第43話、加護を賜ったお姫様


 わたくし、フレーズ・ソルツァールにとって、ジョン・ゴッド様のお屋敷は、キラキラした宝石箱のような場所です。


 何もできないわたくしは、ジョン・ゴッド様がしたように、人々の役に立てる人間になりたいと願い、教えを乞いました。

 ジョン・ゴッド様は、わたくしはわたくしなので、慌てずともよい、とお言葉をくださいました。


 千里の道も一歩から、という言葉があるそうです。どんなものにでも基本というものがありますから、わたしくはそちらから学ぶことにしました。

 友人であるウイエは魔術師ですから、魔法に関しては専門家です。とても優秀な教師が近くにいたわけです。


 それともう一人、こちらには教会のシスターの方がおられまして、カナヴィ様とおっしゃるのですが、わたくしに魔法についてご教授頂けることになりました。

 このカナヴィ様も、ジョン・ゴッド様同様かなり不思議な方です。フォリアさんやウイエも、カナヴィ様が何故魔境にいるのかわからず、いつの間にか、屋敷に居着いているのだとか。


 ただ、ジョン・ゴッド様の紹介なのだそうで、教会の方ですし、心配はないと思います。


 それで、魔法を教わるわけですが、魔法を使う、とは魔力を感じて、イメージし、言葉による補強を行い、行使するもの、と、ウイエは言いました。


 カナヴィ様は、魔法はイメージでいけると言いました。言葉、呪文は補強材料だけれど、それなしでも使えれば一流……なのだそうです。


 初日のトレーニングは、魔力を感じることからスタートしました。魔力というのは、わたくしの体にも、生き物ならばほぼ持っているもの、ということですが、そこから魔力を感じるのは、中々難しいものがありました。


 この点は、わたくしがすでに成人するほどの歳を重ねてしまっていることも、難しいとされる要因だとか。魔術師になるような方は、幼少の頃から魔力を感じ、それを意識して生きているのだそうです。

 初日のトレーニングの後、ウイエは言いました。


「あのカナヴィって人、用心したほうがいいかと思います。あの人、シスターの格好してますけど、絶対教会の人間じゃありません」


 ……そうですか。わたくしも、教会の方にしては、お祈りしているところや説法をしているのを見ていないので、薄々そんな気がしてました。


 ともあれ、わたくしの勉強は始まり、お屋敷の図書室で魔術の本などを読み漁り、魔法や魔力についての理解を深めました。やはり世の中知らないことも多いのですね。ジョン・ゴッド様の図書室にある本は、まさに知識の森です。そこで勉強して、それと魔力のコントロールする術を実践して、少しずつ魔法を覚えていきます。


 それから数日としないうちに、図書室で勉強しているところをジョン・ゴッド様がお訪ねになりました。


 わたくしに渡したいものがあるとか……! 一体何でしょうか! まったくの不意打ちでしたから、ビックリしてしまいました。こういう形で言われるのは初めてでしたから……。


 ジョン・ゴッド様のお部屋に初めてお邪魔したのですが、見たところ、趣がありました。煌びやかさはなく、落ち着いた雰囲気です。

 以前、王族や貴族のお部屋は権力の誇示も兼ねて、絢爛豪華にするものだと聞いたことがありますが、ジョン・ゴッド様はそういった豪華さはありませんが、部屋の構図のせいかお洒落さはありました。


 そして肝心のお話ですが、ジョン・ゴッド様は仰いました。


「――君を呼んだ理由だけれどね。大いなる神様が、君に加護を与えると言っているので、それを渡そうと思ってね」


 なんと、神託をジョン・ゴッド様は受け取っておりました。それもわたくし宛てに、大いなる主が、加護を授けてくださると……!


 何ということでしょう! こんなこと、ありますか!? いや、ないです。こんな奇蹟、そうそう起こるものですか!


 大いなる主は、わたくしのこれまでを見守ってくださったというではありませんか。そしてジョン・ゴッド様を通じて、加護を与えてくださる……。いや、ジョン・ゴッド様、もうあなたが神様ではありませんか! ええ、きっと主と言っていますが、ジョン・ゴッド様がお隠しになられているだけだと思いました。


 そして主、ジョン・ゴッド様は、わたくしに加護を授けました。光属性の全ての魔法を使えるというものです。魔法さえ覚えれば、ジョン・ゴッド様がネサンの村で行った奇蹟の力を身につけることも夢ではない、と。


 この時のわたくしの気持ち、わかりますか? 一からコツコツと。わたくしはジョン・ゴッド様のようにはなれないと言われて、自分なりに頑張ろうと思っていた時に、彼はわたくしのために加護を用意してくださったのです。


 ええ、ええ、正直、わたくしは少しガッカリしていました。人の力になりたい、けれどすぐにジョン・ゴッド様のような力は得られない。努力は必要ですし、いっぱい勉強も必要です。でもあの方の高みは、果てしなく遠く、その道のりの長さに些か途方に暮れていたところもありまして……。


 それなのに……。主は、わたくしをお見捨てになられなかったのです! ありがとうございます! ジョン・ゴッド様!


 わたくしが感謝を告げますと、ジョン・ゴッド様は笑顔で、主神様と自分が違うからと念を押してきました。


「さっきも言ったけど、神様は見ているからね。君がそのまま清らかな心を持ち続けること、神への感謝を忘れなければ、君に加護を授けた神様も喜ぶだろうね」


 そのお言葉に、わたくし感銘を受けました。主が喜んでくださるのであれば、このフレーズ、誠心誠意、日々を刻んで生きていきます!


 加護を受けたことで、わたくしは早速ジョン・ゴッド様とお庭に出て、魔法の実践をしました。


 もうこれが、凄いのなんの……! イメージして、短く言葉を発したら、噓のように光属性の魔法がどんどん使えるではありませんか!


 魔力の感覚を掴みかけていたところではありました。けれどまだ魔法を形にできなかったのに、主の加護を賜ったら、ポンポン魔法が出る。光を操れます!


 ウイエから教えていただいた魔法や、図書室の本で学んだ魔法が面白いように形になります。もう気分は一端の魔法使いです。


 あぁ、ジョン・ゴッド様。あなた様はわたくしにいつも素晴らしい贈り物をくださる……! 


 魔法が使えるようになり、ウイエはビックリしていました。昨日まで魔法のまの字も使えなかったわたくしが、いくらでも魔法を使えば、それは驚いて当然です。加護をいただきました、と答えたら、ジョン・ゴッド様のもとへ駆けていきました。……言わないほうがよかったかしら……?


 シスター・カナヴィは、わたくしが魔法を使っているところを見かけても、特に驚くこともありませんでした。

 静かにニッコリと笑みを浮かべて、こう仰いました。


「よかったですね」


 あぁ、この方もわかっていらっしゃる。きっと大いなる主、ジョン・ゴッド様にお仕えする神のお遣い様に違いありません。これだけお美しい方ですから、もしかしたら守護天使様なのかもしれません。それならば、このような魔境に、ジョン・ゴッド様のお近くにいらっしゃるのも理解できます。


 わたくしは、賜った力を、よい事に、人の役に立てるように使っていこうと改めて誓いました。わたくし、もっと頑張ります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る