第65話、二人の王子


 魔境の私の家の増築作業は、ゴーちゃん以下作業ゴーレムたちの働きによって順調に進み、完成した。

 王族が休憩所として使える場所ということで、業務がない時は、王も王妃も、ついでにフレーズ姫もこちらにいた。

 そしてそんざ状態になれば、周りもまあ黙っていないわけで――


「ジョン・ゴッド殿、息子たちも連れてきていいだろうか?」


 オーギュスト改め、アーガストと本名を名乗った国王は、申し訳なさそうに言った。


「こちらにほぼ毎日のように来ているから、王子たちも来たがっていてな……」


 まあ、そうでしょうとも。王城にいるはずの王と王妃が抜け出して、ここで休憩していればね。


 さて、その王子たちとやらは、王や王妃、フレーズ姫のようにお行儀よくできるだろうか?

 私が知識の泉で得た王族貴族の知識だと、どうにも傲慢かつ横暴な者が一定数はいて、親がよくても不出来の子供がいたり、またその逆もあるという。


「ここの主は私だと理解しているなら、いいですよ」


 不愉快にさせなければよい。ただ不快に感じさせたら……わかってるね、国王陛下?


「恩に着る。……ところで、話は変わるが、飛空艇が増えているな?」

「ええ。飛空艇に爆裂噴射装置を搭載したものを作りましてね。風力噴射とどれほど違いがあるか、テストをしようと思いまして」


 ウィンド号とほぼ同型の小型飛空艇である。王国ご依頼の飛空艇に、この爆裂噴射装置を推進系統に用いるか、テスト結果次第になる。


「一応、形としてはこうなっているんですが――」


 私は、アーガスト王に、王族用飛空艇の想像図を見せる。

 船体は、ウィンド号の3倍の大きさであり、王族の居住区、展望台も備える。公務で王都外に出る時の足として使えるように、というやつだ。


「王族の船ということで、見栄えもよくする予定です。船体の色もソルツァール王族のカラーがいいでしょう」

「素晴らしい……! 実物が早く見たくなる」


 とはいえ、私も色々やってて多忙だからね。アーガスト王もそれは理解しているから、催促するようなことはなかった。



  ・  ・  ・



 さて、アーガスト王が予告した通り、ソルツァール王国の王子が二人、我が魔境の家にやってきた。

 フレーズ姫の付き添いに従ってきた二人は、まず私のところに挨拶にきた。……二人とも長身だ。


「お初にお目にかかる。グロワール、第一王子だ。よろしく頼む」


 キリリとした顔立ちの美男子。どこか周りを寄せ付けないような冷たさのようなものを感じる。


「クラージュだ。第二王子だ。よろしく!」


 熊のような大男だった。赤い髪に日焼けした肌。フレーズ姫やグロワール王子と感じが違うのは、母親が違うからかな?


「ジョン・ゴッド。一応、神です。よろしく」


 張り合うつもりはないが、何故だろう、神と名乗ってしまった。あれかな、内心は相手の反応を見て、気に入らなければ送り返すつもり満々だったのかもしれない。

 グロワールは眉間にシワを寄せたが、クラージュは大笑いした。


「あっはっはっ、フレーズの姉貴の言う通り、神様ときたか! ……ジョン・ゴッド殿、オレは見ての通り、無骨者で存在自体が無礼と陰口を叩かれるような人間だが、悪意はない。ひとつよろしく頼む」


 ペコリと頭を下げるクラージュ。体の大きいが、随分と正直な男なのだろう。


 フレーズ姫から、私が神だと聞いていたらしい。はて、私は彼女には神と名乗った覚えはないが……。最初にウイエとフォリアに名乗った時、あまり反応がなかったから積極的には言わなかったと思うが、その二人から聞いたのかもしれないな、うん。


 王族の休憩所には、すでに王城からこちらに派遣された従者らがいて、私たちが何かしなくても、来訪した王族に飲み物やお菓子を提供した。

 が、やはりというべきか、この家とその周りを見たいと、王子たちは所望した。……そうだろうね。


 同行しているフレーズ姫が、やたら警戒して王子たちを見ている気がするのは気のせいか。


 ということで、王子たちの視察タイム。まずは地下工房で、機械騎兵『ナイト』を披露。


「おおっ、これは美しい……!」


 グロワール王子が、どこか恍惚とした表情になって機械騎兵を見上げる。


「王城で見かけた不格好なものとは違う。……まさに、これこそ騎士だ」

「騎士かどうかは別として」


 クラージュ王子は相好を崩した。


「なるほど、こちらの方が見るからに動きやすそうだ。ちょっとひょろい気がするのは、比較対象が太すぎたせいだな。いや、もう少し太くてもよさそうだ」

「これは、動くのですか?」


 グロワール王子が私に尋ねた。


「もちろん」


 ここ最近は、イリスがこのナイトの二号機に乗って稼働テストをやっているからね。

 ということで、イリスを呼ぶと。


「げっ!?」


 王女様とは思えない声がイリスから漏れた。二人の王子を見て、そういう反応はどうなんだろう。一応、お兄さ――いや待てよ。歳の頃は、実はイリスと二人の王子は近いのではないか。イリスが第七王女ということで、女子が多く先に生まれた家庭の可能性もあるか。……私には関係ないが。


「よう、イリス! ご無沙汰だが、お前もここにいたのか」


 クラージュ王子が軽い調子で声をかけた。こちらは特に遠慮はなさそうだが、一方のグロワール王子は少し反応を気にしているような顔だった。

 それはともかく――


「イリス。王子殿下たちが、ナイトの動いているところを見たいそうだから、動かしてやってくれ」

「……わかったわよ」


 あまり気乗りしない様子だが、ここまできて断ることはしなかった。ナイトに乗り込んだイリスは、慣れた様子で機械騎兵を起ち上げる。

 そして広い地下工房で、ナイトを動かしてみせた。歩行、走行、機械騎兵用の盾や剣などを持ったりと、ここ最近のテストでやった動きを一通り。


「おお、断然こっちの方が動きがいいな!」


 クラージュ王子は歓声を上げ、グロワール王子は腕を組んで冷静に機体を観察する。


「性能のいい機械騎兵だ。城のあれが標準的というのなら、こちらは隣国の機体も凌駕しているのではないか。これを量産すれば、我が王国の安全は守られる……!」

「羨ましいぞ、イリス! オレにも専用をくれ!」


 すっかりクラージュ王子は、機械騎兵に魅了されたようだった。……まあ、王子たちが来ると聞いた時、そんな風になる予感はしていたよ。


 ふふふ……。王子専用機という建前で、別のモデルを作る口実ができたな。知識の泉で異世界様式をいくつか見ていたんだけど、それを見たら色々作りたくなってたんだよな。人型機械って、大きさからスタイルまで実に多種多様だからね。ナイトだけ作って満足していないんだよ、これが。

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