第63話、飛ばすためにも、やることは沢山ある
機械騎兵が空を飛ぶ、と言ったら、皆に驚かれた。そこは、人間と神の思考の違いかもしれないが。
「空を飛ぶ騎士……。何だか神話のようですわね」
フレーズ姫は驚きから、羨望のようなものに感情を切り替えたようだった。
「天使も背中の翼で飛びますし、人の形をしたものが空を飛んでもおかしくないですわ!」
「そ、そうね……そうかも」
イリスが要領を得ないながらも、同意した。オーギュストは顎に手をあてながら考える仕草をした。
「うーん、とはいえ、天使と機械ではな。……神話やおとぎ話では、確かに天使が舞い降りるという例はあるが」
「実際に天使を見たことはないし」
まあ、そう天使も地上をふらふらしないからね。実際にお目にかかれる機会なんて、地上ではほぼないだろう。
「天使がどうこうは、イメージの話だろう? 実際の天使とは関係ないよ」
ぶっちゃければ、神様は翼がなくとも、その気になれば飛べるんだよ――というのは、置いておいて。
「生き物の翼を機械で再現するのは、とても難しい」
鳥の羽ばたきメカニズムを機械でやろうとしたら、どれほど大変か。
「正直、そこまでやらなくても、魔術方面で装置を作れば飛べるから、鳥のような翼はいらないんだ」
まあ、羽ばたきこそないが、方向転換や安定性、揚力のために翼のようなものをつけるつもりではあるけれどね。
「実際の飛行もだけど、それを制御、操縦するのも大変なんだけどね。何せ、ナイトを飛ばす操縦者は、空を飛べない人間だから、飛行感覚もわからないでしょ」
空を飛ぶというのは、慣れが必要だからね。
「だからナイトは、将来的には飛行できるようになるけれど、今は装置もできていないし、試行錯誤しないといけない」
「何をするんです、マイスター・ゴッド?」
おっ、リラが気絶から復帰したようだ。早速、私がやろうとしていることに興味津々だね。
「ナイトの制御系統は、ゴーレムだ。だからまずその制御装置であるゴーレムに、空を飛ぶという感覚を覚えさせる」
飛行時の姿勢とかね。人型は手と足があるから、飛んでいる時の位置とか、重心の移動で空中での姿勢の変化などなど。その辺りは、操縦者で操るというのはほぼ不可能だから、制御装置がきちんと学習していないとね。
飛行に適した姿勢を、機体のほうで取れるようにする。常にバランスがとれるように。……もっとも、浮遊石を積んで常時浮いていられるようにできるから、姿勢どうこうで失速、墜落はしないようにはするけどね。
・ ・ ・
人型機械に飛行をさせる。その前段階として、ゴーレムを作り、それを飛ばす。
私の頭の中にあるイメージをもとに、リラを助手に製作を行う。その行程を、色々な人が見に来た。
魔術師のウイエは――
「飛行魔法は、使える人も魔術師の中でも極一部。風使いが多いけれど、まさかゴーレムを飛ばそうなんて……」
「ウイエさんは、飛行魔法使えるんですか?」
同じく見学にきたフォリアが尋ねた。ウイエは手を振る。
「何もなしでは無理。飛行系の杖とか、そういうのに乗ればできなくはないけれど」
魔術師の杖の中には、そういう空を飛ぶことができるものがあるらしい。
「あっても、それを扱いこなすのはとても難しいの。だから、魔術師界隈でも、あまり普及していない。飛べたら移動に便利なんだけれどね」
「そうですねぇ。飛空艇はとても早いですし」
フォリアは同意した。ウイエは首を傾ける。
「そもそも、人の形って空を飛ぶようにはできていないのよ」
「空を飛ぶ生き物って、翼がありますもんね」
普通に考えれば、翼のない人間が飛べるはずがないのだ。そこに魔法やら飛行する道具やらがあって、はじめて飛べる。
「でも、適した形ってなんでしょうね……」
フォリアは腕をくんで、うーん、と唸る。
「本でも見ましたけど、飛行できる生き物だって色々あるじゃないですか。鳥みたいに手がなくて翼になっているもの、虫のように手足は関係なく羽根があるもの――」
天使や悪魔のように手足と翼は別になっているもの。
「グリフォンやドラゴンなんて、普通に人間よりも大きくて重くて四足なのに、翼があって飛べる……。あまり形って関係ないんですかね?」
「飛行できる生き物は翼以外にも羽毛や皮膚なども、飛行に適したものになっているのがほとんどだから、形が全てではないわ。ドラゴンはわからないけれど、貴女の言ったグリフォンなんて、人間よりは重いけれど、あの大きさの割にはかなり軽い作りになっているって話だし」
などと雑談をしているギャラリーをよそに、私とリラが製作、時々エルバやカナヴィ、ホムンクルスのペタルが手伝った。……何故悪魔とその助手が手伝ってくれたかは不明。何か面白そう、とはカナヴィは言っていた。
ということで、試作一号!
「痩せたゴーちゃんみたい……」
フォリアの感想は、まさにそれ。見学のイリスが皮肉っぽい顔になる。
「これ、飛べるの?」
「動作確認と学習用なのです」
リラは答えた。
「ゴーレムが空中にある時の姿勢や、動作、効率のよいパターンと思考を開発するのです」
「……わかるような、いやわからないわ」
正直なイリスである。私は言った。
「幼児に言葉を教えるようなものだ。どんなものにも最初の一歩というものがある」
これまで作ったゴーレムの知識や経験は移植しているから、地上での歩行や作業などは、完璧なんだけどね。それまでやったことがないことを覚えさせようというのだ。
「たぶん、君たちが期待しているような、ギューンと飛んだりしないから、見ていても、あまり面白味がないと思うよ」
派手なものは追々、最初は地味なところからのスタートだ。こういうのもコツコツとやつていく。
「それが楽しいんだけどね」
いざ、飛行記録の収集。といっても最初は浮遊からなんだけどね。浮き上がり、推進装置を噴かして、スィー、と滑るように移動。ノロノロノロノロ……。
「ストップ! ストップなのです!」
リラが叫んでゴーレムに呼びかける。そのまま進み続ければ、壁に激突する。推進装置の向きを変えて、制止するようにゴーレムが動く。
イリスは苦笑した。
「何だか飛ぶというより泳いでいるみたいね」
「止まろうとしているところなんか、溺れているようにも見えた」
ウイエが感想を付け加えた。やったことのないことをすれば、そうもなるさ。
リラがゴーレムから私の方へやってくる。
「最初はこんなものなのです。でもパワー不足と推進装置の向きが固定なので、適切な方向に体を向けないといけないのです。ぶっちゃけ無駄な動作が発生するのです」
「パワーについては正式版は強いから問題ない。ゴーレム自身の重量を軽くできれば、現状でも早く移動できるだろう。推進装置の噴射口の向きを変更できるようにすれば、もたつきもある程度解消するだろうな」
あと推進装置の補助を機体各所につけるとかね。……いやあ、やることがいっぱいだねぇ。
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