第47話、対決、サンダードラゴン
ドラゴンが墜落していく。さすが異世界の神の武器。その一撃は、サンダードラゴンが飛行をするに致命的なダメージを与えたようだ。
「当たるわけがないのよ……」
イリスが信じられないという顔をしている。いや、実際――
「当たっただろう?」
でなければ、巨大なドラゴンが落ちていく理由に説明がつかない。明らかに片翼が動いていない。
私は操船台に振り向いた。
「リラ、こちらも下りる。下降してくれ」
「はい、マイスター・ゴッド!」
ドワーフ職人が飛空艇を地表へと向ける。その間に、先に高度を落としたサンダードラゴンが地面に激突して、派手に土煙を巻き上げた。……あれが正常な着陸なものか。明らかにダメージを負っている。
「それがわからない!」
「どうしたんだ、イリス。いきなり大声を出して」
「いえ、だって……。いくら魔法の槍と言っても、一投でドラゴンを落とすなんて……! どんな武器よ――」
そう言ったところで、ふと彼女は口を閉じた。
「いえ、あなたの用意する武器って、そういうものだったか……」
フォリアの時だって――そう言ったところで、ああ、そういえばそうだったかもしれない、と私は思った。フォリアに与えた剣や斧は、一撃で大木も斬れてしまうからね。
「マイスター・ゴッド、着陸しまーす!」
リラが報告した。ドラゴンの墜落現場に近づいているが――
「リラ、もう少し距離をとってくれ。ドラゴンはまだ生きている!」
土煙が収まり、紫色の巨大ドラゴンは起き上がろうと、もぞもぞ動いているのが見えた。あの墜落では死ななかったか。タフなことだ。
「イリス。まだ仕事は残っているようだぞ」
「そのようね」
イリスは剣を抜いた。光の属性、その力を感じるそれは、まさしく聖剣。それを使いこなす者の戦闘力は常人のそれを大きく上回る。王国最強の騎士というのに誇張はないだろう。
ウィンド号がほぼ着陸の高さになった時、イリスが飛び降り、私も続いた。……あ、つい降りてしまった。まあ、いいや。
「ジョン・ゴッド! あなたも来るの!?」
「つい、ね」
君につられてしまったよ。
「邪魔はしないよ」
「さっさと片付けるわよ」
イリスが足を早めた。私が飛空艇にドラゴンから距離を取れと言ったから、少々距離があるのだ。これは仕方ない。ブレスなど吐かれて、ウィンド号に直撃したらおしまいだったから。
サンダードラゴンが頭を上げて咆哮を上げた。怒っているね、これは。
ドラゴンというのは地上最強種族と言われるだけあって、中々土をつけられる状況にはならない。それだけに不快だったんだろうね、空から叩き落とされたことが。
同情はしないよ。君だって、人間の生活環境を一つ破壊してしまったからね。他の種族のテリトリーを破壊すれば、報復が来るのは当然だ。
人間だから、ではない。歯や牙がある生き物ならば例外はない。守るべきものが破壊されたら、攻撃行動に出るのは虫も動物も同じだ。
ゆっくりと、サンダードラゴンは首を巡らせた。私たちがドラゴンの背後から迫っていたからだ。それでも動きが鈍いのは、意外とダメージがあったか、あるいは人間など歯牙にもかけないからか。
その油断、慢心が命取りだ。
イリスは走りながら聖剣に力を溜めている。私の鑑定によると、その一撃は、ドラゴンの分厚い外皮をも貫く!
サンダードラゴンがその長い尻尾を鞭のようになぎ払った。直撃すれば人間の体など容易く両断、あるいはプレスしてしまう破壊の尾だ。
だが――
「光斬一閃ッ!」
イリスの聖剣は、サンダードラゴンの尾を両断した。切れた尻尾が私のほうへ飛んできたので、ジャンプして躱す。危ない、危ない。
サンダードラゴンが先ほどとは違う怒号を発した。痛みは感じたようだ。素早く体を反転させて、攻撃者に向き直ろうとするが、すでにイリスは、ドラゴンの背に飛び上がっていた。
惚れ惚れするほど素早い動きだった。家でのぐうたらな印象はない。聖騎士イリスとして、素晴らしい身のこなしだ。
「ええーいっ!」
斬撃が、サンダードラゴンの背を傷つける。そこは大抵の生き物ならば死角だ。だが首の長いサンダードラゴンは例外だった
その瞬間、電撃が弾けた。ビクンとイリスが痙攣し、バランスを崩した。やったな。サンダードラゴンが、その体から放電したのだろう。よろしくないね、これは。
落下するイリスが地面に激突しないように、浮遊の力を振り向けて落下速度を緩める。
私は手出しするつもりはなかったんだが……まあ、今さらか。
死角と思われたサンダードラゴンの背後。ドラゴンは首を巡らし、口腔を開放する。……ばっちり私を狙っていないかね。
プッシュ! 目には見えない『力』の塊を飛ばして、ドラゴンを殴る!
サンダーブレス! ドラゴンの口から放たれるそれは、私の力の殴打によって逸れて、虚空を貫いた。
雷が落ちた音が至近を抜けていくのは、とんでもなく耳に響く。普通の人間だったなら、今ので鼓膜をやられていたかもしれないね。ちょっとイラっときたね、今のは。
どう料理してやろうか。プッシュを連続で、執拗にサンダードラゴンの頭をぶつけて、奴の気を逸らす。さすがのドラゴンもこれほどの連続打撃を受けた経験はないだろう、それそれ! 脳が揺さぶられて、反撃どころではないかもしれない。
と、そこで一度は電撃でドラゴンの背から落ちたイリスが復帰した。サンダードラゴンが対応できないうちに、聖剣を光らせた彼女は、その長いドラゴンの首に光斬一閃を叩き込んだ。
首と胴が分断された。飛んだサンダードラゴンの頭が地面に落下し、遅れて体も力を失い、横倒しになった。
ズゥンと重量物の振動が辺りに広がる。
「うむ、さすがだな」
私が出しゃばらなくても、王国最強の聖騎士はドラゴンを討伐できたようだ。
「お見事」
言葉をかけたが、イリスは一瞬、何か言いたげな目で私を見た後、ドラゴンの死骸の方へと視線を戻した。
何はともあれ、討伐完了だな。
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