第61話、休憩所を相談したり、機械騎兵作ったり


 それからほぼ毎日、オーギュストやグレシーヌ王妃が、私の家を訪れるようになった。

 飛空艇や機械騎兵の開発を視察する――わけではなく、食事や休憩時間をゆったり過ごすためだ。


「いやあ、ここの料理や飲み物はとてもよいので」


 オーギュストは言うのである。王城にも、こういうのがあれば――というので、私はレシピを提供し、城の調理人たちでも作れるようにした。

 そしてエルフの魔道具職人であるエルバに、ここで使っている調理道具を作らせて、王城にも設備を設置するように手配する。……学習させに送り込んできてよかったね。早速、役に立ったじゃないか。

 技術を広めれば、こうやって私が出張らなくても解決するものだ。


 しかし、王族がこうちょくちょく来られては、フォリアやイリス、何よりウイエが落ち着かないようだった。悪気はないんだろうが、さすがに王族が休憩とはいえ、こう訪れてはねぇ。


 ということで、私は家を拡張することにした。いわば、王族らゲストのための休憩所というやつだ。

 今の私の家から見える景観を損ねないために、位置は注意する。私は私の住む環境について、妥協はしたくないからね。


「――で、おそらくここをお使いする王族の皆さんのための休憩スペースを作ろうと思うのですが、何か希望はありますか?」


 私は、知識の泉からいくつか、参考資料として画を生成したものを、オーギュスト――ここではアーガスト陛下とは呼ばない――とグレシーヌ王妃に見せた。あと一緒にいるフレーズ姫にも。


「ほう……これは」

「広々としていて、窓がとても大きいのね……」


 ゆったりプライベートな空間を提供する内装にしつつ、森の別荘感があればいいかなと思う。王族には王都に城があるわけだし、寝泊まりする家ではないわけで。


「でも、贅沢を言えば、ここに住みたいわ。だって快適だもの」


 グレシーヌ王妃は微笑む。フレーズ姫は頷いた。


「わかります。ここは森の中なのに、とても快適ですもの。暑くもなく、寒くもない。もし適温が保てるなら、城で過ごすより遥かに過ごしやすいですわ」


 冬のお城は、とても寒い。隙間風は当たり前。石造りは冷えて冷たく、暗いし、寒いしで快適とは程遠い。

 そもそも、城というのは、居住性についていいとは言えないものなのだ。うちで使っている寝具や魔道具を揃えれば解決、というものでもない。


「王城のお部屋もリフォームが必要そうですね」


 せめて寝室辺りがまともになれば、こっちに移るなんてこともなくなるだろう。

 そんな感じで、王族の休憩スペースについて細部を詰めていく。案は持ってくるが決めるのは王族にお任せである。私が本気を出してしまうと、そっちへ私が移りたくなるかもしれない。それはよろしくない。



  ・  ・  ・



 王族の休憩スペースについては、追々やっていくとして、オリジナルの機械騎兵が完成した。


「というわけで、イリス。機械騎兵試作モデルができたから、テスト操縦をやってくれ」

「……」

「イリスー?」

「はいはい、わかりました。やればいいんでしょう、やれば」


 イリスは渋々、私の指示に従った。拗ねているようにも見えるが、ここで突き放すと、無気力まっしぐらだから、広い心で受け入れよう。


 ここ最近、彼女にはリハビリを兼ねて、とりあえず色々やらせている。

 失敗を恐れること、周囲の人間の前では模範的であろうとするところ――それが極まった結果、気力を無くしてしまった。あのまま何もできなくなるのは、周りの人たちの心配の種になるから、やらせてみている。


 仮にも聖騎士だからね。肝心な場面で働けなくなるということは、王国の人々からよくないことを言われてしまうことになるだろう。

 だから、今のうちに失敗しても大丈夫、という挑戦心を再燃させようとしているわけだ。挑戦するというのは、それだけで前向きな証拠だからね。

 それで何か夢中になることが見つかるといいんだけど。


「……大きいわね」


 イリスが、私の作った機械騎兵を見上げる。


「でも、かなり細く見えるわ。確か、遺跡で見たのは、もうちょっと太かったような……」


 いかにもゴーレムの延長っていう感じで、手足が短め、しかしかなり太かったのが古代文明の機械騎兵だった。

 それと比べると、こちらのはかなり人間のバランスに近い。そしてその外観は、鎧をまとう騎士のように見えた。


「勇ましいわね」

「見た目がいい方が、乗る方もやる気になるかと思ってね」

「まあ、かっこ悪いのは、あまり乗りたくはないわね」


 イリスは認めた。それではいざ操縦席へ。胴体に操縦するための装置のあるコクピットに入り、イリスに操縦の仕方を教える。


「――右足のペダル? これで前進」

「強く踏めば、歩くから走るに切り替わる」


 あーだこーだ、言ったり見たりで、一つずつやり方を消化していく。実際に歩かせてみれば。


「おお、上手い上手い」

「本当? 意外と簡単なのね」


 開かれたコクピットハッチから、直接前を見ているイリスである。


「大丈夫なんでしょうね? ちゃんと歩いてる?」

「真っ直ぐ進んでいる。そういうことだ」

「ここからだと足元が見えないもの。そもそもちゃんとした姿勢で歩いているかも、よくわからないんだけれど」

「その点は問題ない。君もうちのゴーレムの動いている姿を見ているだろう? 基本的な動作は、ゴーレムからとった記録データから作られているからね」

「そう。……それはいいんだけれど、足元が見えないのは怖いわ。何かを踏んだのがわからないのは」


 そうだなぁ……。


「ゴーレムの頭パーツを加工したものを、機体各所に取り付けよう。それでゴーレムの視野が、コクピットに共有されてわかるようにする」

「それって、ゴーレムの頭が足とか手につくってこと?」

「腰とか股とか肩とか、まあ、色々――」


 私が言えば、うーんとイリスは唸るように腕を組んだ。


「どうした?」

「完成したと聞いたのに、まだまだやることがありそうね」

「何事も最初から上手くはいかないものさ。こうやって動かしてみて、改善点を見つけてより完成度を高めていくものだ。……だから、今のうちにいっぱい失敗しておきたい」

「……そういう考え方もあるのね。ところでジョン・ゴッド」

「何だ?」

「あなたは乗って動かさないの?」

「動かしているよ」


 君が動かす前に、各可動部位の動作チェックとか。一応の完成形では、まだ動かしてないけど。

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