第62話、機械騎兵の可能性


「マイスター・ゴッドぉ……」


 ドワーフの機械職人のリラが、どこか恨みがましい声を出した。


「こんないいものを作っているなら、あたしにも教えてくれてもよかったのです」

「君は、王城で機械騎兵の組み立てをやっていたじゃないか」


 私たちは、家の地下工房にいる。巨大倉庫ともいうべき広い空間に、私が製作したオリジナル機械騎兵が2機立っている。

 リラはそれを見上げて、口をへの字に曲げた。


「マイスターの手引き書によって、王国には古代文明産のものを四機、完成させたのです。……でも自分は、こっそりさらに凄いものを作ってるじゃないですか!」

「こっそり? いや、国王陛下公認だよ?」


 私はすっとぼける。自分が作りたかったから作ったら、こっそりとは酷いな。まあ、公認される前から作っていたといえば認めるが。


「再現して喜んでいたあたしが馬鹿みたいなのです……」

「まあまあ……仕様書、見る?」

「見るです!」


 ふんすっ、と少々お冠なドワーフ少女。私が使っている機械騎兵の仕様書をペラペラとめくる。


「『ナイト』という名前なのですか、これ?」

「仮の名称でね。国王陛下に、ソルツァール王国の騎士って表現をしたから、じゃあそこから騎士に、って安直だがね」

「ふむふむ……これを見ると、機械騎兵とは、まったく別物なのです」


 むむっ、とリラの眉が動く。


「所々あたしの知らない新しい技術があるのは、まあ仕方ないのです。さすがはマイスター・ゴッドなのです」


 どうも。


「でも……この基本となる構造って、ゴーレムじゃないですか!」

「そうだよ」


 しれっと認めれば、リラが天を仰いだ。


「しかも機体の制御系がゴーレムのそれなので、操縦者と意思疎通が、発掘した機械騎兵のそれよりシンプルなのに、効率が段違いなのです! ぶっちゃけ、操縦者なしでも動くじゃないですかこれ!?」


 おお、気づいてしまいましたか。ニヤニヤ……。


「これ操縦できなくても、操縦席で、動作指示出すだけで自動で動くのです! ああもう、何ですこれ! 古代文明のそれを再現するのもやっとのこの世界で、それより優れている機構を、わずか数日で組み上げて、もーっ!」


 リラが自身の髪を掻き毟るようにわしゃわしゃと。


「しかも何が悔しいかって、これ、その気になればあたしたちでも開発して、作れたかもしれないってことなのです! この発想、シンプル過ぎて逆に思いつけなかった自分たちにムカつくのです!」


 そうかなぁ……。リラがそういうのであれば、そうなのかもしれない。

 発狂していたリラが、唐突に冷静になった。


「まあ、それもこれもゴーちゃんを作ったマイスター・ゴッドのゴーレムレベルで、初めてモノになっているだけで、この世界のゴーレム技術では、たぶんここまで性能の高いやりとりは無理なのです」


 思いついても、すぐにモノができるかと言えば、そうではないとリラは言った。うちのゴーレムは、人とのやりとりに対して個々に判断し会話も交わせるレベルだ。それくらいのゴーレム頭脳がなければ、まあ無理というのはわかる。


「それにしても、マイスター・ゴッドは、どこからこんな発想が……」

「ん? まあ、応用だよ」


 私だって専門家じゃないからね。知識の泉から得た知識をそのまま使うこともあれば、その技術を、いまあるものを利用して再現することもある。

 異世界技術である制御系コンピューターについては、まだ勉強が必要だが、これゴーレムの技術を少しいじれば再現できそう、って思ったら、こうなったのだ。


「んんっ?」


 再び仕様書を読み始めたリラが、変な声を出した。……今度は何だ?


「この想定資料とは何なのです?」

「あー、それ」


 仕様書の最後に、こうなりますっていう図とかメモをつけたんだよね。


「アイデアまとめ」


 知識の泉から拝借したものを噛み砕いて書いたのが半分以上。どう再現するかは、多少研究は必要だ。


「武器はまあわかるのです。機械騎兵どころか、ドラゴンを相手にできそうなのです」

「ドラゴンは、特別な防御装備もないと難しいだろうね」

「マ、マイスター・ゴッド! このナイト、空を飛ぶのですか!?」

「ああ、うん。たぶん機体の数カ所に推進装置を付ければ、動けるはず」


 飛空艇と同じだ。浮遊石を積んで浮力を確保すれば、小型の推進装置で大ジャンプしたり、空を飛んだりできるという寸法だ。


「これも応用だよ」

「うああああああぁっ!」

「リラ、どうした?」


 あ、絶叫したら気絶しおった……。何で?


「ちょっと、ジョン・ゴッド。今、大きな声が聞こえたけど!」


 イリスが地下工房にやってきたところだった。ナイトの動作試験のために呼んだのだ。と……オーギュストとフレーズ姫が、やや遅れてやってきた。


「おおっ、ジョン・ゴッド殿の作った機械騎兵、完成したのか」

「とてもスマートですわ」


 以前、作りかけを見に来たオーギュストはもちろん、フレーズ姫からも好評をいただいたようだ。


「先ほど王城で見たものは、かなり胴長短足な印象でしたものね」

「そうだな」


 古代文明時代の再現機械騎兵のことを言っているようだ。そういえば、リラが完成させたとか言っていたな。


「ねえねえ、ジョン・ゴッド」


 イリスが、気絶しているリラを指さした。


「リラは、どうしたの?」

「うむ、ナイトが空を飛ぶと知ったら、驚きすぎて意識が吹っ飛んだようだ」

「え!? 空を飛ぶ? これが!?」

「え?」

「え!?」


 オーギュストとフレーズ姫も固まった。そんなに意外だろうか? 飛空艇だって空を飛ぶんだ。船が飛ぶことを考えれば、それより小さい人型の機械が飛んだっておかしくないと思うんだが……? これは私がおかしいのか?

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