第71話、聖剣を授けよう


 何だかんだ私の家の周りが賑やかになってきた。

 主にソルツァール王国の王族の方々が、息抜きにやってこられる。まあ、家の方を拡張し、私の場所と王族の場所でラインを引いているから、私個人としてはプライベートは守られているし、よい退屈潰しにはなっている。

 何か適切な表現はないかと考えたら、フォリアが言った。


「お隣さんが増えた、みたいな感じですかね」


 なるほど、お隣さんか。人間の村や町で生活したことがないが、天界でも神同士のお付き合いもあるわけで、そんなものかと納得した。


 晴れた日の昼間は、庭が賑やかになる。第二王子のクラージュが、よくここの庭で武術の稽古をしているのだ。

 私は、機械騎兵のためのテストだったりで庭に割と出ているが、クラージュ王子はここでの鍛錬をとても楽しんでおられるようだった。


「いやあ、城だと中々本気でやらせてもらえんのだ」


 体は大きいが、実に気さくな雰囲気の男である。

 第二とはいえ王子である。本気で武術を鍛えたいのに、周囲が身分で遠慮してしまい、甚だフラストレーションがたまっていたそうな。


「だがここでは! ジョン・ゴッド殿の作ったゴーレムがいる!」


 思い切り武器を振り回しても、怪我をしないゴーレム相手に本気で打ち込める。アダマンタイトでできていることは知らないようだが、しっかり反撃もしてくるゴーレムを相手に戦っている彼は、実に生き生きしていた。


 一応、聖騎士のお守りがついているが、ギャラリーがいないから、小うるさい外野の声や視線を気にしなくていいのが、特に気に入っているようだった。


 それに唯一、面倒そうにしているのが、イリスだったが、彼女はフォリアの訓練に付き合うことで逃げていた。……まあ、そのフォリアの訓練は、お付きの聖騎士から基本や武器の使い方でアドバイスをしていたりしていたから、結局、クラージュ王子と合流して一緒に訓練したり模擬戦をやったりしていた。


「ここだと、お前と剣を交えられるから、最高だなぁっ!」

「うるさい筋肉王子! さっさと私より強くなって楽させなさい!」


 第二王子と第七王女だが、歳が近いからか遠慮がない。一時は無気力になっていたイリスだったが、元来負けず嫌いなのか、前向きになりつつあるのが実感できる。……これはよい方向に転がっているようで何よりだ、と私は後ろで腕組みしている。


 まあ、一番収穫が大きいのは、強くなりたいと言ってここに住んでいるフォリアなんだけどね。

 イリスが前より積極的になったのもあるが、お付きの聖騎士やクラージュからもよい刺激を受けて、戦闘技術を習得しているようだ。外見は立派だが、中身が14才と聞いて、ここにいる大人たちは、成人前の子供に対して優しかった。


 やっぱりね、頑張っている子には皆相応の態度を取るのだろう。特にここにいるのは、生活に切羽詰まっていない、余裕がある人ばかりだから、足を引っ張られることも妬まれることもない。

 それはそれでいいことだけれど、ここにいると、王子たちも自然と武器などが目に入ってしまうわけで。


「ジョン・ゴッド殿、オレも強い武器が欲しい」


 クラージュは頼みにきた。


「聞けば、フォリアの嬢ちゃんが使っている武器、あんたが作ったそうじゃないか。もちろん、代価は払う。頼めないか?」


 なんでもこの王子、聖剣使いになりたくてこれまで自ら鍛えていたが、あいにくと聖剣に認められず、よい武器を探していたという。


「……聖剣から認められなかった、か」

「オレが持っても、剣の持つ真の力を解放できなかったんだ」


 クラージュが肩を落とす。


「ただ振り回すだけなら、それで問題はないが、いざ事が起こった時、その力を使えなかったら、聖剣を持つ意味がないだろう?」


 なるほど、お飾りではなく、真に聖剣の所有者でありたいわけか。そうだなぁ、お飾りでよければ、私に武器が欲しいなんて相談しないだろう。


「聖剣は、使用する者を選ぶからなぁ」

「オレには、聖剣に選ばれる素養がないってことなんだろうか……」


 どこか諦めにも似たような顔をするクラージュ。本心から挑んで叶わなかったからこそ、落胆しているのだろう。


「素養というか、単に条件付けじゃないかな」

「と、言うと?」

「聖剣というのは、大体のところ神が関わっているものだ。加護の一つとして、個人に与えることもあれば、良き統治者を選定するため、それに相応しい能力を持つ者しか使えないようにしたりとか……色々だ」


 で、条件によって、とある条件では満たされていても、別の何かが引っかかって持てない、なんてこともあり得る。特に個人に渡されたタイプは、その人間の癖や体格なども合わせてあるから、それに合わない人間が持っても弾かれるなんてこともあるだろう。


「代々、女性しか持てないなんて聖剣もあるし」

「それは……オレには無理だな、うん」


 条件のせいで持てない場合もあると知って、クラージュは微妙な顔になった。聖剣のような武器を所望しているのがわかった。


「クラージュ王子。あなたが持っている剣を借りてもよいかな?」

「ああ、もちろん」


 クラージュは腰から下げている鞘に収まった剣を手渡した。巨漢の彼に相応しく、大きいね。


「ドワーフの職人に作ってもらった。頑丈ではあるが、聖剣のような特別な力はない」

「……よい武器だ」


 職人の腕がよいのだろう。ただ、年季が入っているのか、ちょっとくたびれてきているね。


「オレ専用に作ってもらったものだからな。オレにとっては使いやすいが……まあ、あんたが作ったものと比べてしまうとな」


 フォリアが持っている武器を見て、そういうものを求める気持ちが再燃してしまったのかもしれないね。


「ふむふむ……。これを強くしよう。材質を変えて、いくつか力を付与しよう」

「え? あ――」

「アダマンタイトを用いて、決して折れない剣に――」


 離れた場所からの攻撃には魔力の防御壁を展開して、所有者を守る。

 またその所有者は、クラージュ・ソルツァールとし、他、彼が認めた者と、ソルツァールの王族の血筋のみとしよう。所有者が持った時、その剣は光をまとい、その攻撃力を上げる。

 さらにさらに――


「王国の危機に最大の力を発揮する能力を与える。救国の剣、守護者の剣――」

「おっ、おおおーっ!?」


 力を剣に封入した際に、昼間なのに眩い光が辺りに広がった。ちょっと眩しかったかもしれない。


「今より、この剣は生まれ変わった」


 というわけで、はい。私がクラージュに剣を返すと――


「はっ、ははぁーっ!」


 クラージュ王子は、膝をついて恭しく自分の剣を両手で受け取った。何だ急に。さっきまでと態度がまるで違うじゃないか、君ぃ。

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