第64話、新型推進装置を作ってみた
ゴーレムに飛行について学習している間に、推進装置の改良や新造を行った。
風力噴射装置を、翼をつけた
魔力を取り込み、それを強風に変換して噴射する。魔道具にも使えるということで魔道具職人のエルバも加わり、改良したり、新しい設計を試してみたり。
「パワーが足りませんね」
エルフの魔道具職人は、その端整な顔立ちを歪めた。
「小型化したら、重量がよりシビアです。機体を軽くすればそれなりになりますが……」
「そうだね。重さに対するパワーが足りない」
飛空艇に積んであるような大型のものならともかく、機械騎兵サイズのものとなると、どうにも加速が悪い。噴射口の向きを変えて、制動をかける時も、止まるまでにかなり進んでしまう。急加速、急停止不可。
「噴射の風を強くすればいいのでしょうが、現状の大気の魔力の吸引量では限界ですね。魔石などのエネルギー源を積んで、そこから魔力を加算すれば、パワーの問題は改善すると思いますが」
「そうすると、魔石の魔力消耗が早くなるからね。パワーを上げれば、その分、魔石が使い捨てみたいになるから、一般で使うにはコストパフォーマンスが悪くなるだろうね」
エルバが口を開いた。
「噴射口を絞って、風の出る方向を狭めれば少しは強くなるかと思ったんですが――」
「これは別のものに変えたほうがいいね」
私は、魔術師が使う杖のような棒を生成すると、それをクルクルと回す。
「それは何です?」
「ちょっとした思いつき」
回していた棒を止めて、その先端を見つめる。
「空気の質を変える。あるいは爆発の力を利用するとか」
「……というと?」
「爆発が起こると、衝撃波が起こるだろう?」
「ええ、爆裂魔法などを使うと、周りもなぎ払えるほどの強い衝撃波が起きますね」
それで敵を複数まとめてダメージを与える――エルバは怪訝な顔になる。
「確かにそこらの風より勢いが凄いですが……まさか!」
「そう。爆発の衝撃波を一定方向にのみに圧縮して解放したら、推進力になるのではないか……?」
「可能かどうかは別にして、確かに四方に散る衝撃波が一方向のみに集中すれば、強い力になりますね」
エルバは頷いたが、やはり首を傾ける。
「考え方としては素晴らしいですが、その方式の推進装置が実用化できるか、それが問題ですね。爆発の熱と衝撃波に、装置が耐えられず自壊する可能性が高い」
「手間やコストはかかるだろうが、爆発で壊れない素材を使うとか、防御の魔法などを施して対策する手はある」
「ですね。……しかし、製作費とか、考えたくない代物になりそうです」
魔道具職人故に、エルバは材料やら工作費が凄まじいことになりそうというのが、経験でわかるようだった。なに、心配ない。
「とりあえず、やってみよう。ここでは材料費もないし、我々もタダ働きだからね」
「やるかどうかは完全にボランティアですからね、ここだと」
エルバは苦笑する。この魔境ではお金は使っていないからね。やりたくなければやらなくてもいい。
私が勝手にやっていることに、君たちが勝手に手伝っているだけだから。強制はしていないし、今後もするつもりはないよ。
それでも職人たちが手伝うのは、新しい技術の開発と、そこで得た知識や経験を学べることだ。それはやがて、自分たちにとってお金を生み出す種になるかもしれない。
・ ・ ・
アダマンタイトで作った仮称『爆裂噴射装置』は、風力噴射装置に比べて、パワーがあった。
素材が素材だけに、爆発によって損傷もなく動いた。……世間様には、爆裂噴射装置に使うほど潤沢なアダマンタイトはないから、別の素材で作ることになるんだろうけどね。
金に、いや素材に糸目をつけないと、案外できてしまうものだ。エルバやリラ曰く、普通に取り組んだら、性能を試す以前に素材が耐えられず壊れたりで、開発期間が長引くものらしい。
そりゃあ壊れたら、また作り直しだし、時間も手間もかかるよな。
モノとしては、想定通りの物ができた。ただ最上位素材あっての成功である点は、アダマンタイト以外にもあって、私の工房以外での製造を難しくさせた。
たとえば、噴射装置の肝である爆裂発動筒――ロッド周り。爆発を発生させる筒――魔法使いの杖になぞらえてロッドと命名したが、ここから発生する連続した爆発を維持する魔力の供給はどうするか?
爆発の威力が高いほど推進に使える力も大きくなるが、その爆発を起こす力は魔力を用いている。従来の外部から魔力を吸引し利用する方法だと、爆発力があまり強くならないのだ。
連続して使わず、瞬間的な噴射であるなら供給魔力を調整もできて、それでもいいのだが、継続しての噴射、飛行にはパワーが弱くなってしまう。
その問題をどう解決したか? 私が、ロッドの魔力変換効率を変更した。従来の魔力量でも、充分な推力を維持できるように弄くったのだ。
当然、エルバほどの職人が見よう見まねしても、そこまで再現できないほどのインチキ性能であり、私の工房以外で、同じレベルのものを作ろうとしたら何十年先になるかわからない状態だ。
……素直に魔力を補充できる予備魔石を載せて、そこから魔力を供給できるシステムを作ったほうが早いと思う。
形になったので、グライダーに爆裂噴射装置を搭載して飛ばしたら、風力噴射よりも断然スピードが出た。これなら風力の時より重量があっても、充分なパワーが発揮できるだろう。
試作一号ゴーレムが、浮遊と飛行について学習を進めている。機体のどの位置に噴射装置をつけるかお試しして、さらに飛行姿勢や反応などを確認する。
そしていよいよ、機械騎兵サイズのゴーレム――試作四号に噴射装置を搭載して、その動きを見てみた。
この時は、オーギュスト――アーガスト王とグレシーヌ王妃も視察にきて、皆の見ている前で、人型ゴーレムが飛行するのを見ていった。
ゴーレムがこちらの指示に従い、ジャンプ、上昇、下降。さらに旋回や急加速や急制動をかける様は、エルバやリラが誇らしげなのはもちろん、フォリア、イリス、ウイエもまた驚きをもって見守った。
「凄い……本当に飛んでるわ!」
ウイエが声を上げる。フォリアも目を丸くする。
「あんな重そうなのに、自由に飛べるんですね……!」
「そうね。ただあの急加速と急減速は、どうなのかしらね。あれはゴーレムだから問題なさそうだけど、人間が乗っていたら衝撃過ごそう」
「そうなんですか、ウイエさん?」
「速度を出しているものが急に止まったりする時って、結構体にくるのよこれが」
実際に飛行魔法か魔道具で飛んだ経験があるらしいウイエのお言葉である。……なるほど、ゴーレムはともかく中に人が乗っている場合だと危ない動きもあるのか。
そういえば、まだ有人で飛ばしていなかったからなぁ。ここも今後の課題だな。
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