第55話、王妃様が来訪したけど、遺跡探索再び
ソルツァール王国の王妃様が、魔境の私の家にやってきた。
ウイエの説明通り、護衛の騎士と侍女もセットであったが、それでも10人と、控えめな人数ではあった。
案内役なのか、フレーズ姫もいて、まず私に挨拶し、それから双方、自己紹介。
「グリシーヌと申します。我が娘フレーズが大変お世話になっております、ジョン・ゴッド殿」
「丁寧なご挨拶、痛み入ります。ジョン・ゴッドです」
礼には礼で応えるが、あいにくと人間の王族を迎える作法などは詳しくないものでね。かなり適当ではあるが、それで王妃が目くじらを立てることはなかった。
外の森には訝しむような目を向けていたグリシーヌ王妃だが、家に案内すると興味深そうに内装を眺めていた。……珍しいのだろうね。
そして彼女の目的であるドレスの置かれた地下の大部屋へ移動。カバーを払い、色取り取りのドレスを披露すれば、グリシーヌ王妃は感嘆された。
「まあ! まあまあ! これは、ドレスの森ですわ!」
カラーバリエーションまで揃えたら、まあ作りすぎたのなんのって。ドレスがそれこそ何十着もある。森と表現するのも、あながち間違いではないかもしれない。
「これをそばで見てもよろしいかしら?」
「もちろんです。どうぞ、近くで見てください」
グリシーヌ王妃とフレーズ姫が、さっそくドレスに近寄って鑑賞を始める。ガイドではないが、フレーズ姫がいるので、私がここにいる必要はないな。後は任せて、私は私でやりたいことをやろう。
「ジョン・ゴッド様?」
「後はお任せしますよ、フレーズ姫。……試着はご自由にどうぞ」
さすがにご婦人の着替えの場に、男がいるのは失礼だからね。
というわけで、地下から地上に戻り、庭へと出る。そこにはフォリアにイリス、リラが武装を整えて待っていた。
「もういいのですか、お師匠様?」
フォリアが確認してくるので、私は頷いた。
「フレーズ姫に任せてきた。いざとなればウイエもいるし、何とかなるだろう」
我々は、これから魔境にある遺跡探索に向かう。以前は、飛空艇の残骸を見つけ、そこから再現してみせたわけだが、機械職人にして探求者であるリラは、遺跡調査がしたいと前々から言っていたのだ。
イリスの精神的なリハビリも兼ねて、家の外を冒険しようというのが今回の探索だ。
「マイスター・ゴッド! 遺跡調査に誘ってくださり、ありがとうございます!」
外見は少女であるドワーフのリラがペコリと頭を下げる。
「いや。魔境は危険なモンスターも多いからね。気分で探索は難しい」
まあ、私やイリスほどなら、散歩気分で魔境の森も歩けるが、それ以外の者にとっては、非常に厳しい環境である。
「イリスは? 準備は整えたか?」
「ええ。……正直、私がいなくても大丈夫じゃないの?」
そっけなくイリスは言うのだ。
「また、そんな拗ねたことを言って。一人で何でもできるわけじゃないからね。君がいないと困る」
私だって万能じゃないんだ。神様だってそうなんだから、人間だってそう。自分はいらないのでは、というのが思い込みであるというのは、理解してほしいものだ。
・ ・ ・
遺跡までの道中は、やはり森の魔獣などが襲いかかってきた。
わかっていたことだが、私やイリスの前では、大抵の魔獣は一撃だった。私の与えた武器を扱うフォリアも、当てればほぼ一撃で敵を仕留めた。……うん、コツコツ鍛えているだけあって、動きが精練されてきているね。
それはイリスも感じ取ったようで。
「フォリア、いい動きね」
「ありがとうございます、イリス様」
成長しているね。いいことだ。
さて、しばらく森を進み、遺跡に到着。リラは息を呑んだ。
「これが……魔境の古代遺跡!」
感動している、と思いきや、リラは早速調査を開始した。前回は、遺跡素人の集まりだったが、専門家がいると、やっぱり違うなぁ、と思った。私が渡したノートにメモを取ったり、図を書いたり。
フォリアとイリスは近くで、魔獣などが来ないか監視。……私だけ手持ち無沙汰なので、遺跡の情景を魔法で記録、あとで見返せるようにした。
私はリラに、前回発見した飛空艇の残骸まで案内。そこでまたもスケッチやメモを取り出したので、一人、探索ついでにぶらつく。
そうやって見つけたのは――
「巨人、かな……?」
金属で出来た巨大な手。これは機械に類するものだろう。巨大なゴーレムか何かかな。鑑定してみる。……ふむふむ、人が乗り込むことができる『機械騎兵』という兵器の腕部らしい。大昔にはそんなものがあったんだな。
どれ、手以外の部位はないかな……? 私は辺りを探してみると……あるある。どれも壊れているが、合わせれば数体分はありそうだ。
やがて、リラがやってきて、私の発見した機械騎兵の残骸に声を上げた。
「き、機械騎兵が、こんなところに! これは大発見なのです!」
まあ、古代文明時代の代物だからね。そりゃあ大発見かもしれない。
「国王陛下が知れば、きっと大喜びなのです。ソルツァール王国でも機械騎兵が見つかったとなれば!」
「……うん?」
王国でも、と言った?
「リラ、私はこの機械騎兵について詳しくはないのだが、これは有名なのか?」
つまり他にもすでに発掘されたりして、それなりに名前が知られている存在だったりするとか。
「有名と言えば有名なのです。機械騎兵は、この大陸全体で見ると割と発見されていて、それを修復して、兵器に用いている国もいくつかあるのです!」
「そうなのか……」
「全部の国で見つかっているわけではないのです。ここ、ソルツァール王国ではほとんど見つかっていないので、隣国との軍事格差に、王国は悩まされていたのです」
「隣国は、機械騎兵を保有していると?」
「そうなのです」
なるほどぉ。じゃあ、この発見は王国にさっさと献上したほうがよさそうだな。隣の国が持っていて、この国が持っていないとなると、ぜひ手に入れて使いたいと思うのが自然だろう。
もっとも……。
「この機械騎兵って強いのかね?」
「とっても強いのです、マイスター・ゴッド!」
リラがグッと拳を固めた。
「装甲が厚いので、並の投射武器が無効化されてしまうのです。それこそ大型魔獣を倒すほどのバリスタとか投石機が必要なレベルですが、それらを避ける機敏さも機械騎兵は持ち合わせているので、通常戦力で対抗すると、かなりの損害を犠牲にしなくてはいけないのです」
「それはそれは……。王国が欲しがるのも無理はないかな」
ただ、この残骸から、ちゃんと動くように修理、再生させるのが大変そうではあるけど。でも準備は必要だろうね。人間の歴史は戦いの歴史とも言うし。もし隣国が戦争を仕掛けてきたら、魔境にも影響が……あったら嫌だねぇ、本当。
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