物の王を気取って、領主や国に戦争を挑んだり……とか」
あまりいい使い方をされてなさそうだね。
「ダンジョンコアは、ダンジョンを制御できる力があると言われているわ。そしてその持ち主ともなれば、その力も自由に使うことができる。だから、ダンジョンコアを見つけることができたら、それだけで富も名声も思いのまま……。もちろん、使い方次第だけれどね」
ウイエの話を聞いて、個人的に俄然、興味がわいてきた。
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