第52話、ドレス選びは個人の好み


 知識の泉から、女性用のドレスを調べる。一言、ドレスと言っても古今東西様々なものがあって、正直私も詳しくないのだが、パッと見ていかにもパーティードレスらしいものを選んで、構築する。


 このウェディングドレスとかいうのが綺麗じゃないか……? いや何々、結婚式用? 結婚式、結婚とは、あれだな。人間や亜人種族がやる婚約の、男女の、えー……。これはちょっと違う意味に解釈しそうだから、ちょっとズラそうか。


 私は、拡張した地下大部屋にて、衣装を選び出して制作。それを並べていくと、場所が必要だったわけで大部屋になったわけだ。

 で、ドレスパーティーをしようという私の提案を聞いていたイリス、フレーズ姫、フォリアも居たわけだが。


「あぁ、凄い。さすがはジョン・ゴッド様ですわ……!」


 フレーズ姫が狂喜していた。


「物語のお姫様のドレスですわ。……わたくしも機会がなくて来たことがあまりないですから、これは羨ましいですわ!」

「そうなの?」


 イリスが意外そうな顔をすれば、フレーズ姫は頷いた。


「そうなのですわ。ほら……わたくし、先日まで病弱でしたから、まともなパーティーやら行事に出たことがほとんどなくて……。こういうドレスは着てみたいと憧れていましたの」

「そう、だったんだ……」


 イリスが何とも言えない顔なので、フレーズ姫は小首をかしげる。


「でもイリスは、わたくしと違って式典や行事も多く出ているでしょう? こういうのは慣れていたりは……?」

「全然。むしろ煩わしさすら感じているわ」


 イリスは眉をひそめる。


「それに、私の場合は女性用のドレスなんて、ほとんど着ないし。聖騎士としての正装ばかりで……いやまあ、私にドレスなんて似合わないから、いいのだけれど」

「そうなのですか……」


 今度はフレーズ姫が不思議がる番だった。


「イリスはわたくしより美人ですから、ドレスもきっとよく似合うと思いますけれど……」

「は? 私が? 冗談はやめて。あなたのほうがよっぽど美人でしょうが」

「そんなことありませんよ」

「そんなことあるわよ!」


 何だ何だ? 何を揉めているんだ?


「フォリアー」


 私がドレス制作の片手間に言えば、二人のやりとりを目線で追っていたフォリアが口を開いた。


「わたしは……お二人はとっても美人だと思います……」


 何でそこで少し恥ずかしそうに言うんだ、フォリア? 君も綺麗だよ。


「フォリアさんも美人だと思います」


 真顔のフレーズ姫。フォリアは顔を赤らめ、首を横に振った。


「いえいえ! わたしは、その14なのに体だけ大きくなってしまって……。可愛いのとか綺麗なのって、たぶん似合わないかなー、と」

「いや、あなた綺麗でしょ」


 イリスが真顔で言った。同じ真顔なのに、ちょっと怒っている風に見える不思議。


「子供用が合わないってだけで、大人のなら何も問題はないでしょ。あなたは充分可愛いし美少女でしょ」

「ええぇ……」


 フォリアは困惑している。あまり美人とか美少女とか言われたことがないせいか、照れているのかもしれない。

 それはそれとして、自分のことは否定するのに、人は褒めるんだな、イリスは。おかしな娘だ。

 ともあれ、彼女たちの関心はドレスの方に移る。


「とても綺麗な色合いですね。青に緑に、オレンジに、ピンク――」


 改めてフレーズ姫が感嘆すれば、イリスはドレスを近くで眺める。


「このグラデーションも素敵よね。この青はまるで海のように濃いのに、こっちは光沢がある青で海そのものを表現しているみたい」

「こっちは空のような透き通った青ですよ!」


 フォリアが興味津々という様子で近づく。白に黒、カラーバリエーションは豊かである。私も適当に選んでいるが、実際に並べてみるとこれが中々壮観だ。


「気にいった色はあるかな?」


 私が尋ねると、フレーズ姫は首を傾けた。


「そうですね……。わたくしは、白……こっちのピンクのがいいと思います!」

「ふーん、意外とお子様が好きそうな色を選ぶのね」


 イリスがポツリと言った。いいじゃないか。好きな色を選んだって。どうせ披露するのはここだけなんだし。


「そういうイリスは?」

「私は……別に」

「別にはなしな。恥ずかしがるな」

「恥ずかしがってなんかないわよ!」


 何をムキになっているんだ? 私の視線に、イリスは気まずそうにしながら、より近くでドレスを見る。


「黒、とか……?」

「わたし、イリスさんには青が似合うと思います!」


 フォリアが元気にそう言った。青ねぇ……。なるほど。


「そうだな。色の濃い、こちらの青などどうだろうか?」

「……そうね。悪くないかも」


 あまり明るい色は好みではなさそうな雰囲気なんだよな、イリスは。さて、残るは――


「フォリアは?」

「ええ、わたしですか!? いえいえ、そんな!」


 ブンブンと手を振って否定の意を示すフォリア。


「ドレスなんて、わたしにはもったないです! こういうのは貴族とかお姫様が着るもので――」

「ここでは貴族も平民も王族も関係ないんだ」


 私はやんわりと告げる。


「それにこれだけドレスが余っているのだよ? 誰が咎めるものか。何ならウイエやリラにも着せてあげればよい。私はいくらでも用意するよ」

「そ、そうですか……」


 フォリアはやはり顔を赤くしている。フレーズ姫は何やら感激したように手を合わせている。


「ジョン・ゴッド様……。ここでは身分差もない、真の自由があるのですね……」


 君は何を言っているんだ……?

 それはそれとして、フォリアはおっかなびっくり、ドレスに手を伸ばす。


「わたしなんかが、こんな綺麗なドレスを着れる日が来ようとは……。綺麗すぎて迷いますね」

「白、オレンジ、赤――」

「もっと大人っぽいもののほうがいいんじゃない?」


 フレーズ姫とイリスが口を挟む。フォリアは指さした。


「あの緑なんてどうでしょう?」


 森の色、穏やかな緑。ふむ――


「いいんじゃないか。きっと似合うだろう」

「ジョン・ゴッドぉ」


 ふっとどこから湧いたのか、いつの間にかシスター・カナヴィが私の背後に立っていた。


「綺麗なドレスぅ。ワタシにも選ばせてぇ」

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