第46話、飛行するサンダードラゴンを追撃
ソルツァール王国南部ダガン町は、すでに廃墟だった。
飛空艇で飛ぶ分はともかく、地上を行くと南部から中央の王城まで報告するのに何日かかるのか。ドラゴンも移動してしまうに充分な時間がある。ウィンド号の甲板から眼下を見下ろすイリスは、至極冷静だった。
「まずは、ドラゴンを探さないといけない」
近くの集落へ移動して破壊の限りを尽くされてはたまらない。周りは雲が出ていて、かすかに空気も冷たかった。
フォリアが呟く。
「雨が降りそうです」
「町の住民は大丈夫でしょうか……?」
フレーズ姫が深刻そうな顔で、焼けただれた町を見つめる。サンダードラゴンのブレスで破壊されたのか、両断されたような建物や潰された建物が目についた。一つとして無傷の建物はないようにも見える。
「あそこに、逃げ遅れた人がいるかもしれません……」
「いるかも……」
ウイエは視覚強化の魔法を使って見ているのか、目がわずかに光っていた。しかし我らが聖騎士イリスは、固い声を出した。
「まずは、ドラゴンを探すのが先よ。少しの遅れが、新たな犠牲者を生むわ」
「……ここの人を見捨てるのですか!?」
フレーズ姫がくってかかった。
「ここで苦しんでいる人々は、今、助けがいるんですよ!?」
「ここで時間を使って、他の町や村が教われた時、助けられたはずの命が失われるかもしれない」
イリスは、まるで壁のようだった。頑として受けつけないそれはまるで鋼のようでもある。
すでに被害を受けている人々か、今これから被害を受けようとしている人々か。
選択を強いられているのだ。
サンダードラゴンを放置した分だけ、人間の犠牲が増える可能性が高い。だから1秒でも早くドラゴンを発見して、犠牲者を減らす。王国を守る聖騎士として、それがイリスの考えなのだろう。
しかしフレーズ姫は、町で犠牲になった人々を助けたいと思っている。自分が人から助けられて育ったから、助けを求める人を見捨てることができないのだろう。助けてほしい人の気持ちがわかるから。
……別に言い争うこともないんじゃないかな?
「ウイエ、フォリア。フレーズ姫と一緒に町に降りて救助活動を。サンダードラゴンは、私とイリスで追撃しよう」
「え?」
「はい?」
適材適所の提案をしたのに、驚かれてしまった。
サンダードラゴン討伐に、フレーズ姫の出番はないし、町の救助活動についてはイリスでなくてもできる。それなら別行動でいいだろう、という話なんだが。……そこまで説明しないと駄目か?
・ ・ ・
ウイエとフォリア、フレーズ姫を町の救助活動に船から降ろして、私とイリス、サポートのリラで、サンダードラゴンを追う。
「適切な判断だとは思うわ」
イリスは私を見た。
「でもよかったの?」
「君をドラゴンのもとまで運ぶのが仕事だからね」
そう頼まれたのだから、役目は果たすさ。
「……で、問題はそのサンダードラゴンの行方ね」
イリスは遠くへと視線を飛ばした。
「飛空艇は早いけれど、敵も空を飛べるドラゴン。どっちへ行ったのかしら……」
「……こっちだ」
ちょっと瞑想すれば、索敵の範囲は広くなるからね。天界から見下ろすように、視野が広がり、そして飛んでいるサンダードラゴンの姿を捕捉する。
「わかるの!?」
「すぐに追いつく」
ウィンド号のスピードを侮るな。飛べるが、飛行する生き物の中で速いかと言われれば、そうでもないのがドラゴンだ。巨体な分、速度は並みだ。……それでも、地上を行くよりは天と地ほどの差があるが。
「……見えてきた」
バチバチっと電撃で発光しているようだが、巨大な物体が宙を飛んでいる。奴のまとう魔力を感じられる。
「まずいわね……」
イリスが呟くが、私の耳には聞こえた。
「何がまずいって?」
「ドラゴンが空を飛んでいることよ!」
振り返って叫ぶイリス。これは奇なことを。
「ドラゴンだって空を飛ぶだろうよ」
「そうじゃなくて! 空にいたら、こちらから攻撃できないし、最悪ウィンド号がドラゴンの攻撃で破壊されるかもしれないわ!」
迂闊に近づけば、まあドラゴンが得意のサンダーブレスを撃ってくる。その読みは当たっているだろう。
ドラゴンは何よりテリトリーを重視する。そこに侵入してくる者に容赦はしないし、不快に感じたら、こちらが何もしなくても間違いなく仕掛けてくるだろう。
「リラ!」
「はい、マイスター!」
下のデッキから、私の声を聞いたドワーフ娘が出てきた。
「操縦を代わりなさい」
「はい!」
バタバタと操縦台に上がってくるリラ。入れ替わるように私は甲板に降り、イリスのいる船首まで移動する。
「要するに、サンダードラゴンを地上に下ろせばいいんだね?」
「そう。……でもどうやるかが問題――」
物質変換――魔槍グングニル、生成。異世界の神が使っていたという魔法の武器。まあ参考にしただけで、本物ではないが。
「ジョン・ゴッド?」
「魔法の槍だ。これを敵めがけて投げると、百発百中という神の世界の武器だ」
スッと私は、イリスにグングニルを押しつける。
「討伐するのは君の仕事だ」
頑張れ。私は運ぶのが仕事で、やっつけるのは仕事じゃないからね」
「神の武器って……」
イリスは呆れ顔である。
「魔法の槍はわかるけれども、これでドラゴンの外皮を破れるの?」
「やってみな。思い切り投げれば、ここからでも当たるからさ」
「……」
イリスは何か言いかけたが口を閉じた。首を横に振り……あ、これ信じていないな?
彼女はぐっと力を込めて、グングニルを
「え……?」
投げたイリスが驚いている。明らかにそういう軌道で飛ぶものではないからね。驚くのはここからだ。吸い込まれるように槍が見えなくなってすぐ、サンダードラゴンが傾き、地上に向かって落ち始めたのだ。
「え!?」
「命中だ」
わかっていたけどね。
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