第75話、王都にてお披露目


「大丈夫なんでしょうか? ダンジョンスタンピードなんですよね?」


 そう不安そうな顔をするフォリアである。

 彼女は冒険者であり、この手のモンスター絡みの仕事をこれまでやってきた。最近は魔境で勉強やら修行をしているが、今も冒険者だ。


「フォリアは、ダンジョンスタンピードの経験者?」

「直接行ったことはないですが、幼い頃に一度あったのは覚えてます。両親が冒険者だったので、スタンピードと聞いて出かけました。あの時は、周りの大人たちが皆出かけていたので、ギルドで待っているのが凄く寂しかったなぁ」


 なるほどね。今でも成人前のフォリアだから、本当に幼児とか、今の半分くらいの年齢の頃なんじゃないかな。


「特に何かするわけじゃないけど、行く?」


 私は、飛空艇で現地まで行くからね。便乗もできるよ。


「はい!」


 フォリアがよいお返事をした。直接何かあるわけではないが、スタンピードと聞いて、昔の記憶を思い出して落ち着かない気分になったのかもしれない。


「意外ね、ジョン・ゴッド」


 イリスが、騎士の出で立ちでやってきた。いや、訂正。胸甲をしているが、腰回りのアーマーはなく、ほぼ軽装備状態だった。今回は、機械騎兵『ナイト』で戦場へ行くことになっている彼女だ。フル装備で操縦できるようなシートじゃないから仕方ないね。


「頼まれたら案外手伝ってくれるあなただけれど、今回は別に頼まれたわけじゃないんでしょう?」


 飛空艇と機械騎兵を貸して、とは頼まれたらけど、ダンジョンスタンピードに絡めとは言われていないね。


「それとも、自分の知らないところで他人に飛空艇を触られるのは嫌とか?」

「個人的に、ダンジョンスタンピードがどんなものか見てみたいというのが一つ」


 野次馬だね、これは。


「君が乗るナイトの初陣だからね。作った人間としては興味がある」


 実際に動いているのを見て、いいところと駄目なところを確認したい。当然の関心だ。


「ふうん……」

「それより、イリス。君のほうは問題ないか?」


 サンダードラゴン退治のあと、ちょっとメンタル病んでたでしょ。ここ最近は落ち着いてきたみたいだけど、ダンジョンスタンピードとなると、大きな戦いになるかもしれないと聞く。


「私は、王国の聖騎士だから」


 イリスは、機械騎兵ナイトを見上げる。


「こういう非常時は、否が応もないのよ。どんなに気分が乗らなくてもね」

「大変だな」

「それが義務と責任というやつよ」


 そう言ったところで、クスリとイリスは笑った。


「もっとも、あなたの作ったナイトで、ちゃんと目的地に辿り着けるか、というのが最初の問題だけれど」

「長距離飛行になるからなぁ」


 飛行能力を有するナイトは単独で飛べるから、今回は飛空艇と共に現地へ飛ぶことになっている。


「計算上は、往復も問題ないが……操縦者の腕の方がね」

「あら、私は完璧に乗りこなしてみせるわよ」


 イリスは笑みを浮かべたまま言い返した。


「私、騎乗のほうも凄いのよ。どんな馬も乗りこなすわ」

「こいつは馬じゃないんだけどね」

「機械『騎兵』でしょう」


 したり顔のイリスである。騎兵、すなわち馬などに乗って戦う兵。

 ナイトに乗っている時間は一番長いのは間違いなく彼女だし、飛行訓練も問題なくこなしている。……それがなければ、現地へ直接飛行させることもなかったけどね。


 とりあえず、イリスのメンタルはよさそうだった。機械騎兵のコクピットに乗り込んで操縦して、おそらくスタンピードのモンスターと戦うことになるのだろうが、強固な装甲に守られているから、精神的にも普段より安心感があるかもしれない。


 特に準備もないが、私はウィンド号の操舵を握り、フォリア、ウイエと共に空へと上がった。

 爆裂噴射装置付きの2号艇――フレイム号と名付けた方は、リラが操縦して、それに続いた。


 まずは、王都に立ち寄って、現地へ向かう王国軍の先遣隊を回収。ついでに王都民の前に、空飛ぶ機械騎兵をお披露目しよう。



  ・  ・  ・



 ダンジョンスタンピードの話題は、王都民の間でも知れ渡りつつあった。

 それだけ大きな災厄で、王都に害が及ぶか否か、話のネタとしては充分だった。そんな中、空飛ぶ船――飛空艇2隻と、翼を持った機械騎兵が現れれば、まあ騒ぎになるものだった。


 やあ、低空を飛んでいるとはいえ、普通は下からの声は聞こえないと思うのだが、ざわついているのがわかる。

 イリスはナイトでの飛行も慣れたもので、いざ他国と戦争になった時の装備として用意した盾を保持したまま、器用に飛んでみせた。


 武装した天使に見える、と言っていたのはフレーズ姫だったからな。その表現はあながち間違ってはいない。

 盾には、デカデカとソルツァール王国の紋章をペイントしていあるので、パッと見ても敵ではないとわかるだろう。


 王城についたら、騎士たちが整列して敬礼してきた。……何だか急に偉くなった気分になるね。


 イリスのナイトが着地したら、歓声込みのざわめきが起きた。中庭には、古代文明時代の機械騎兵が並んでいたが、それらが胴長短足な無骨ゴーレムのような姿なので、格好のよさが段違いだった。ナイトがその名の通り、騎士に見える……!


「ジョン・ゴッド様」


 第一王子グロワールが恭しく頭を下げた。


「この度は、スタンピード鎮圧のため、ご支援いただき、ありがとうございます」

「いやいや。……グロワール殿も来られるのか?」

「そうしたいところではありますが、今回、クラージュが赴きますので、私めは留守番です」

「おお、ジョン・ゴッド殿!」


 そのクラージュ――第二王子が、朗らかな挨拶をしてきた。


「前線まで乗せていってくれるだけでもありがたい! 世話になる!」


 武闘派な見た目通り、クラージュはやる気満々である。王族だが血の気の多いことで。そんな第二王子を見て、グロワールがわずかにため息をついた。


「まあ、こんな愚弟ではありますが、よろしくお願いします。……クラージュ、くれぐれもジョン・ゴッド様に失礼のないようにな」

「へいへい、気をつけるよぅ」


 ということで、クラージュ第二王子と、彼の率いる騎士と従者と荷物を乗せて、ウィンド号、そしてフレイム号は王城を後にした。


 元々大人数を乗せる設計ではないが、こうなると荷物を載せる貨物庫が大きな飛空艇が欲しくなる。

 そしてそう考えると、王城の中庭に並ぶ機械騎兵を数機運べるような船も……作りたくなるよねぇ。

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